日々、私たちの体でも起こっている細胞分裂。生物の授業を覚えている人もいるかもですが、この細胞分裂について、教科書の内容が変わるかもしれないような新発見がありました。
高校などの生物の授業で「細胞分裂(正式には有糸分裂)」を習ったことがあるなら、球体の母細胞が2つの同じ大きさと形の娘細胞に分裂する、と教わったはずです。
しかし、研究者たちは有糸分裂において必ずしも細胞が球形(細胞の丸まり)になるわけではないことを科学誌『Science』に掲載された論文の中で明らかにしました。
学生たちは、細胞が分裂する際には球形になると学びます。しかし我々の研究は、実際の生体内ではそれが単純な話ではないことを示しています。
と、研究の共同責任者であり、マンチェスター大学の生物・医療・健康学部の研究者でShane Herbert氏は、大学のリリースにて述べています。つまり、娘細胞は必ずしも対称でなく、機能も異なる場合があるというのです。
この新しい研究は、ゼブラフィッシュ(和名:シマヒメハヤ)という体長5cmほどの淡水魚で行なわれました。ゼブラフィッシュは脊椎動物でありながら、肺が透明、飼育や遺伝子改が容易なことから、よく研究の対象に選ばれる魚です。
今回の研究では、血管形成の様子が観察されました。新しい血管の成長は、ゆっくり動く細胞たちを、1つの素早く動く先導細胞が率いる形で進行します。これまで非対称な細胞分裂は主に幹細胞など特殊な細胞に限られると考えられていましたが、この先導細胞が分裂する際、細胞は球形になることなく、非対称に分裂し、1つは新たな先導細胞、もう1つは後に続く動きの遅い細胞になることが確認されたのです。
1日齢のゼブラフィッシュ胚は透明なので、生体内で起こる動的な細胞分裂の過程を観察できます。そのおかげで、この基本的な細胞の動きを映像化し、組織の成長における新たな側面を明らかにできました。
と、共同責任者であり心血管科学の講師であるHolly Lovegrove氏は述べています。
また研究者たちは、母細胞の形状が対称か非対称に分裂するかに影響を与えることを発見しました。たとえば、短くて幅の広い細胞は球形になりやすく、対称的に分裂する傾向があり一方、長くて細い細胞は丸くならず、非対称に分裂することが多かったのです。
この点をさらに検証するため、研究チームは「マイクロパターン技術」を用いてヒトの細胞の形を操作しました。
マイクロパターン技術では、細胞が付着した特定の形の微小なタンパク質パッチを作成できます。その結果、細胞はパッチの形に合わせて変形し、その形が後の細胞分裂にどう影響するかを検証できるのです。
と、共著者であり同大学生物科学部の研究員Georgia Hulmes氏は説明します。
さらに、Herbert氏は
私たちの研究は、細胞が分裂前に持つ形状が、その後球形になるかどうか、そして娘細胞が大きさや機能において対称か非対称かを根本的に決定することを示唆しています。
とも述べています。
そして、この研究はがんなどの疾患における細胞分裂の理解にも重要な意味を持つようです。将来的には、母細胞の形を制御することで異なる機能を持つ細胞を人工的に作り出せる可能性があるといいます。観点を広げると、非対称分裂が異なる組織や器官の形成において重要な役割を果たしていることも示唆されています。このメカニズムは、がんの進行などにも関係する可能性があり、病気の理解や治療においても新たな道を開くと考えられます。
とはいえ、近い将来、多くの生徒や保護者、学校関係者が教科書を新しくするために出費を強いられるかもしれないことには、同情しますけどね。
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