さすがのクマムシでも耐えられないような過酷な実験だった様子。
クマムシという虫をご存じですか? 体長約0.5ミリで、8本足の小さな生き物。でも氷点下でも放射線にまみれた場所でも、食べ物がなくても、なんなら宇宙空間でも生きることのできる、とってもタフな生物です。
そんな不死身ともいえるクマムシに極小の「タトゥー」を入れることに成功した、という風変わりな研究論文がNano Letters誌に掲載されました。
中国・西湖大学の研究チームは、非常に小さな部品や構造をナノ単位で加工する「微細加工技術」を応用した「アイス・リソグラフィー」という技術を開発。生きた虫を微細加工する、というこれまで不可能と思われてきた実験を成功させました。
そもそも微細加工技術は半導体製品や医療機器の製造・加工などに使われるほか、太陽電池や食品汚染やがん細胞を検出するバイオセンサーに至るまで、現代のナノテクノロジーに欠かせない手法です。
これを生きた生物の加工に応用できるとなれば、医学や生物工学に大きな影響を与える可能性があるんだとか。
ただ、実験内容をよくよく見ると、クマムシさんにとってはかなり過酷だったことがわかります。今回使われたアイス・リソグラフィー技術では、クマムシを一度乾眠状態(つまり仮死状態)にし、マイナス143℃以下に冷却したうえで、有機化合物アニソールの保護層で覆います。
そこに集束電子ビームを当てて模様を刻み、真空下で室温まで温めると、ビームに反応したアニソールの模様が残るというわけです。仕上げにクマムシに水分を与えて蘇生させて、実験終了。
確かにこの技術は非常に精密で、正方形、点、幅72ナノメートルほどの線、大学のロゴなどの微細なパターンを刻むことに成功しました。
ただ、こんな実験に耐えられる生物はなかなかいません。乾眠状態であれば、人間の半数が死亡する放射線量の1,000倍もの高線量にも耐え抜くとされるクマムシですが、今回の実験後の生存率はたったの約40%だったのだとか。これを医学や生物工学に活かせるようになるまでには時間がかかりそう。
それでも、実験を生き延びたタトゥー付きのクマムシは、その後特に変化なく行動できていたといいますので、今後研究がすすめば命の危険を最小限に抑えての精密な医療措置などが可能になるかもしれません。
Source: phys.org
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