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Vol.75 僕なりの考えを進めて、新しい一歩を踏み出しました。

  • 2011年6月23日

前回は、本当に駆け足ではありましたが、石巻や女川で僕が実際に見て聞いてきたことをレポートしました。衝撃も大きかったですが、それでも行って良かったなと思うのは、やはりその場に行ってみないとわからないことというのがあるし、すごく実感的に被災地のことを考えられるということです。

例えば、「復興は長期戦になる」みたいなことがよく言われていますが、そこで言う長期戦とは5年とか10年くらいの話だと思うんです。でも、あれだけ圧倒的なものを見せつけられてしまうと、その程度の時間で本当に復興できるのかなと思ってしまうんですよね。あるいは、「ありが豚」の豚舎の海側にちょっと行ったところは畑だったそうなんですが、僕が見たその付近は畑作に使う土が根こそぎ持って行かれて、その下の岩盤層みたいなところが出てきていて、もう塩害がどうのという話じゃないんです。それに、女川では高速から下りて窓を開けた瞬間からもう潮の臭いがするんです。考えてみれば、当たり前ですよね。ついこの間まで海底だったわけですから。そういう感覚というのも、やっぱり現場を見てみないとわからないですよね。

そういうなかでがんばって営業しているお店がポツンポツンとではあるけれど、いくつかあって、そういうお店のひとつ、トンカツ屋さんでチキンカツを食べました。これがまたおいしかったんですけど(笑)。だから、本当にそういう人たちを支えていかないといけないと思うんですが、その支え方というのはいろんなやり方があっていいと思うんです。音楽について言えば、そもそも音楽というものは好きな人とそうでもない人がいて、好きな人はものすごく力をもらってくれるけれど、そうでもない人はやっぱりそうでもないんですよね。だから、こっちが全能感みたいなものを持って「あなたたちを救いにきました」みたいなことを言い始めるのは認識が足りないし危険です。こちらは“一人でも二人でもいいから音楽の力を共有したいという人がいるところに行くんだ、文句は出ても当たり前”という意識で出かけていかないときっとうまくいかないでしょう。自分の行動によってさらに悲しい思いをする人がでたり、人間関係に亀裂を生じさせる事のないように精一杯努力することはもちろん、できるだけ多くの人に相談することも大事だと思います。

ただ、僕が信じているのは、ポイントは順番じゃないということです。例えば、「家がない人はまず仮設住宅に入ってもらって、あるいは食べているものが毎日パンと牛乳だったのが温かいゴハンになって、その後で音楽だろう」とか、そういう話では必ずしもないと思っているということです。衣食住が足りているとは言えない状況でも、音楽というものの力を発揮する場面があるように思うし、特にアカペラとか合唱というようなものは人間の身ひとつでできるもので、加えて人間関係が必要なんですよ。みんなで力を合わせてひとつのものを一緒に作るということが必要です。それをもし一緒にやれたら、音楽を楽しむということ以上の効果があるということは僕は身にしみて知っています。だから、学校の先生たちが共感してくれて、音楽の選択授業みたいな感覚で捉えてくれれば、けっこういろんなことができるんじゃないかなあと思っているんですけどね。

音楽 それに、僕自身にとっては、自分が信じてやっている音楽に力があること、音楽に接することで楽になる人たちがいるということを実感できるということ自体が救いなんです。そう言ってしまうと、やっていこうとしている取り組みが、輪の外から見たときに身勝手なものであるような印象を与えるかもしれないけれど、もしそうならそれもいいと思っています。一緒に音楽の力に触れて、「楽しいね」「良かったね」と言いあえる人が一人でもいるんだったら、その人に会って、その意識を共有することが僕にとって救いなんです。同じように考えているミュージシャンはすごく多いんです。何かしたいと思っているんだけど、被災地の人たちの迷惑になっていけないということで、悶々としている人も少なくないと思います。だから、そういう音楽家たちがその気持ちを継続的につないでいけるような枠組みを作りたいなと考えました。

それで、仲間と会社を立ち上げました。名前は「Always with Smile」(AWS)といいます。その業務は、平たくというと、マッチング・サービスみたいなことです。「こういう状況の人達がいて、こういうことを求めている」という話があったときに、それに対して東京にいる音楽家をはじめとする様々なアーティストの人たちと現地の人たちをつなげて何かできたらいいなというわけです。しかも、その場合にアーティストに対して時間と労力を割いてもらったことに対する金銭的なものを含めたお礼ができるような仕組みを作らないといけないと考えています。まだ立ち上げたばかりなので、文字通りの試行錯誤が続いていますが、AWSでの取り組みもこの連載で随時ご紹介していきたいと思います。期待していてください。


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