SFの話じゃない。「未来の乗り物」は10年以内に街にやってくる

  • 2025年3月26日
  • Gizmodo Japan

SFの話じゃない。「未来の乗り物」は10年以内に街にやってくる
Photo: ギズモード・ジャパン/北九州空港で行なわれた自動運転バスの実証実験の様子

SFっぽい生活が、もうすぐそこまで。

ドライバー不足に悩むバス業界、地方の路線廃止、移動弱者の増加…。ニュースでたびたび耳にするこの話題、「何とかならないの?」って思ったことはないですか?

そんな課題に真正面からアプローチしているのが、商用車メーカーの「いすゞ自動車」と、自動運転ソフトウェア開発のスタートアップ「ティアフォー」です。いま両社は、実用段階の「自動運転バス」開発を加速させているんです。

「どうせ10年くらい先の話でしょ?」と思うかもしれませんが……なんと、地方の一部区間ではすでに無人で走り始めているだけでなく、もっと早い段階で大きく普及しそうなんだとか。

とはいえ、本当にバスから「人間の運転手」がいなくなって大丈夫なの? いろんな気になる疑問を、全部ぶつけてきました。

Photo: 小原啓樹

<プロフィール>

いすゞ自動車 AD技術開発・設計グループ 池田真悟さん(写真右)

ティアフォー エンジニア 關野(せきの)修さん/大場真紀さん(写真左/中央)

実はもう走ってた。いすゞが目指す「自動運転バス」

Photo: 小原啓樹 ティアフォーのオフィスに設置されているシミュレーター

いすゞといえばトラックやバスといった「働くクルマ」のメーカーというイメージですが、一般に自動運転といえばタクシーを含む乗用車が話題になりがちですよね。

しかし、交通インフラとして普及してるバスの自動運転にも大きな意義があるといいます。

池田さん(いすゞ):以前からバス運転手の不足が深刻化しており、地域交通が成り立たなくなる恐れがあるのが現状です。そこで注目されているのが自動運転技術なんですね。

実際に私たちが自動運転バスに取り組むのは「この課題に自動車メーカーとして本気で向き合わないと、社会インフラ自体が危うい」という危機感が影響しています。

Photo: 小原啓樹

そんないすゞがパートナーとして選んだのは、自動運転用のソフトウェア「Autoware(オートウェア)」で世界的に注目されるティアフォー。ソフトウェアのソースコードを無償または低コストで公開し、誰でも利用や改変できる「オープンソース」に基づいた自動運転技術を軸に、国内外で導入事例を拡大している企業です。

池田さん(いすゞ):やはりオープンソースで開発されていることが大きな決め手ですね。

自動運転を丸ごとサプライヤーに依頼して「ブラックボックス化」されてしまうと、いすゞとしてはノウハウが得られず、改良もしにくい。

ティアフォーさんはオープンソースで一緒に開発できるので、こちらから「こんな機能がほしい」と提案しやすいんです。

しかも、ティアフォーさんはオープンソースを採用していることからもわかるとおり「社会インフラとしての自動運転」に強い想いを持たれています。そこは大きなポイントですね。

Photo: 小原啓樹 ティアフォーのシミュレーターを使い、お台場をモデルにしたマップの中を走行している様子

そんな「自動運転バス」開発プロジェクトですが、いすゞが目指すのは「完全な無人運転」なのでしょうか? それとも運転補助?

池田さん(いすゞ):やはり最終的な目標は、運転席に誰もいない「レベル4」を実現することです。

なぜなら「バスドライバーの不足」がそもそもの課題だからです。ただし、当然それには法整備や社会受容性の問題、事故リスクや運用体制など、踏むべきステップが山ほどあります。

全路線がいきなり無人化、というのは難しいでしょう。まずは比較的交通量の少ない地域から「特定区間の無人運行」に挑戦していくイメージです。

Image: 長野県塩尻市 長野県塩尻市で運行していた自動運転バス

実際に特定区間におけるレベル4運行が既に実証されており、今年度も継続して試験運用が行なわれました。行ってみたい。乗ってみたい…。

大場さん(ティアフォー):長野県塩尻市では、2020年から自動運転移動サービスの実現に向けた取り組みを進めています。実証実験の期間中に多くの地元住民の方に乗っていただき、自動運転に関しての認知向上と課題の洗い出しを行なっています。

とはいえ、これはあくまで限られた区間での実験なので、全国どこでも無人で走れるかというと、そこはまた別のチャレンジです。それでも、先行事例を作ることで課題やデータを蓄積できるのは大きいですね。

技術の仕組みと現在地。自動運転バスは乗用車とどう違う?

Photo: 小原啓樹 ティアフォーが所有する自動運転のテスト車両の上部に設置されたセンサー

自動運転バスは基本的に「認知」「判断」「操作」の3工程をAI+センサーで行ないます。

カメラ、レーダー、LiDARなど多数のセンサーで車両周辺を360度把握し、車線や歩行者、障害物などを検知。AI(ソフトウェア)がルートや速度を決定し、その指示どおりにアクセルやブレーキ、ステアリングを動かすという流れが基本です。

Photo: 小原啓樹 自動運転のテスト車両の後部に設置されたコンピューターなどの機材

しかし、一般的な乗用車とバスとでは大きく異なる要素があるんです。

關野(せきの)さん(ティアフォー):バスは幅・高さ・重量が乗用車より大きく、より厳しい制御が必要なほか、さらには早めの減速や、正確な停車位置、乗降時の安全を確保する技術などが求められます。なおかつ社会の足なので、毎日ちゃんと走り続けられる可用性も不可欠なんですよね。

