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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第122回 日本の経済と社会を変える起爆剤に!〜グリーンファイナンス推進機構の誕生

  • 2014年3月13日

日本の経済と社会を変える起爆剤に!〜グリーンファイナンス推進機構の誕生


炭谷:この度、グリーンファナンス推進機構(以下、推進機構)が設立されました。かねてからお金の流れを変えることで世の中を変えようと訴えていた元バンカーの末吉さんが代表理事に就かれたことは、まさに日本全体を見渡しても末吉さんしか適任者はいないと思います。代表就任のきっかけと推進機構のできた経過についてお話しいただけますか。

リスクの高い部分もあえて支援する逆転の思想

末吉竹二郎さん
▲末吉竹二郎さん

末吉:この機構の原資は、環境税という公的なお金ですから、金融的な視点からは最もローリスクの所に出て行って民間のプロジェクトを支援する、あるいは補助金という形で出すのがこれまでの流れでした。しかし、新しいグリーンファイナンスの考え方は、リスクの高い部分をあえて支援するという、ある意味では思想の逆転です。最も安全な所から最もハイリスクの所に税金が下りてきて、そのお金を有効に活用することによって、もっと税金を生む事業、プロジェクトを育てていくという、非常に画期的なモデルを成功させたいと強く思っています。

炭谷:金融の実務、理論ともに精通され、環境金融面でのパイオニアである末吉さんならではの新しい発想ですね。私は長く行政に携わっていましたから、税金はこう使うべきだと思い込んでいた部分がありますが、それとは違う新しい税の使い方の分野ですね。

末吉:今年の夏はものすごく暑く、局地的豪雨が発生しています。地球温暖化、生物多様性の破壊とか、社会的にも貧困が一向になくならず、自然と社会の地球規模の問題が非常に深刻になっています。
  そのような問題を引き起こした経済のあり方を変えよう、20世紀の成長至上主義という経済から、新しい経済のモデル、グリーン経済を作っていくことこそが21世紀のミッションです。

炭谷:日本の経済、社会の見方を変える新しい取り組みになっていきますね。私も最近の日本の動向が心配で、地球環境問題に対する意欲が東日本大震災以降、少し希薄になってきているのではないかと思うのです。

経済と社会の仕組みを根本的に変えるビジネスを

炭谷:7月から推進機構の活動がスタートしましたが、案件の申し込み、相談などはたくさん来ているのですか。

末吉:秋には第1号、第2号ぐらいは決めたいと思っています。推進機構の基本業務は投資ですからビジネスのスタートで最も大事な所です。投資というのは事業者と一緒になってリスクを取るわけですから、事業者側から見ればこんなにありがたいお金はありません。いろいろなタイプの話がきています。
 推進機構の原資は化石燃料にかかっている地球温暖化対策税、いわば二酸化炭素(CO2)税です。ですからこのお金の使い道はCO2を減らす事業でなければいけないというのが第1条件です。第2条件はコミュニティが活性化する、地域経済が再生できる、地域を元気にする、そのプロジェクトがCO2も減らしていくというのが基本的条件です。両方の目的を達成するプロジェクトが日本全国、各地に一杯あるのではないかと思っています。

炭谷:そうでしょうね、今、地方を回って見て、経済は少し上向きになってきていますが、空洞化で人が少なくなったりして元気のない所の方がまだ多いように感じます。こういう事業によって町おこしにもつなげようという事業者が出てくるのではないかなと思います。

末吉:単純に風力発電やバイオマス発電をやるということではなくて、いわゆるスマートシティー、スマートタウンのような地域全体の温暖化対策を進めるといった事業も投資対象にしたいと思います。

炭谷:融資ではなくて出資ですから、分かりやすく言えば共同責任になるので、その事業の将来性、成長性というものをしっかりと見極めなくてはいけませんね。

民間資金の呼び水機能

末吉:基本的には採算の取れる事業でないと困りますが、その採算性を民間の投資が求めるように高くしたら、このファンドの役割が果たせないかもしれない。採算性は一般よりは低いけれどもいずれしっかりした事業になる、大きな目的を果たすことができる、そういった所をどうやってわれわれが見分けることができるのか。たくさんの民間の資金が入ってくる呼び水機能をどう果たせるのか。ここが腕の見せ所でもあり、悩みのもとでもあるのです。

炭谷:日本と欧米の状況を比較すると、欧米では民間レベルでも、失敗するリスクがあるかもしれないが社会的に必要なのだから、あえてこの投資をしなくはいけないという、社会的な事業への投資意欲が大変強いですね。
 私は7月にイギリスに行ってソーシャル・インパクト・インベストメントを行っている若者に会いました。彼は環境や社会的に意義のある事業への投資は普通の金儲けではないのだ、社会にインパクトを与える投資でなくてはいけないと強調していました。グリーンファイナンスと志が似ている感じがします。

末吉:われわれの取り組みは、グリーン・インパクト・インベストメントといえるかもしれませんが、何か新しいものを呼び起こす、作り上げていくインパクトを持った投資をしたいと思っています。

