物理と聞くと、難しそうって思いませんか?
少なくとも私は難しそうな印象を抱いています。
だから選択科目で物理か生物かを選ぶときに、迷わず生物を選択したんです。だって生物の方が眼に見えるものが多いし、想像しやすいから。物理ってそこに存在しているはずなのに見えないものを、理論やデータで理解するものだと解釈しています。想像力をフル活用しないといけないから、難易度が上がるような気がしたんです。
でも、これからは違うかも。だって科学ニュースサイト Science Alertによると「自由に動く原子」の撮影に成功したのですから。
「原子(atom)」とは、この世のすべてのものを作っている小さな粒のこと。スマホもPCも、空気すらも原子でできているんです。
でも、原子の粒子は約0.1ナノメートル(1ナノメートル=0.000000001メートル)とめちゃくちゃ小さいため、「光」を使ってものを見る仕組みの一般的な顕微鏡では見えません。
だって原子は光の波長(400〜700ナノメートル)よりも小さいから、光を当てても跳ね返ってこないんですよ。
しかも、原子は常に動いています。物質の温度が絶対零度(-273.15℃)にならない限り、原子は動きを止めません。常にバラバラに動いている極小の原子を見るのは、今までとても難しかったんです。
見ることはできていました。
でも、電子顕微鏡や走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)といった特別な顕微鏡を使わなければならないし、見える原子は限定的なものでした。
電子顕微鏡:原子の並び(結晶構造)は見えるけれど、1個1個を細かく見るのは難しい
走査型トンネル顕微鏡(STM):個々の原子の配置が見える
原子間力顕微鏡(AFM):原子の表面をなぞって形を調べる
これらの顕微鏡では、固定された原子しか見ることができないんですよね。
今回の研究では動いている原子をそのまま撮影できたので、控えめに言っても「すごすぎる」ってことなんです。
この「すごすぎる」「自由に動く原子」を撮影したのは、マサチューセッツ工科大学の研究チームです。
Image courtesy of the researchers. 上部:動いていた原子を光の力で一瞬で固定して撮影した様子どうやって撮影したのかをざっくり説明します。
1)レーザーの光で冷やして、原子の動きをゆっくりにする
2)冷やされた原子をレーザーの光で浮かせて、雲のように集める
3)「Atom-resolved Microscopy(原子分解能顕微鏡)」という原子レベルの小さな構造も観察できるし撮影もできる特殊なシステムで撮影する
これまで固定されていない原子の動きは、理論上でしか理解されていなかったので、動いている姿がそのまま撮影できたのはすごいことなんです。
撮影できただけでもすごいのに、さらなる発見もありました。
それが、「ボース=アインシュタイン凝縮」と「ド・ブロイ波」を確認できたこと。超簡単に例えるなら、「地球は丸いって話には聞いていたけれど、宇宙から撮影したら本当に丸かった! 」というレベルの確認ができたってことです。
「ボース=アインシュタイン凝縮」とは、物質が絶対零度に近い温度にまで冷やされると、複数の原子がまるで1つの波のようにまとまって振る舞う現象のことです。原子は普段バラバラに動いていますが、極限まで冷やすと、すべてが同じ動きをし始めて、一体化した巨大な波のようになるのが観察できたんです。
「ド・ブロイ波」は1924年にフランスの物理学者 ルイ・ド・ブロイが提唱した「物質は波のような性質を持っている」という概念です。
ド・ブロイ波はこれまでの実験でも確認されていました(1927年の二重スリット実験など)が、今回の技術では動いている状態をリアルタイムで撮影できたんですよ。
今回の発見は大発見だっただけでなく、量子コンピューターの開発にもプラスの効果が期待されています。
例えば、エラーの原因の発見。原子が見えることで、量子ビットのエラー原因を追跡できるようになります。
あと、最適な動きの確認ですね。理想的な量子ビットの動きが観察できれば、計算精度も向上するでしょう。
実用化はまだ先ですが、今まで見えなかった部分が見えるようになったことで、開発スピードが加速するかもしれません。
見えなかったものがどんどん見える時代が来ているんだなぁ。
Source: Science Alert