大場さん(ティアフォー):実はバス停の決まった位置にぴたりと停めるのが意外に難しいんです。車いす用スロープを出すなら数cm単位で寄せないといけなくて、本当にシビアです。バスの運転手さんの技術の高さには感服します。

Photo: 小原啓樹 レーダー、LIDARなどが設置されたテスト車両の前面部分

さらに開発側からすると、バス車両をAI制御できるように作り込むことだけでなく、道路や信号などのインフラ側の協力も重要なカギになるんだとか。たとえば「信号連携機能」はその好例です。

具体的には、バスが信号から「あと数秒で黄色になる」という情報を受け取り、早めにブレーキをかければ、衝撃も少なく安全に停止できるように。

人間の運転手だと、経験だったり、歩行者信号から信号の切り替わりを予想した行動ができますが、カメラによる認識だけだと精度の面でまだまだ課題があります。

池田さん(いすゞ):自動運転って、クルマだけで完結するものじゃないんですよね。「社会全体をどう変えていくか」が勝負どころ。法整備や自動運転バスが走りやすい道路設計、遠隔監視体制など、周辺環境が整うほど無人運転の実用化も早まります。

自動運転がもたらす未来では、人間の運転手がいなくなる?

Image: いすゞ自動車 2024年の末から年始にかけて、神奈川県平塚市内の実証実験で走行した自動運転バス

はじめに紹介したように、いま全国各地で、バスの減便や路線廃止が相次いでいます。

でも、自動運転バスならばドライバー不足が原因での運行制限が緩和され、過疎地や深夜・早朝といった時間帯にも安定してバスを走らせやすくなります。その結果、地方に住む高齢者や、駅から遠い地域に暮らす人々が気軽に外出できるようになるかもしれません。

池田さん(いすゞ):移動手段が増えるというのは、単に“便利”なだけじゃなく、地域経済の活性化にもつながります。買い物や通院の足を失った高齢者、通学手段に困っている学生が、バスを使えるようになる。その先には「地方でも働きやすい、住みやすい」社会が広がると考えています。

Photo: ギズモード・ジャパン 北九州空港で行なわれた自動運転バスの実証実験の車内の様子

さらに思ったよりも、自動運転バスの普及は未来の話ではなさそうです。

池田さん(いすゞ):理想としては10年後を待たず、2030年代の前半には、一部エリアで「運転席に人がいない無人運行」を実現したいと考えています。

正直、10年後も実現できていないようだと「もう永遠にできないかもしれない」という危機感があるんです。社会の期待が大きいですし、海外勢に遅れを取らないためにも早く実現したいです。

大場さん(ティアフォー):AI技術の進歩は加速度的なので、“もっと先”だと思われていたことが意外と早く可能になる流れもあります。ソフトウェアの要素が大きい分、法整備や社会の理解が進めば、10年後にはあちこちで無人バスが走っているかもしれません。

ただし、全国で一斉に完全無人化できるわけではなく、さまざまなパターンのバスが並行して走る世界になりそうです。

池田さん(いすゞ):将来的に無人運行を目指すとはいえ、都市部など複雑な交通環境下では当面ドライバーが必要でしょうし「すべてのバスが完全無人化」という未来はもう少し先の話だと思います。

まずは「比較的交通量の少ない地域・路線」から無人運行を導入し、ドライバー不足を補う。そして難易度の高い区間では従来のように運転手が必要、というイメージです。

むしろ人間のドライバーの役割は「本当に必要な場所」で運転するかたちにシフトし、一方で無人バスの遠隔監視やトラブル対応など、新しいポジションが増えていく可能性もあると思います。

すぐそこにある未来。この変化に注目していきたい。10年も経たずに自動運転バスを実用化させたい、というお話を聞いたときはかなりワクワクさせられました。

昨今のAI技術によって進歩はさらに加速しそう

Image: Shutterstock.com

こうした未来の話って、どうしても「まだまだ先なんでしょ」って思ってしまうのですが、そんなにかからないという見込みからは技術の進歩がAIの登場によってさらに加速しているのを感じます。

実際に昨今話題の大規模言語モデル(LLM)というAIの急速な発展が自動運転技術にも大きな影響を与えているようで、ここのお話も非常に興味深いものがありました。

大場さん(ティアフォー):従来の自動運転システムでは、人間が細かく条件を設定していく「ルールベース」が主流でしたが、AIの登場によって、イレギュラーな状況に対しても柔軟な判断が可能になっていきます。

特に最近のチャット型AIが採用しているような「トランスフォーマー」というニューラルネット技術の発展は、自動運転においてブレイクスルーになる可能性を秘めています。

予期しない状況にも柔軟に対応できる一方で「なぜその判断をしたのか」がブラックボックスになりがちなので、いきなりすべてがAIに切り替わるのではなく、まずはルールベースとAIのハイブリッド型が進んでいくのではないかと思います。

ティアフォーでも大学などと連携しながら研究を進めており、最終的にはより柔軟で高度なAIベースのシステムを自動運転バスに搭載することを目指しています。

オープンソースで開発している一方で、AIの判断がブラックボックスになりかねない。この状況は人間には理解し難い一手を指す、チェスや将棋、囲碁のAIの動きを思わせます。

とにかく、いすゞの自動運転バスはもはやSFではなく、もうすぐそこに実現しつつある現実であることがよくわかった取材でした。

一歩先の未来には、一体どんな景色が広がるのか…。すごくワクワクしてきませんか?

テクノロジーが社会を変える、その過程を見届けられるのは今だけ。ぜひ注目したい動きです。

Source: いすゞ自動車

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