ソーシャルファームを日本で増やすためにも出資が必要

炭谷茂さん
▲炭谷茂さん

炭谷:私はライフワークとして、障がい者、刑務所から出てきた人など、ハンデのある人が働く場所、ソーシャルファーム(社会的企業)を日本でもっと増やすことに取り組んでいます。2,000社を目標にしていますが、税金を当てにしないで、あくまでビジネスとして成り立たせることにしているので、出資してくれる人が必要です。
 ヨーロッパでは1万社以上できています。どうしてこんなにうまくいくのかと思ったら、国民の多くが社会的な企業に投資するという形で支援してくれている。日本の場合、ソーシャルファームと呼べるものはまだ100社ぐらいです。

末吉:ヨーロッパの年金基金は、集めたお金を運用する際に単純に財務的リターン、運用益だけを求めるのではなく、投資対象企業が環境にどう取り組んでいるか、社会的責任を果たしているか、そういったことを投資判断の中に組み込んでいます。取り組みの中味を公開するよう求める法律があるのです。
 年金基金として運用益を得ることに成功したとしても、環境や社会がおかしくなれば、たとえ年金をもらったとしても、幸せな老後を送れるとは限らないのではないかという根本的な問いかけがあるのです。50年後の国や社会、地球全体のあり方がどうなっているのか、それを考慮しない投資はあり得ないという考え方なのです。
 日本の公的年金は今、120兆円ぐらいが運用されていますが、その運用に当たってこういった環境や社会的責任を考慮すべきかどうか、ということはテーブルに全く乗らない話題です。

炭谷:そうですね、日本の銀行や機関投資家が投資について考える場合は、すでに環境事業に実績のある企業を対象とするか、環境に取り組んでいる姿勢を示さないとNGOなどに攻撃されるから何かをするとか、積極的に動いていないところがかなりあります。末吉さんがおっしゃったように、環境への価値も重要です。価値を創造するのだという発想が少ないですね。

金融行動原則の作成

末吉:2010年の秋から中央環境審議会で環境金融の議論が始まりました。私が座長になって報告書を出し、日本でも、金融機関が守る環境金融の行動原則を作ろうと提案しました。
 東日本大震災が起こって中断しましたが、2011年の7月から再開したところ、大震災をはさんで議論の質が全く変わりました。とくに地方の金融機関が地域とのつながりを大事にする姿勢を強めていると感じました。命の大切さとか、地域のあり方とか、生きるための原点をわれわれに考えさせてくれた。そういったことがポジティブに反映された金融行動原則(表)ができ上がり、世界の中で最も優れた表現をした原則になっているのではないかと思っています。

表:持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(要旨)
原則1 基本姿勢
原則2 事業を通じた環境産業などの発展への貢献
原則3 地域や市民活動、中小企業などへの配慮
原則4 多様なステークホルダーとの連携
原則5 自社の環境負荷の軽減
原則6 経営課題としての認識・情報開示
原則7 自社役職員の意識向上

炭谷:その原則に基づいて日本の現在の金融機関の行動は、投融資は変わったのですか。

末吉:188の金融機関が署名しています。少なくとも責任者がサインしていますから、行動原則と違ったことをすれば世の中から糾弾されるという状況になっています。

炭谷:末吉さんは2001年に銀行マンから国連環境計画の金融イニシアティブ(UNEP FI)の特別顧問になられ、新しいことにチャレンジされました。安定した人生というか、社会的な地位も捨てて国連機関の活動の支援に移られたのにはどのような動機があったのでしょうか。

末吉:私は当時の三菱銀行ニューヨーク支店長などを経て、1998年に日興アセットマネジメントという資産運用をする会社の副社長に就任しました。そこで当時としては日本で初めてのエコファンドという金融商品が発売されそのセールスに取り組みました。

炭谷:エコファンドですか。今ではよく知られている言葉ですが、当時の日本の銀行は不良債権処理に追われていて、環境どころではなかったですね。

末吉:利益を確保するだけの投資行動ではなく、環境に良いことをやっている企業に投資しようという狙いですが、このエコファンドが大変評判で半年ほどで、日本国内で1,200億円も売れました。

社会のインフラとしての金融機関

末吉:2000年の秋、ドイツで開かれたUNEP FIの集まりがあり、日本のエコファンドの話しをするために日興アセットマネジメントが招かれ私が参りました。UNEP FIの活動は1992年のリオ・サミットから始まったのですが、バブル崩壊後の90年代、日本の金融機関は全く振り向かなかったのです。世界の金融機関の国際的な動きに関心を持っていなかったのです。
 ドイツのフランクフルトで開かれた会議には世界から350人ぐらいの金融関係者が集まって来て、環境と金融についての議論を続けていたのです。私が一番驚いたのはホストバンクを務めていたドイツ銀行のブラウワー頭取が、冒頭の挨拶で30分ぐらい原稿も見ないで、金融機関が何ゆえに環境問題に取り組む必要があるのか話し続けたことです。その話を聞いている時、僕は頭の中で、大手町の日本の金融界のトップでブラウワー氏のような話をできる人がいるのかなと想像したのです。
 日本の2000年というと、失われた10年の最後の年でしたから銀行はものすごく疲弊し、お金の面だけでなく銀行員の数も減り、来る日も来る日も不良資産の処理に追われていました。そのとき、世界は環境をテーマに将来に向かって動き始めているのに、日本の金融機関はバブルの崩壊で後ろ向きの話しかしない。やはり銀行員も毎日会社に行く喜びを持ち、働く意義を見いだすような金融機関にならないと駄目だと強く感じました。金融が駄目ということは日本の経済、社会が駄目ということですから、何とかしないといけないと強いインパクトを受けました。

