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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第64回 企業はなぜ今、生物多様性に取り組む必要があるのか?〜最近の国際的な議論から

  • 2009年5月14日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

企業はなぜ今、生物多様性に取り組む必要があるのか?〜最近の国際的な議論から (株)レスポンスアビリティ代表取締役 足立 直樹

無断転載禁じます

 今、企業による生物多様性の保全の動きが、世界的に盛り上がってきているのはなぜでしょう。2010年に名古屋で開催が決まった生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)を単なるお祭り騒ぎに終わらせないために、これまでの国際的な流れをきちんと理解することが必要です。1992年のCBD締結以来、締約国会議等での多くの議論の蓄積があるからこそ、取り組みの方向性が定まってきているのです。これまでの主な国際的な流れを見てみましょう。

企業も生物多様性保全の取り組みに参画を

 CBDは1992年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)で、「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」とともに締結されました。その当時から国際的には生物多様性が重要だと考えられていたのです。しかし締結後、多くの国では生物多様性に関する具体的な取り組みは進まず、放りっぱなしの状態でした。この状況が少し変わったのは2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」です。採択された「ヨハネスブルグ宣言」の中で、「経済・社会開発のための天然資源の基盤」が持続可能な発展のために不可欠であるということ、さらに政府や市民だけでなく、大企業も小企業も含めた民間部門が参画することが盛り込まれています。
 さらに、2006年にブラジル・クリチバで開かれたCBDのCOP8では、各国政府は企業に対して生物多様性の重要性を周知すること、生物多様性国家戦略に企業が参加するよう促すこと、国家戦略や条約の目的を達成するために企業が活動することなどが決議されました。  そして今年5月にドイツ・ボンで開かれたCOP9では、企業が生物多様性の保全に積極的に取り組むことを目的とした「B+B(ビジネスと生物多様性)イニシアティブ」(囲み)がドイツ政府主導で発足し、ドイツ、ブラジル、日本を中心に世界から34社が参加しました。そして具体的な7項目に取り組むことが宣言されました。
 それまで多くの国では、生物多様性国家戦略など、政府を中心に取り組みが進められていたのですが、この宣言では企業は社会貢献活動としてではなく、環境マネジメントの中に生物多様性を組み込まなければならない、企業だけで難しい場合は科学研究機関やNGOなどとの協働も検討するよう記されているのです。これは大きな前進であり、今後企業がやらなければならない最低限のフレームワークになるだろうと思います。
 しかしこの宣言も詳細についてはまだ決まっておらず、約束したことを今後どのように実行するのか、不透明です。日本から参加している企業9社も今の段階ではきちんと取り組みができているわけではなく、今後が注目されます。
 2010年には名古屋でCOP10が開催されますが、このイニシアティブを質的に深めるのか、量的に広げるのか、あるいはもっと別のアプローチをとるのか検討が必要です。それでも現状より後退することはあり得ないということは、認識する必要があります。

B+Bリーダーシップ宣言

  1. 企業活動が生物多様性に与える影響について分析する
  2. 企業の環境管理システムに生物多様性の保全を組み込み、生物多様性指標を作成する
  3. 生物多様性部門のすべての活動の指揮を執り、役員会に報告を行う担当者を企業内で指名する
  4. 2〜3年ごとにモニターし、調整できるような現実的かつ測定可能な目標を設定する
  5. 年次報告書、環境報告書、CSR報告書にて、生物多様性部門におけるすべての活動と成果を公表する
  6. 生物多様性に関する目標をサプライヤーに通知し、納入業者の活動を企業の目標に合うように統合していく
  7. 対話を深め、生物多様性部門の管理システムを引き続き改善してゆくために、科学期間やNGOとの協調を検討する

B+Bに署名している日本の企業

  • 株式会社アレフ
  • 鹿島建設株式会社
  • 森ビル株式会社
  • サラヤ株式会社
  • 住友信託銀行株式会社
  • 富士通株式会社
  • 三井住友海上火災保険株式会社
  • 株式会社リコー
  • 積水ハウス株式会社

やっと動き始めた日本での取り組み

 それでは国内の取り組みですが、これまではそれほど先進的だったとは言えないものの昨年頃から少しずつ動きが出てきています。
 まず、環境省の環境報告ガイドラインに「生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用の状況」という項目が新たに加えられました。そして同年11月に改定された「第3次生物多様性国家戦略」の中では、目標を達成するための各主体の役割として、「事業者」の役割が明確化されました。さらに今年5月には「生物多様性基本法」が可決され、「事業者の責務」(第6条)、「生物多様性に配慮した事業活動の促進」(第19条)が挙げられています。さらに、この内容を実際に推進するための企業向けのガイドラインが2009年夏に向けて策定中です。
 このように、日本でも、企業を巻き込み、政府が後押しするという形がやっと動き始めたというのが現状です。

日本でも生物多様性に取り組む企業が集まった「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB; Japan Business Initiative on Biodiversity)」が2007年5月に発足している。JBIBでは、(1)生物多様性の保全と持続可能な利用に関する学習(2)ステークホルダーとの対話(3)グッドプラクティスなどの情報発信(4)成果の可視化等に関する研究開発(5)生物多様性に関する政策提言−の5項目を柱として活動を展開している。加盟企業は19社(2008年10月14日現在)。

世界の流れに合わせて日本も取り組みを

 今年3月、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)が『Biodiversity and Ecosystem Services: Bloom or Bust?』というレポートを発表しました。金融機関も生物多様性に対してさまざまな分野で関連があり、具体的なリスクが挙げられています。また、リスクがあれば逆にチャンスもあり、金融機関に行動を促しています。世界の金融業界の主流がこれを読んで参考にするはずですから、今後この分野に確実に資金が流れ込んでくるでしょう。
 また、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)は、企業が生物多様性の保全戦略を考えるための手順書『The Corporate Ecosystem Services Review: Guidelines for Identifying Business Risks and Opportunities Arising from Ecosystem Change』を発表しています(日本語版はhttp://pdf.wri.org/corporate_ecosystem_services_review_jp.pdfからダウンロード可能)。いずれにしろ、大きな流れが始まることは間違いありません。UNEP FIがビジネスリスクに関するレポートを出してからさまざまな取り組みが動き出しましたので、これと同様の状況が予想されます。
 さらにイギリスで発表され、世界のビジネス界に大きな影響を与えた「スターンレビュー」の生物多様性版と呼ばれる、『TEEB(The Economics of Ecosystems and Biodiversity)』もCOP9で発表されています。「現状を放っておくと世界のGDPの6%が失われる」と警告しており、森林生態系だけを見ても毎年280億ユーロ相当の生態系サービスの損失が見込まれるとしています。
 つまり、生物多様性が経済に与える影響は気候変動と同じくらい大きいというメッセージが出されたのです。これは欧州のビジネス界を大きく揺さぶるものです。日本もそのような世界の流れを意識しながら、企業として何をすべきかをさらに議論し、取り組みを進めていかなければならないと思います。(談)


(グローバルネット:2008年11月号より)


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