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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第78回 GDPを超えて〜幸福の原点「民主主義」を構築

  • 2010年7月15日

特集/新しい国のかたち〜持続可能な社会に向けて GDPを超えて〜幸福の原点「民主主義」を構築
麗澤大学経済学部教授 大橋照枝

GDPを超えて

 地球のサステナビリティ(持続可能性)が問われている。まず温暖化対策については、鳩山イニシアティブで、何とか日本の責任を明確にすることができた。また、サステナビリティの重要な定義の一つの「経済」と「社会」と「環境」(トリプルボトムライン)の帳尻を合わせることについては、経済の指標であるGDP(国内総生産)偏重への見直しや変革がここ2〜3年「GDPを超えて(Beyond GDP)」のかけ声として高まってきた。本稿では後者を中心にGDPを超えた尺度への考え方や、筆者が開発してきた持続可能な社会厚生指標「HSM」(Human Satisfaction Measure:人間満足度尺度)研究の最新の報告をする。

正確で透明で質の高い情報が民主主義の出発点

 「GDPを超えて」の高まりの一例は、2007年11月19〜20日にベルギーのブリュッセルで、欧州委員会、欧州議会、OECD(経済協力開発機構)、WWF、ローマクラブの主催でBeyond GDP 会議が開催された(本誌2008年5月号参照)。とくに、この諸機関の中でもOECDの動きが注目される。
 OECDは第1回の国際会議を2004年11月にイタリアのパレルモで、第2回を2007年6月にトルコのイスタンブールで、第3回は2009年10月27〜30日に韓国釜山で開いており、テーマは3回とも「統計・知識・政策」である。OECDが一貫して「統計・知識・政策」にこだわるのも、GDPの尺度の不十分さ(GDPは戦争や交通事故や自殺、離婚、環境破壊といった人間の幸福にとってマイナスの事象を経済効果として加算する)を改善しようとの強い意思の表れだ。OECD会議はとくに統計局が中心母体となっている。
 釜山会議でも「GDPを超えて」のキーワードは幾度か耳にした。しかしGDPを超えての意味は、社会の進歩・発展を否定するものではない。従来型のGDPの成長のみを進歩とするのでなく、会議のサブタイトルの「進歩を描き、ビジョンを立て、生活を改善する」にもあるように、人間と地球の幸福にとって不可欠な真の進歩を描こうというのがねらいである。
 2009年3月に京都でアジア太平洋地区のOECD国際会議があり、会議の後の3日間のトレーニングコースにも参加したが、半日間の民主主義の特訓を受けた。その真意は、「正確で透明で質の高い情報を得てそれを使ってディベートすることが民主主義の鉄則」との考え方だ。民主主義など日本人は空気のように思っているが、世界の先進国をリードするOECDが民主主義の原点を常に念頭においていることに感銘すら受けた。もちろん釜山会議のプログラムにも民主主義のセッションは入っていた。

仏大統領も一目おかざるをえないブータンのGNH

 2008年にOECDなどが後押しして、フランスのサルコジ大統領を動かして、ノーベル賞経済学者スティグリッツ教授を長とするGDPを超えた尺度をつくる、通称「スティグリッツ委員会」(CMEPSP)がスタートした。
 2009年9月に、291ページにわたるスティグリッツ委員会の報告書をサルコジ大統領が発表するとき「フランスはGDPではなくて、ハピネスを重視する」と述べた。これを報道したWeb上の新聞フォーリンポリシー紙は「GNH(Gross National Happiness:国民総幸福)の最初の提唱者は、ブータンの先代の国王で、それを継承しているのが現国王であり、サルコジ氏はクレジットを入れるべきではないか」としゃれていた。
 ブータンは、前国王が「GNPではなく、GNHを国是とする」と決めてから約30年。今や新憲法には、GNHを国是とするとうたい、ブータンの10の省では、各省の活動の中でGNHを実践し、その上にGNH委員会を置き、その長を現首相が実行部隊長として務めるという体制を整えた。
 世界初の壮大なGNHの実験が実践されている。この実態をフォーリンポリシー紙は的確に捉えている。ヒマラヤの人口66万人の小国・ブータンは今や隅におけない小さな国際国家である。

HDI(人間開発指数)発足20年

 GDPでは表わせない健康や教育を折り込んだ国際指数HDI(Human Development Index:人間開発指数)は、UNDP(国連開発計画)が毎年世界各国のHDI値を発表する『人間開発報告書』を発刊して今年で20年になるという。第3回OECD国際会議では、UNDPのジェニ・クルーグマン氏が、会議の参加者から40人程集めてセッションをもった。筆者も呼ばれて「HDIには環境の指標が入っていないので、入れてはどうか。また“民主主義”というキーワードはトリプルボトムラインの経済、社会、環境の心棒となる要素で、導入を検討されてはどうか」と発言した。

「最大多数の最大幸福」は代表制民主主義政治から

 筆者の開発しているHSMでは、2009年5月にスウェーデンと日本で「理想の社会調査PartII」を行った。2007年に日本で、2008年にスウェーデンで行った「理想の社会調査PartⅠ」では、自由回答に「あなたが望む理想の社会について書いて下さい」を入れたところ、スウェーデンと日本で共通に「生活の安定」「環境配慮」が出たが、そのほかに日本にはない、「民主主義」「平等」「教育」がスウェーデンで出た。そして「PartⅡ」では、自由回答に「あなたの国の好きなところを書いて下さい」としたら、スウェーデンでは「民主主義」「言論の自由」「平等」が(図)、日本では「自然」「国民性」「平和」「文化」が出た。スウェーデン人は、理想とする社会像と、スウェーデンの好きなところに「民主主義」という共通のキーワードがあり、いずれも国の成り立つ骨格を指摘している。日本人の日本の好きなところは、国のソフト面であって、そのソフトを成り立たせている骨格については思索が及んでいない。
 また、民主主義のあり方についての質問項目も入れてみた。OECDが民主主義の不可欠の要素としている「正確」で「透明」で「質の高い」情報が得られているかについては、日本は「得られている」がそれぞれ26.4%、15.2%、15.8%。スウェーデンはそれぞれ48.9%、29.9%、31.7%とスウェーデンの方が高い。
 目下、日本は16年ぶりの政権交替で、多くのマニフェストの実現過程で少なからぬ混乱や停滞があるようだが、まず情報を国民に徹底的に開示することからのスタートだと思う。
 英国の哲学者ベンサムは「最大多数の最大幸福」を実現するのが政府の目的で、その実現には「代表制民主主義」しかないと1822年に述べている。HSM開発過程で「民主主義」を抽出し、それが幸福に不可欠だということが明らかになり、HSMに新しい展望が開けたことは確かである。

スウェーデン全体(男女合計)の「スウェーデンの好きなところ」
作成=ポンプワークショップ

(グローバルネット:2010年1月号より)


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