片足で10秒立てるかどうかは老化の優れた指標、あなたはできる?

  • 2025年5月14日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

片足で10秒立てるかどうかは老化の優れた指標、あなたはできる?

 片足で10秒間楽に立つことができなければ、それは体が何かを伝えようとしているのかもしれない。「片足立ちは、特に優れた老化の指標です」。米国で痛みや動作、健康に関するクリニックやトレーニング施設、研究所を開設しているクレイトン・スカッグス氏はそう話す。

 米メイヨー・クリニックが行い、2024年10月に学術誌「PLOS One」に発表された研究によれば、片足で立っていられる時間は、筋力や歩く速さ以上に老化の度合いをよく表している。また専門家によると、神経と筋肉の健康度だけでなく、ほかの疾病が明らかになることもあるという。

「(バランス能力を)ほかの病気の有無の診断に活用しています」と話すのは、神経系臨床専門士で米ダートマス・ヒッチコック・メディカルセンターの理学療法臨床指導者であるパルミンダー・パジェット氏だ。「運動不足が続けばバランス能力が低下することはわかっていますが、脳の問題が原因である場合もあります。それを解明するのも、私たちの仕事です」

 バランス能力は、糖尿病、関節炎、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病など、さまざまな慢性疾患によって徐々に奪われていく。慢性疾患には、神経や固有受容覚(体の位置や動き、力の入れ具合などを感じる感覚)に影響を与えるものもあれば、認知機能や意志決定を妨げるものもあるが、バランス能力はその両方に関係する。

 つまり片足で、しかも目を閉じて立つというのは、くだらないテストのように思えるかもしれないが、実は驚くほど総合的な検査なのだ(編注:先述のメイヨー・クリニックの研究では片足立ちの検査は目を開けて行っている)。バランスをとるのは複雑で、目、耳、関節、筋肉、脳のすべてを駆使する必要がある。

 しかし、多くの人が座りっぱなしの生活を送るせいもあって、40歳を過ぎると、バランス能力が徐々に低下していく。

 その先に待ち受けているのは、転倒や骨折だ。すると動くことに自信が持てなくなり、移動を避けるようになって、小さな世界に閉じこもることになる。米疾病対策センター(CDC)によれば、米国では2021年に転倒事故によって死亡した65歳以上の人が3万8000人に上る(編注:厚生労働省の人口動態調査によれば、日本では2023年に1万1058人の65歳以上の人が転倒・転落・墜落によって死亡した)。

 しかし、バランス能力の低下を防ぐ方法も明らかになってきている。

次ページ:バランス能力が衰える原因と、取り戻す方法

バランス能力が衰える原因

 バランス能力は、視覚、体性感覚系(筋肉、関節、皮膚、筋膜からの感覚を伝える神経系)、内耳にある前庭系(頭の位置や動きを感知する部分)が連携し合うことではたらく。そのいずれかが狂い始めると、平衡感覚も狂うことになる。

「体の外側にシワができるように、内側にもいわばシワができるのです」とパジェット氏は言う。「ただし、脳の仕組みをうまく使えば、それに適応できます」

 逆に言えば、使わなければ失われるということだ。ただし、スカッグス氏によると、40歳を過ぎれば必ず衰えるというものでもない。

「加齢による変化と、きちんと健康管理をしないことによる変化は混同されがちです」と氏は言う。筋肉の量、関節の可動性、感覚の精度など、自然に衰える能力もあるが、私たちが「正常な老化」と考えるものの多くは、長期的な健康管理の不足に起因している。

「座った状態から立ち上がろうとするとき、手を使わなければ立てないと感じはじめると、毎回手を使うようになります。すると、それが立ち上がるときの習慣になり、足を使わなくなって、ますます衰えが進むのです」。このような補助動作や用心深さが、能力の低下につながるということだ。

バランス能力を取り戻す方法

 ただし、バランス能力はずっと変わらないものではない。鍛えることも、回復させることも、保つこともできる。そしてそれは、何歳からでもできる。そのためには、体を動かし、頭を使う必要がある。

「人間は体幹でバランスをとるようにできています。片足立ちをするときも、トイレで腰を下ろしたり立ち上がったりするときも、キッチンで何かを取ろうして手を伸ばすときも、体幹で体を安定させるようにしましょう」とスカッグス氏は話す。

「そうしないと、そのような単純な動作をするだけでも、背中の上側の筋肉やハムストリング(太ももの裏側の筋肉)、胸筋を使うことになります」。それがパターンになりはじめると、体幹に近い部分のバランス能力が衰えていく。

次ページ:おすすめのトレーニング法

 注意すべきは50代だ。この時期に運動能力が衰える人は多い。「『仕事を辞めて、いつも座ってテレビを見ています。ずっと働いてきたので、大丈夫でしょう』とか『クロスワードパズルをしているので、頭は使っています』という話をよく聞きます」とパジェット氏は言う。しかし、それでは十分ではない。運動が必要だ。

 パジェット氏が取り組んでいるのは、「デュアルタスク(二重課題)」だ。これは、身体活動と認知課題を同時にこなすトレーニングで、バランス能力を鍛えることができる。たとえば、歩きながら「『あ』で始まるもの」「果物の名前」などを挙げていく。

 重要なのは、加齢に合わせて、さまざまな動きを取り入れることだ。これは、特に内耳の前庭系を鍛えるために必要になる。「耳は、頭の向きや、上はどちらか、今まっすぐ立っているかどうかを脳が把握するのを助けています」とパジェット氏は言う。

「脳は、その情報を使ってどちらが上かを判断しなければなりません」。氏のおすすめは、ヨガのダウンドッグ(下向きのイヌのポーズ)など、頭が下がるポーズだ。

 とりわけ効果的なのが、ジャグリング、ハイキング、フリスビーなど、予測できないことが起こる活動だ。「複雑な行為ほど、対応力が求められます。つまり、反応性バランスが鍛えられるのです」

 裸足で過ごすことも効果的だ。「裸足でいると、感覚情報が明確で有益なものになり、足の能力も高まります」とパジェット氏は話す。

 フォームパッド(スポンジ素材の敷物)の上に立つ、舗装されていない道を歩く、バランストレーニングを目を閉じてやってみるといった小さな変化を起こすだけでも、使われていない機能を呼び覚ますことができる。

 何よりも重要なのは、運動を楽しむことだ。「私自身ももちろん、やっている運動がすべて楽しいわけではありませんが、終えるといつもすっきりします。体にいいことはわかっていますし、やりたいことはほぼ痛みを感じることなくできています」とパジェット氏。

 全身を使うバランストレーニングによって、身体機能だけでなく、記憶力や空間認識力も向上することは、研究で示されている。「一番重要なのは、動くことです。それも、できるだけたくさん動くことです」とパジェット氏は言う。「そのために、楽しみながらできることを見つけましょう」

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