こんなデミ・ムーア、観たことない!
昨年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映されるやいなや、想像をはるかに超える世界観が大きな話題を呼んだ映画『サブスタンス』がついに日本上陸。フランス出身のコラリー・ファルジャ監督が自ら手がけた脚本を映像化した作品で、主演のデミ・ムーアは美と若さに執着する女優を体当たりで熱演。世界中で数々の賞に輝き、アメリカでは“デミッセンス”(=デミのルネッサンス)という造語まで誕生した。
主人公は元人気女優のエリザベス(ムーア)。50歳の誕生日を迎えた彼女は、容姿の衰えにより仕事を失った焦りから、禁断の再生医療“サブスタンス”に手を出す。それにより背中を破って現れたのは、エリザベスの上位互換“スー”(マーガレット・クアリー)。若さと美貌にエリザベスの経験も兼ね備えたスーは、たちまちスターダムを駆け上がっていく。だが、一つの精神をシェアする2人には、“一週間ごとに入れ替わらなければならない”という絶対厳守のルールがあった…。
ギズモードでは、編集や製作も自ら務めたファルジャ監督にリモートインタビューを実施。前代未聞の異色作に込めた思いをたっぷりと伺った。
――想像をはるかに超えるエンターテインメント性の高い作品に、セクシズムやエイジズムといった現代社会の抱える問題が盛り込まれていて圧倒されました。なぜ今、この映画を撮ろうと思ったのですか?
コラリー・ファルジャ監督(以下ファルジャ):自分が子どもの頃から感じてきたことを伝えたかったからです。社会がいかにして強力な支配のツールを作り出し、どんな姿をしていようと不幸だと感じてしまうような牢獄に女性を閉じ込めてきたのか。私はそんなことを考えてきました。
私たちはかなり幼い頃から、テレビや映画、ポスターや雑誌などで示される完璧なイメージと同じでなければ、愛される価値も成功する価値もないと教え込まれてきたように思います。そして、それは自分自身との間に誤った関係を生み出してしまうのです。自己嫌悪に陥り、自分は十分ではないと考え始め、ある種の非現実的な期待に応えるために、外見を変えなければならないと思い込んでしまいます。すると、自分の周りに強力な牢獄が築かれ、「これも変えなきゃ、あれも変えなきゃ」ということで頭がいっぱいになってしまうのです。
©️2024 UNIVERSAL STUDIOS――日本を含むアジアでも美容医療は盛んですし、10代や20代など若い利用者も少なくない印象です。
ファルジャ:私自身、人生におけるさまざまな年齢で、容姿に対する不安をとても強く感じていました。若い頃はセクシーさが足りないとか、胸が小さ過ぎるとか、お尻にセルライトがあるといったことで悩んでいましたし、年齢を重ねると、今度はシワや身体の変化が気になってきて…それは決して終わらない闘いなんです。自分には常に何か問題があるように感じてしまうんですよね。
でも、それは現実ではなくて、女性が幼い頃から静かにさらされてきたメカニズムであり、私たちはそのすべてを自分ごととして受け止めてしまうのです。そして、自分自身と闘うようになり、膨大なバイオレンスや自己嫌悪を育んでしまいます。世界に居場所を確保するよりも、自分を痛めつけるようになってしまうんです。
――そういった思いを脚本に落とし込んで、『サブスタンス』が生まれたわけですね。
ファルジャ:これは私にとって巨大な社会レベルの問題です。個人の変化ではなく、真の変化が必要だということを伝えるために、とても力強い手段で取り組みたいと思いました。たった一人で闘うなんて不可能ですから。社会の変化や新たなリプレゼンテーションが必要ですし、単なる支配に過ぎない、すべてのメカニズムに対処しなければなりません。この牢獄を爆破して、「よく見て、これがあなたたちが私たちにやっていることだよ。女性が経験せざるを得ない現実なんだよ」と、世界に突き付けるのが狙いでした。
©️2024 UNIVERSAL STUDIOS――そのメッセージを伝える手段として、ボディホラーを選んだ理由は?
