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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第13回 砂漠化と日本

  • 2005年2月10日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集 砂漠化とたたかう最前線の取り組みと日本の役割〜砂漠化対処の日シンポジウムから砂漠化と日本東京大学アジア生物資源環境研究センター長武内和彦さん(たけうち・かずひこ)


砂漠化の普遍性と地域性

 砂漠化は、地域性の高い問題であるということから、しばしばグローバルな問題ではなく、ローカルな現象ととらえられ、解決策もその場その場で考えられることが多かったように思われます。しかし、私は、砂漠化は同時に地球環境問題としての普遍性を有していると認識すべきだと考えています。その理由としては、まず砂漠化としてとらえられる土地荒廃現象は乾燥地域から湿潤地域にわたって普遍的に見られること、次に中国やモンゴルで発生したダストがアメリカ西海岸まで到達するように、砂漠化は非常に広範囲に影響を及ぼすこと、さらに砂漠化が引き起こされる乾燥地は生物多様性の保全にとって重要な地域であり、地球温暖化も砂漠化に影響を与えるといったことが挙げられます。それゆえ、砂漠化もまた、地球環境問題として扱うのにふさわしいテーマであると考えているのです。

 砂漠化の対策については、地域の気候、土壌などの自然条件のほかに、社会経済条件を十分考慮して行う必要があります。砂漠化対策のつきるところは、自然環境との共存を通じて人間社会の安定性を図ることであり、砂漠化問題は人間の安全保障の問題であると考えられます。砂漠化防止対策を考えるときに、社会と技術と費用の適切なバランスを考えることが必要です。貧困にあえいでいる地域に先端技術を持ち込むというのは望ましいことではありません。むしろ、その地域の伝統的知識を活かした適正技術を考えていくことが重要だと考えます。

 また、日本人で砂漠化防止対策に関心を持つ人たちは、しばしば緑化という言葉を口にしますが、これは少し注意しなければなりません。例えばアフリカの場合に緑化をするために人びとがその土地に立ち入れないようにすると、人びとと問題の共有が図れません。その結果として、地域の人びとと外から緑化を指導するためにやってくる人たちの間に砂漠化防止に対する意識のずれが生じることになります。緑化も、あくまで地域の社会の安定化の一つの要素としてトータルな砂漠化防止対策プログラムに組み込めるようにすることが必要です。

東アジアの砂漠化問題

 それから、日本では身近な地域としての東アジアの砂漠化問題に関心を持つことが必要です。中国・天津市の農業担当の副市長と話をしたのですが、これまでは豊富な黄河の水によって優良なコメの生産地だった天津の低地では塩類集積が深刻だそうです。黄河の上流を農業開発したり緑化したりしたことで大量の水が使われ、天津市まで水が来なくなったために、天津市では地層に含まれる塩類が地表に露出して、今ではヨシしか生えない不毛地になってしまったということです。

 また、中国やモンゴルの砂漠化は、黄砂の発生を通してわが国にも影響を及ぼしている問題です。モンゴル南部ゴビ地域の砂漠化の進行は、地球温暖化とも連動しています。黄砂を含む砂塵嵐の発生する時期は3月の終わりから4月の上旬が多いのですが、この時期はモンゴルでは雪が解けて凍土が溶ける、まさにその時期です。それが、最近は地球温暖化の進行で、融雪、凍土の融解の時期が早まっています。そのために、この地域での黄砂が増加していると考えられ、それが韓国や日本にも被害をもたらしています。こうしたことから、砂漠化の問題が地球温暖化の問題と非常に密接な関係をもっていることがご理解いただけるかと思います。

 今年で砂漠化対処条約が採択されて10年たったわけですが、私の思いを一言で言うと、「会議は踊る、されど進まず」という感じでしょうか。砂漠化対処条約の締約国会議ではいろいろ議論していますが、なかなか砂漠化防止の実際の対策に結びついていません。また、局地的な対策を広域の対策につなげていかないと、会議が踊るばかりで砂漠化防止はグローバルに進んでいかないのではないかとの危機感すら持っています。こうしたシンポジウムを機会に関係の方々や国民の皆様のご支援をいただきたいと思います。

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