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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第2回 人に快適な、環境にやさしい都市づくり〜ヒートアイランド対策の必要性

  • 2004年3月11日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

人に快適な、環境にやさしい都市づくり〜ヒートアイランド対策の必要性早稲田大学建築学科教授尾島 俊雄

ヒートアイランドの原因と対策

 人びとの集積が都市を形づくるとヒートアイランドが自然発生する。それは海に浮かぶ島のように点在していた。都市と都市を結ぶ交通機関が水運であった時代から、車や列車などの陸運の発展で河川や運河が埋められ、都市が連帯し巨大化するにつれ、ヒートアイランドも巨大化した。

 東京や大阪、名古屋のごとき100万都市では真夏日や熱帯夜が増大し、加えてIT(情報技術)の必要から冷房なくして過ごせなくなる。都市への電力、ガス、石油、地域冷暖房などによるエネルギー供給が増えた上に、自動車の普及でヒートアイランド現象が顕在化し、落雷や集中豪雨、熱中症などの他にダストドームやオキシダント公害が発生した。

 東京都では、露地となるようなオープンスペースや緑地面積が明らかに減少している。そこで東京都は条例を定めて、2001年4月1日から屋上緑化を義務づけた。

 ヒートアイランドの大きな要因を占める人工排熱について、1972年と99年を比べてみよう(図—1)。東京の人工排熱は30年間で人間は1.1倍、工場(ゴミ焼却場を含む)は0.7倍、自動車は台数が倍以上(100万台→431万台)に増えているものの、燃焼効率が上昇したためか1.4倍にとどまっている。しかし、建物からの負荷は最も大きく、3倍にも増加している。その内訳として、空調機器の台数が1970年当時に40万台であったのが、1,000万台まで20倍に増加し、ほぼすべての建物に冷房が入ったことが増大の要因である。

 冷房はオフィスと家庭で増加が多く、これはまた夏季の最大電力を押し上げている。年々最大電力が増加する一方で、7〜9月(夏季)の最大電力の突出部分は主に冷房による電力消費と考えられる。図—2に東京の業務ビルの種類別による時刻別単位あたりの夏季冷房用エネルギー消費量を示すが、これまでの一般建物に比べてコンピュータが導入されると、1日あたり延べ床面積比で5〜6倍と極度に大きくなる。パソコンの効率が上昇してもそれ以上に処理容量が増大するため、建物単位面積あたりのエネルギー消費量が増大しているのである。

都市の分節化で地表面を開放

 自然温度とは、冷暖房室内で自然に放置された場合の室内温度のことである。昔の民家と違って、最近のコンクリートとガラスの建物では室温が異常に上昇し、冷房なくして居住不可能な状態になる。室内の熱管理は近代建築では不可欠になったように、都市においてもその必要性が起こったことから、都市環境気候図の作成が必要になった。

 都市の自然温度が許容基準を超えた場合に「熱管理」が必要になる。その自然温度を測定する機関や基準値の設定、基準を超える時のエネルギー供給量の省エネ方法、削減できない場合の排熱処理対策等、「熱の管理」のあり方はこれからの課題である。

 都市を冷やすには、地表を水辺や緑に開放することが重要で、その第一歩として建物を間引くことである。そのためには都市を分節化し、メリハリのついた都市計画を行っていく必要がある。

 現状では、都市に内包されている緑地、河川といった自然は都市を冷やす効果を持つには十分ではない。そこで、自然の立地特性を考慮しながら、河川の周りを緑化したり、水辺を取り戻したりしながら、自然が都市を内包するネットワークができればよい。車のために道路幅を拡幅し、その相当分を周辺民地の減歩と容積増を認める区画整理的な都市計画手法を用いながら、水辺や緑、歴史的な街並みや社寺仏閣を守るまちづくりである。水の道や風の道、緑や太陽の道を考慮して、自然の営みが肌で感じられるようなオープンスペースを都市の骨格に組み込んでいくのである。

 首都圏を例にとると、3,300万人が一体となった巨大な都市構造を、人口3万〜10万人の単位で数百に分節化し、小さな独立した都市構造に変える。首都圏には数百の生活圏が生まれ、それぞれの生活圏の中で、極力自立した日常生活空間を成立させる(図—3)。
 地上レベルに都市の自然を回復させるダウンゾーニングと、交通の結節点を中心として、局所的な高層化をするアップゾーニングによって、集約化する。結果として、現在の東京都心部にあっては、超々高層空間も生まれるであろうし、郊外においても高層建築がその核としてそびえることになろう。しかし、そのクラスターとクラスターの間の空間には、自然の河川が甦り、湖沼が生まれ、遊水池やビオトープ空間が生まれる。

夏は都会を脱出しよう

 自然温度の上昇を防ぐ対策(パッシブ手法)として、その都市の気候・風土に合わせて建物や道路等の建材選定(色、透水、保水、熱容量、熱吸収率等々)、緑化や水面の確保(屋敷林、街路樹、屋上や側壁の緑化)を進め、都市形態のコンパクト化と分節化によって、風の道としてストリートキャニオン(ビルの谷間)の活用と都市内河川を再生する。

 都市へのエネルギー供給を削減する各種省エネルギー機器を開発するとともに、車や電車の使い方をも考慮する。地球環境と都市環境の両面から考えた分散電源や地域熱供給管のネットワーク化と合わせて排熱処理システムの選定もまた必要であろうが、ライフスタイルの変革こそ効果的である。冷房温度の上昇による服装の見直しも必要である。しかし、緑化し、窓を開き、水をまき、涼しげな雰囲気をつくり、夏期には避暑として大都市を脱出するのが最高である。人びとが冷房を止め、戸を開け、打ち水をすれば都市の温度は2〜3℃確実に下がる。

 7〜8月のパリはひっそりと静まりかえる。アメリカやヨーロッパへ行くと、8月は閉まっている店が非常に多い。夏休みはゆっくりとリゾートで過ごすのが彼らの習慣である。

 高度経済成長期以降、夏になると、東京都心部からたくさんの人びとが避暑に行く傾向が始まる。バブル経済期には空前のリゾートブームが起こり、リゾートに対する認識が庶民のものとなっていった。やがて、夏の間は東京には人がいない、あるいは冬の間は人がいないという、ヨーロッパの先進諸国と同じような状態になるであろう。一日一日を小刻みに制御されるよりも、季節によって人びとの移動があり、制御される方がはるかにたやすいはずである。24時間の小刻みな制御というのは、せいぜい50〜100年の歴史であって、人類の長い歴史の中にはなかった。季節による制御は、渡り鳥や回遊魚の知恵であり、遊牧民族に代表されるように何千年も続いた人間本来の知恵である。7〜8月にバカンス等で東京都心から人口が半分も減れば、ヒートアイランド現象は著しく減少するであろう。

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