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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第27回 日系企業に求められる5つの課題〜アジアにおけるCSR動向調査結果について

  • 2006年4月13日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

(財)地球・人間環境フォーラム企画調査部長 中寺良栄

無断転載禁じます

アジアのCSR動向を横断的に調査

 当フォーラムは2004年度、環境省の依頼を受けてアジア地域のCSR(Corporate Social Responsi-bility:企業の社会的責任)に関する動向調査を実施した。
 アジア地域に事業展開する日系企業の環境対策支援を目的に、環境省の委託を受けて1996年度から、日系企業向けの国別環境対策ガイドブックづくりに取り組んできた(日系企業の海外活動に係る環境配慮動向調査)。2004度に実施したアジアのCSR動向に関する調査はこれらの調査の延長線上に位置づけられるもので、調査範囲を従来の環境対策のみからCSR全般へと広げ、環境問題への取り組みはもちろんのこと、開発途上地域特有の社会的課題である貧困や人権、労働問題などといった社会的側面に関する取り組みも含めたCSRに関する先進事例の収集を中心にして、アジア地域におけるCSR動向を横断的に調べた。

情報少ないアジアのCSR動向を日系企業に提供

 最近、欧米はもちろんわが国においてもCSRへの関心が急速に高まり、CSRへの取り組みが着実に進められている。
 このような状況を受けて、アジア地域に事業展開する日系企業においても今後は当然、従来の公害対策を中心とする環境問題への対応や法令遵守だけではなく、貧困、人権、雇用・労働問題や地域社会との対話、社会的側面分野を含めたサプライチェーン管理といった、幅広い領域をカバーするCSRを念頭に置いた環境配慮の強化が要求されていくことになる。
 しかし、CSRについては欧米の情報は数多く得られるが、アジア地域のCSRに関する動向や情報については、ほとんど伝わってこないのが現状となっている。
 このため、今後日系企業が開発途上地域、とくにアジア地域でCSRに取り組む際に参考となる情報を提供することを目的に、アジア地域におけるCSR動向調査を実施したものである。

アジア地域4ヵ国で現地調査

 調査においては、まず、アジア地域に進出している外資系企業の本社のCSRに対する取り組み方針や具体的事例を収集するため、イギリス・オランダの企業約10社、日本国内の企業10数社の本社をそれぞれ訪問し、ヒアリング調査を実施した。
 ついで、アジア地域の中からフィリピン、タイ、シンガポール、中国の4ヵ国をモデルに選び、これらの4ヵ国において日系企業、欧米系企業、地元資本企業約25社に対する現地ヒアリング調査を実施して、CSRに関する先進的な取り組み事例を収集した。あわせてこれら4ヵ国のCSR関連情報を得るため、関連する行政機関、CSRに取り組んでいる関連団体等にもヒアリング調査を行い、国別のCSRの全般的動向も調べた。

目立ったトップランナーの取り組み

 調査結果によると、まず日本を除くアジア地域におけるCSRについては、地域全体としてはまだまだこれからといった段階にあるが、欧米系企業や日系企業はもちろんのこと、地元資本企業も含めて、アジア地域におけるCSRのトップランナーともいえる先進的な取り組みが多く見られた。
 その中には、貧困問題への対応など、開発途上地域がほとんどであるアジア地域の特性に応じた優れた視点によるCSR活動がみられ、CSRがこの地域に徐々に広がっていることがうかがえた。
 また、社会全体でCSRを推進しようとする動きも感じられた。国によってその背景や原動力は異なるが、現地調査を行った4ヵ国のうち、例えばフィリピンやタイにおいては、社会的な課題の解決を政府のみには任せてはおけないと、企業や市民社会が地域に入り込んだ活動を行っていた。シンガポールや中国では、社会的要請もあるが、国際社会でのニーズに応えるとともに、存在感をアピールするためにCSRを推進するという、政府や企業の思惑も大きいように感じられた。

CSR普及へ各国に推進団体が

 もう一つ、CSR普及に関する最近のアジアの大きな動きとして、各国にCSRの推進を目的とした団体が設立され始めていることが挙げられる。これらの団体は民間主導のものも国家主導のものもあり、設立の経緯はさまざまだが、例えばフィリピンのPBSP(Philippine Business for Social Progress)のような団体が、それぞれの国でCSR普及のための積極的な活動に取り組んでいた。

地域ネットワーク組織も設立

 さらに、シンガポールのCSR推進団体であるCCSR(Centre for Corporate Social Responsibility)などの呼びかけによって2004年7月には、これら国別団体のアジア太平洋地域ネットワークである「アジア太平洋CSRグループ(Asia Pacific CSR Group)」が発足し、国境を越えてCSRに関する情報交換や経験の共有に取り組み始めている。

先進国より必要性高いアジアのCSR推進

 ところで、今後アジア地域でCSRの普及が必要とされる最大の理由としては、直面する深刻な環境社会問題、例えば、公害問題、貧困問題、人権問題、労働問題、法令遵守意識の低さなどの存在が挙げられる。
 日本や欧米先進国においては、これらの課題はすでに解決済み、または解決に向けた取り組みがすでに実施されているが、アジアではこれから解決に向けた取り組みが始まることとなる。したがってアジア地域をはじめとする開発途上地域においては、CSRを普及させる必要性と緊急性は、むしろ先進国よりも高いといえる。
 また、欧米企業と取引がある企業にとっては、取引先の欧米企業からの要求によって、とくに人権問題や労働問題に関するCSRへの取り組みは避けて通れない課題となっており、先進国企業からの要求がいわゆる外圧となって、アジア地域にCSRを普及させる一つの推進力となっていた。

弱い日系企業の社会的側面CSRへの取り組み

 このような中、今回の現地ヒアリング調査においては、欧米系企業の中には貧困、人権、労働などといった社会的側面にも配慮し、地域にしっかりととけ込んだCSR展開をしている企業が多くみられた。一方、日系企業のCSRへの取り組みについては、環境管理システムの確立や公害対策、廃棄物対策といった環境側面への対応は非常に優れていたが、雇用、人権、労働問題などといった社会的側面の問題に対するCSRへの取り組みは弱く、現地の法令遵守レベルにとどまっている事例がほとんどだった。
 この理由としては、日本企業は環境問題への対応に関しては、日本本社が明確な方針を示し、例えばISO14001の認証について海外に進出しているグループ会社に期限を定めて取得させるような強いイニシアティブによって推進しているわけだが、社会的側面を中心としたCSRについては、まだ日本本社がそのようなイニシアティブを発揮していないといえる。また、欧米企業のような社会的要請や顧客からの要求、NGOからの問題指摘が少ないことも理由の一つとして挙げられる。

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