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Vol.140 世界的パティシエのとても素晴らしい取り組みを知って、大いに刺激を受けました。

  • 2014年2月13日

 みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

 いまさら、あらためて言うことでもないのですが、この連載は僕の思考実験、と言うのもおそらくかっこよく言い過ぎで、正確には僕の妄想、それによって8割くらいは構成されています。その妄想をふくらませていく過程で、何かの刺激を受けて“こうなったら、いいなあ”と思うことも多いわけですが、その僕の“こうなったら、いいなあ”がまさに現実の社会で実践されている!と感じるような事例もこれまたたくさんあって、しかも今やインターネットやSNSのおかげで、そうした事例を比較的簡単に知ることができるようになっているわけですが、先日も非常に興味深い取り組みをみつけました。

 世界的なパティシエであるコヤマススムさんが、兵庫県三田市にある自身の制作工房の一画に、小学校6年生以下の子供しか入れないお菓子のお店、その名も「未来製作所」を作ったという話です。それは「最近の子供は伝える力が十分ではないから、その力を育てるために、また親子間のコミュニケーションを増やすために、子供が親に伝えたいと思うようなものを作りたい」という思いで、コヤマさんが実現したものだそうです。コンセプトは、“子供の「ミテミテキイテ」と大人の「キキタイシリタイ」をつなぐ”ということなんですが、コヤマさんに何度か会ったことがあるというこの連載のスタッフによると、とても情熱的で、またとても構想力がある方だそうです。確かに、この取り組みには元のイメージをしっかり形にしていく構想力が必要だろうし、そして絶対に簡単ではないであろう実現までの道筋を走り切る強い情熱が必要だと思います。その上で、僕はなにしろ、この取り組みの構造が素敵だなと思ったんです。ひと言で言えば、「子供だけの夢の国体験」ということですよね。そんな体験をしたら、誰だって家族や友達に話して聞かせたくなりますよ。そこで僕は思うんですが、コヤマさんはおいしいお菓子を作るのが得意だったから「未来製作所」にはお菓子があっただけで、子供にとっての夢の国にあるのはお菓子でなくてもいいですよね。仮にコヤマさんの真似になったとしても、それぞれが自分の得意分野でやればいいと思うんです。

 それから、この取り組みに心惹かれたもうひとつのポイントは、世の中にありがちな“こうしときゃ、いいんでしょ”的なものとは違うCSRだなあということです。コヤマさんご自身はCSRというような意識でやっているのではないかもしれませんが、それにしてもパティシエが「お菓子の夢の国」と作って、親子の未来の可能性を広げるというのは、仕事を通した社会貢献の最高の形であるように僕には思えます。あるいは、世の中に対して何かはたらきかける場合に、「世の中のために」とか「人のために」というよりも「自分がやりたいからやる」というモチベーションのほうがいいと思う、と僕はずっと言い続けてきましたが、その方向からこの取り組みを説明すれば、自分の仕事として利益を追求している立場の専門性から見た、自分が思う「より良い社会」への到達方法の提示のひとつだなあと思います。

 個人的なものの見方、感じ方というレベルでも、それこそネットなどの発達で、何も説明しなくても、自分と同じ指向性(嗜好性)を持った人が簡単にみつかってしまう現代社会で「“なんとかして伝えなきゃ”と思わせよう」という発想はこれまでの僕にはなかったので、大いに刺激を受けました。それは、最近よく考えていることについての、とても示唆的なヒントをもらったような気もしているのですが、このあたりの話はまた次回ということで。


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