炭谷:環境庁が省としてスタートしたのが2001年1月です。私は旧厚生省から環境省に移った時ですが、そのころの環境省には、環境問題は金融を含めた経済とは無関係だという意識があり、環境と経済は切り離して考えるというのが一般的な思考だったと思います。それが段々、環境を良くすればやはり経済も良くなるということが理解されてきました。

末吉:2002年に日興アセットマネジメントを退職しました。このままサラリーマンを続けるか、僕がいなくなったら多分、環境と金融の問題に取り組む人間はいないだろう、ということを考えたりしました。57歳でしたから時間がないとは思いましたが、やってみる価値はあると思いUNEP FIの仕事に関わったのです。

日本の環境・金融政策

炭谷:末吉さんの決断が日本の環境・金融政策を救ったのかもしれませんね。10年遅れていたらそれこそ失われた10年になっていた。

末吉:ありがたいお言葉で大変恐縮しております。無論、私がいなくとも多少の遅れはあってもいつかは日本の金融界も環境に取り組まざるを得なかったでしょうが。
 そもそも、金融機能というのは経済に欠かせない社会インフラです。僕は、金融界の人にもっと頑張れ、誇りを持って頑張れと言いたいのですが……。

炭谷:国債を買うようなことが一番の金儲けとして大きなウエイトを占め、末吉さんがおっしゃったような資源の適性配分、適正配置に現在の日本の金融機関はあまり役に立っていない。金融本来の機能が今、ややなえていますね。
 金融界がちょっとシュリンクしているので、推進機構があえて先見性のある、リスクを取るという気概で進む。金融機関を叱咤激励して、ぜひ一緒に付いて来たらどうだというところに機構の狙いがあるのですね。
 地方銀行の方は必ずしも環境の専門家ではない。推進機構のように環境に特化されたところが、これが必ず伸びるとお墨付きを与えるといいますか、一緒になって進めることができれば起爆剤になりますね。

グリーン産業で経済を再生するため緑の投資銀行を作ったイギリス

末吉:イギリスに昨年の11月からグリーン・インベストメント・バンクという新しい銀行が誕生したのです。まさに名前の通り緑の投資銀行です。このアイデアを議論し始めたのは労働党政権下でしたが、保守党政権のキャメロン首相も引き継いで発足したのです。国の出資が30億ポンド、約4,500億円です。このお金を使ってグリーンビジネスに投融資をする。キャメロン首相は「今のままのイギリスの産業を次世代に引き継ぐのは倫理違反だ」と言っています。グリーン産業を現代世代が未来世代に引き渡すことは倫理上の義務だという訳です。
 イギリスの経済は悪い状態ですが、経済を再生するにはグリーン産業で再生したいのだと言っているのです。資金の大きさに雲泥の差が今はあるのですが、思いは多分共有できるはずです。日本も競争力を高めるためにはグリーンな経済でなければ成り立たないのだということも広めていきたいと思います。

推進機構のスタートで社会的企業が増える

炭谷茂さん、末吉竹二郎さん
▲炭谷茂さん、末吉竹二郎さん

炭谷:日本の経済と社会の発展の方向を示すリーダー役になっていく、本当に夢のある事業ですね。日本を救ってくれるのかも知れません。
 日本も社会的企業をやろうとしている人が実際はたくさんいるのです。ソーシャルファームも仕事の内容は面白いものばかりです。銀行からお金を借りている事業も多いのです。成功する条件というのは、他の人のやっていないもの、成長するものでないといけないと私は強調しています。日本も次第に元気になってきて、この推進機構の目的である、地方が元気を取り戻すことができるのではないかと思います。

末吉:炭谷さんはソーシャルファームの取り組みをなさっていますが、お話しいただいたソーシャル・インベストメント・バンクが日本にできてもいいですね。われわれの兄弟ファンドとしてぜひ実現できれば良いなと思いますし、将来、ソーシャルファームと連携して何か地域に役に立つプロジェクトを掘り起こすこともできます。

炭谷:その通りですね、ソーシャルファームとファイナンスが一緒にならないと伸びないのです。そのようなものも一緒に作ってみたいと思います。今後のご発展をお祈りしております。どうもありがとうございました。

(2013年8月5日東京都内にて)

グローバルネット:2013年9月号より


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