『世界で一番嫌いな女』より / (C)ただっち/KADOKAWA
大学時代から付き合っている優しい彼にプロポーズされた26歳のOL・エリ。順風満帆な人生を送っているかのように見える彼女ですが、実はまだ彼にも明かしていない大きな不安を抱えていました。それは、実の妹・まりあの存在で…。
姉と妹の確執を描いたセミフィクションコミックエッセイ『世界で一番嫌いな女』。「姉妹の関係がリアルで怖い!」、「うちの妹とも似てるところがある」と大きな話題を呼んでいます。今回は、作者のただっちさんに作品を描いたきっかけなどについてお話を聞きました。
『世界で一番嫌いな女』あらすじ

26歳のOL・エリは、大学時代から付き合っているカズマと婚約し、幸せの絶頂にありました。でも、彼女の心の奥底にはいつも「暗くてドロドロした感情」がこびりついていたのです。その元凶は「あの女」…実の妹であるまりあの存在でした。

小さな頃から姉の持っているものを羨ましがってばかりだった妹のまりあ。いつも周囲の人々を味方につけて可愛がられ、エリの大切なものを強引に奪ってきたのです。エリは大人になって独立し、そんな妹とは距離をとってきました。でも、カズマを連れて実家に結婚の挨拶に行った際、会いたくなかった妹が同席する流れになってしまいます。親しげに会話をするカズマと妹を見て、何やら嫌な予感が…。
「長女」としてのモヤッは実体験。登場人物たちに込めた「ドス黒い感情」

――まず初めに、姉と妹の確執をテーマにした作品を描いたきっかけを教えてください。
ただっちさん:しばらく連続で主婦の不倫モノの漫画を書いていたので、担当編集さんと話し合い、恋愛の中でも別のテーマで何かおもしろいものは出来ないかと考えました。とはいえ、私の技量では、自分とかけ離れすぎた主人公だとリアリティがなくなってしまいます。そこで、今回の「姉と妹の確執」というテーマがぴったりだと思いました。
実際に私が体験した「長女」としてのモヤッと、どうしても好きになれない同性への不快感、なんだかんだおバカな女の子が好きな男性たちへの疑問、甘え上手な同性への嫉妬・・・そんな私のドス黒い感情を登場人物たちに練り込める!そう思いました。
――『世界で一番嫌いな女』が「血の繋がった家族」であることにゾッとしました。この設定はどんなところから思いつきましたか?
ただっちさん:嫌いな女が「妹」だった場合が一番厄介だと思ったからです。日常生活の中で「嫌いな人」がいたとしても、一生付き合っていくわけでもありませんし、自分から離れることもできます。しかし家族の場合、どんなに顔を合わさないように努力しても限界があります。家族が集まれば、自ずと妹の情報が入ってきますし…。
また、両親との関係が良好なら、一層難しいと思います。小さい頃から「妹」を可愛がり、世話をすると「いいお姉ちゃん」だと褒められて育つ「姉」。嫌いだとか、会いたくないだとか、ネガティブな感情を抱くことすらなんとなく罪悪感を抱いてしまう人が多いのではないでしょうか。姉を嫌う妹よりも、妹を嫌う姉の方が苦しいと思います。

――クールでしっかり者の姉・エリと、可愛くて愛嬌のある妹・まりあというキャラクターはそれぞれどうやって生まれたのでしょうか。
ただっちさん:SNSでよく見かける「姉妹あるある」「長女あるある」通りのキャラクター像にしました。実際私と妹も、面白いくらいそれに当てはまりましたし、きょうだいに関する心理学の書籍でも一致していました。
特に女性は、長女の甘え下手、末っ子の甘え上手を実感することが多いのではないでしょうか。エリには妹から見た長女の可愛くないところ、まりあには長女から見た末っ子のずるくてあざといところをギュッと詰め込みました。
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姉のエリの人物像について、「親の愛情不足が原因で、自己評価が低く他人の顔色を伺ってしまうという点で、一部『アダルトチルドレン』の特徴もありますね」と語ってくださったただっちさん。妹も母も簡単には縁の切れない「家族」だからこそ、割り切れない気持ちは大きくなるのかもしれません。
取材・文=宇都宮薫