『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ
昨今、思春期以降の子どものスマホ利用について、悩まない親はいないかもしれません。スマホを持たせることで勉強時間がなくなるのではないか、いじめなどの問題行動が起こるのではないか、など心配ごとは尽きません…。
漫画家・きむらかずよさんが新作コミック『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』で描いたのは、女子中学生がSNSでのトラブルに巻き込まれて犯罪被害者になってしまったケース。「オンライングルーミング」と呼ばれる手法の巧妙化にともなって、こうした被害が多発しています。
決して対岸の火事ではないエピソードについて、作者のきむらさんにインタビューしました。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』あらすじ
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
「ひかり」は中学2年生の女の子。両親との交渉の結果、念願のスマホをゲットできて大喜びです!
一方、ひかりの母親は「9時以降はスマホ禁止」や「勉強も頑張る」「知らない人とはやりとりしない」といった約束事を取り決めますが、完全に心配がなくなったわけではありません。
ひかりは学校外の友人たちとも連絡先を次々と交換し、LINEでのやりとりを始めます。「LINEは本当に仲のいい子だけにしておきなさい」とたしなめる母親。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
しかし、ひかりは「本当に仲のいい子だけにしたら誰もいなくなっちゃう」とつぶやくのでした。
さらに、写真投稿アプリも開始。SNS上だけの関係「ネッ友」たちとの交流に没頭していくのです。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
その背景には、学校の友人グループのトラブルがありました。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
ある日、ささいなことでグループの一人が仲間はずれにされてしまいますが、それはひかりにとって「普通にあること」。思春期の揺れ動く人間関係の中で、自分の居場所を探すひかりの言動は、母親にとっては不可解なものでしかないようです。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
そんなある日、塾の帰り道にひかりは、変質者に追いかけられてしまいます。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
途中にあるコンビニに入りいったんは難を逃れますが、仕事中の両親には連絡がつかず、ひかりは不安でいっぱいです。
そのとき連絡をくれたのは、ネッ友である「ひな」でした。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
ひなに、泣きながらいまの状況を伝えているうちに、ひかりが通う塾の講師である山崎先生がコンビニに入ってきました。先生のおかげで、ひかりは無事に帰宅できたのです。
その後も、ネッ友・ひなとのやりとりを続けるひかり。ある日ひなは、ひかりに自撮り写真を送るように要求してきたのです。
本心では送りたくないひかりでしたが、先日の学校の友人とのトラブルで、人間関係にトラウマを抱えてしまったひかりは、ひなに離れてほしくない一心で、自撮り写真を送ってしまうのでした。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
この出来事が、大きなトラブルの元凶になるとも知らずに…。
著者・きむらかずよさんインタビュー
――本作は、中学2年生のひかりが、誰かに送るために自分の体をスマホで撮影する衝撃的なシーンから始まります。しかし、ひかり本人の性格や行動はいたって普通で、家庭環境も悪いわけではありません。ひかりをこのようなキャラクターにしたのはなぜでしょうか?
きむらかずよさん:誰にでも起きるかもしれない、という意味でも、共感してもらいやすい一般的な女の子にしました。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
――ひかりは、SNS上で知り合った友達と仲を深めていきます。リアルで仲のいい友達がいないわけではないのに「ネッ友ぐらいがちょうどなんでも打ち明けられる」と言うひかり。一見ほがらかで明るく見える彼女は、なぜこんな発言をするに至ったのでしょうか?
きむらかずよさん:この言葉は、10代の子ども達には、特別な言葉ではないのではと思います。「切ろうと思えばすぐ関係を切れる人のほうが、なんでも話しやすい」という考え方の子どもも少なくないようです。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
――LINEがきっかけで仲の良い友人との関係をやめたり、SNS上だけの知り合い友達と仲を深めたりと、スマホを持ってからのひかりは親の理解を超えた行動をするように。このときひかりの母親は、不安を感じながらも何もできずにいました。このときの母親の心境はどんなものだったと思われますか?
きむらかずよさん:我が子のことはなんでもわかっていると思っていたのに、突然我が子が全くの別人に見えてしまう、という感じでしょうか。
――オンライングルーミングの加害者が、学校での悩みを聞くことで信頼関係を築き、ひかりの心の隙間に入り込んでいくさまがよく分かりました。ごく普通の少女がトラブルに巻き込まれていく過程を描くときに苦心したことはありますか?
きむらかずよさん:実際、どのように巻き込まれていくのだろう、ということは、色々調べました。調べていく上で、少女達が巻き込まれていく実際にあった性犯罪の資料を読むのが、親として何より辛かったです。
『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より / (C)きむら かずよ/KADOKAWA
* * *
誰かに送るため、ひかりがスマホで自分の体を撮影しようとするシーンから始まる本作。タイトルを含め衝撃的な内容ですが、「オンライングルーミング」との闘いを通して、子育てに向き合う親子の姿を浮き彫りにしています。
この本を読んで、子どもとのコミュニケーションを見直してみるのもいいかもしれません。
取材・文=山上由利子