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Vol.124 大切なのは、小水力発電所の向こうにどういうビジョンを描くかということ

  • 2013年6月20日

 みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

 今回も、前回に続いて、丸紅で小水力発電の事業に取り組んでいらっしゃる大西英一さんのお話から紹介します。

 そもそも商社である丸紅が電力事業に取り組み始めたのは、2000年に電力自由化の第一弾として大口の電力消費者、例えば大きなビルや工場は、電力会社以外からも電気が買えるようになったのがきっかけです。ちょうどその時期にある企業が手放そうとしていた長野県の三峰川(みぶがわ)にある水力発電所を購入し、大西さんもそのタイミングで水力発電と関わるようになりました。大西さんは、三峰川に7年居て、その間には発電所の所長も務めたそうです。水力発電所長もできる商社マンって、なかなかかっこいいですね(笑)。それはともかく、一般に1000キロワット以下と区分される小水力発電に大西さんたちが目を向けることになったのは、限られた条件のなかで最大の成果を上げるための試行錯誤の末のことだったようです。

 大西さんによれば、水力発電事業を進める上でいちばんの課題は水利権です。三峰川発電所は丸紅が取得した時点ですでに毎秒10トンの水利権を持っていましたが、それ以上の水利権を得ようとすると、それを定めている河川法というすごくややこしい法律と向き合い、監督官庁である国土交通省の非常に厳しい審査もクリアしなければいけないということで、時間的/物理的に非常に難しい作業になることははっきりしていました。だから、すでに持っている範囲の中で「自分たちが使える水をもっと有効に使えないか?」ということを考えていった先にあったのが小水力発電という形だったわけです。ただ、三峰川発電所を購入した直後の2001年に事業化のための調査をやってみると、その時点ではまったく採算がとれないという結果が出て、いったんは諦めかけました。しかし、2003年にRPS法が施行されて再生可能エネルギーの電力は少し高く買われることになったので、あらためて検討し直し、2006年に三峰川第3発電所が、さらには2009年に第4発電所が作られました。こうした一連の経緯とそれにまつわる苦労は、再生可能エネルギーの事業化に取り組んでいらっしゃる方々はそれぞれに大なり小なり経験されていることなんだろうと思います。そして、そうした経緯を経て生まれたこの2つの発電所が備えている様々な工夫はどれもなかなかに魅力的というか面白い仕組みなんですが、詳しい紹介はここでは割愛します。

川子石発電所
川子石発電所:
北杜発電所の一つ。風景に溶け込むような小さくシンプルな作りで、発電に使用した水は目の前の川にそのまま流れます。
 ただ、ひとつ強調しておきたいのは、この2つの発電所や前回紹介した蓼科の発電所、さらには昨年3月に運転を開始した山梨県北杜市の発電所といった大西さんたちが扱っている事例のどれもが「誰が、何処で、どんなふうに発電しているのか」ということをそれぞれの地域にカスタマイズする形でやっているということです。それは、営利企業の観点から見ればあまり効率のいいやり方ではないということになるかもしれませんが、しかし僕たちが環境と共生しながら同時に必要なエネルギーを手に入れるという、言わば二兎を追う場合にはやはりこういうスタンスがとても大切だと思います。しかも、大西さん自身はやはり商社マンですからシビアに採算性、収益性ということ考えていて、ただその尺度が一度に大きな予算を動かしてドーンと儲けようという発想ではなく、全国に同じような施設が多く生まれる、その全体としての収益性を考えたり、50年、100年というタイムスケールのなかで考えたりしているところに、現場で積み上げてきた発想のタフさを感じました。それに、水力発電の設備はちゃんとメンテナンスしてれば100年経っても使えるそうで、現実に今も大正時代の設備がちゃんと稼働しているわけですから、むしろ50年、100年という単位でこそ考えるべきものでしょう。そういう意味でも、この小水力発電の取り組みはひとつの未来モデルを示していると言えるかもしれません。

 未来モデルということで言えば、小水力発電の設備自体は敢えて言えばひとつのエネルギー・インフラに過ぎないわけで、そういう施設が作った後、そういう形で発電事業が行われていることを契機として人やお金、産業や雇用を生み出していく新しい枠組みを考えられるかどうかということこそが重要だと思います。


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