ファルジャ:私は象徴主義で創作しています。たくさんのセリフで自己表現するのではなく、イメージやサウンドを駆使してアイデアを生み出すのです。観客の目や耳に入るものを厳選し、作品のメッセージを体感してもらう。私にとって、それこそが映画の持つ力であり、私が大好きなこの仕事の持つ力なのです。
今作は、いかに私たちが自分の身体を虐げてきたか、そして、いかに社会が私たちの身体を空想の道具として売り、消費するために利用してきたかを描いています。ですので、身体が物語の中心にあるべきだと、ごく自然に考えました。私たちが受ける暴力のレベルを表現する上で、ボディホラーは完璧なツールだったのです。
なぜなら、少女として、そして女性としての私たちの人生は、まさにボディホラーだからです。体重を減らしたり、顔を変えたり、骨を取り除いてウェストを細くしたり…あり得ない美の基準を満たそうとするばかりに、私たちはあらゆるクレイジーなことをしてしまう。それって、本当にホラーですよね。身体が自己表現のための道具ではなく、自由を制約する道具になってしまう、この監獄を具現化したいと思ったんです。
©️2024 UNIVERSAL STUDIOS――主人公エリザベスを演じたデミ・ムーアの体当たりの演技が圧巻でした。とてもセンシティブなテーマですし、ある意味、演じるのが怖い役でもあると思うのですが、どのようにオファーしたのですか?
ファルジャ:映画のアイデアを表現する上で何が必要か、余すところなく真剣に伝えることを大切にしました。今作は言葉で伝えるような映画ではなく、身体が感じることをイメージや音やフレーミング、それに激しさを通して表現する作品です。デミには、彼女がこれまでのキャリアで出演してきた作品との違いを説明するために、たくさんのビジュアルやサウンドを共有しました。
あとはもちろん、ヌードが作品のメッセージを伝えるための重要なツールだったので、身体の露出度についても話し合いました。映画に必要なことや私のビジョンについて、徹底的に共有したんです。今作を成功させるためには、100パーセント役にコミットしてくれる人が必要でした。「あれを加えたい」とか「これはちょっと無理」とか言われてしまうと、すべてが崩壊してしまうからです。とても緻密に構成された作品なので、デミにもすべての要素が重要だということを伝えました。
©️2024 UNIVERSAL STUDIOS――実際に一緒に仕事をしてみて、いかがでしたか?
ファルジャ:デミはとても知的で、直感に優れています。もちろん、映画がどうなるかなんて誰にもわからなかったので、演じるのは怖かったかもしれません。でも、彼女はその知性で監督としての私を信頼してくれました。映画を成功させるには、彼女自身のエモーショナルな演技が作品に必要だと理解してくれたのです。
撮影は本当に大変で、居心地が悪いことも多く、安全地帯から飛び出す必要がありました。作品がどこへ着地するかもわからなかったのですが、私たちは最後の最後までお互いを信頼していました。それこそが、今作の最大の強みだと考えています。
――『サブスタンス』を制作したことで、ご自身の中に変化はありましたか?
ファルジャ:この映画は間違いなく私を変えました。自分らしさを大切にすれば、成功も充実感も得ることができるのだと学んだのです。映画という観点では、今回はフィルムメーカーとして100パーセント自分らしくいることを認めました。
©️2024 UNIVERSAL STUDIOS恐怖心は脇に置いて、世間にどう思われるか心配することもやめました。疑念を払拭して、世界にフィルムメーカーとしての自分自身をさらすことにしたのです。その結果、こんなに素晴らしい反響をいただくことができて、本当に感謝しています。ありのままの自分を受け入れ、別の自分像を作り上げようとしない時こそ成功できるのだと、改めて実感しました。
©️2024 UNIVERSAL STUDIOSそして個人的には、ボディイメージをはじめとする問題は、さらに険しい道のりです。これは私が子どもの頃から抱えてきた問題であり、本当に幼い頃から心の中に芽生えたあらゆる思いが積み重なっているわけですから。終わりのない旅だと思いますが、今作は間違いなく重要な一歩となりました。そして、今後も世界に変化をもたらす活動に少しでも貢献できればいいなと思っています。
Photo : Philippe Quaisse――最後に、映画を楽しみにしている日本のファンに伝えておきたいことはありますか?
ファルジャ:自分の周りの世界が変われば、自分自身をもっと受け入れやすくなるはずです。私はこの重要な作品を世界に向けて発信することができて、とても誇りに思っています。皆さんが今作のメッセージを受け止め、真の変化をもたらすことで花を咲かせてくれることを願っています。
『サブスタンス』は全国公開中。
『サブスタンス』5月16日(金)公開
監督・脚本:コラリー・ファルジャ『REVENGE リベンジ』
■出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
配給:ギャガ アメリカ/142分/R-15
イギリス・フランス/142分/R-15+ 配給︓ギャガ
©︎2024 UNIVERSAL STUDIOS
Souce : 映画『サブスタンス』公式サイト - GAGA