オスカーの夜を彩るスピーチ。『ANORA アノーラ』5冠。独立系映画がアカデミー賞快進撃

現地時間3月2日、第97回アカデミー賞がロサンゼルスのドルビー・シアターで開催されました。

今年はショーン・ベイカー監督の『ANORA アノーラ』（公開中）が、独立系映画にして作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞の5冠を達成しました。

ベイカー監督は一晩で4つのオスカー（作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞）を手にしたわけですが、これは1954年にウォルト・ディズニーが成し遂げて以来の快挙なのだとか。個人として1本の映画で4部門のアカデミー賞を受賞した人物は史上初だそうです。

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ショーン・ベイカー 受賞スピーチ（監督賞）： クエンティン（・タランティーノ監督／プレゼンター）、もしあなたがマイキー・マディソンを『ワンス・アポン・ア・タイム（・イン・ハリウッド）』にキャスティングしなかったら、『ANORA アノーラ』は生まれませんでした。ありがとうございます。あなたの素晴らしい作品にも感謝しています。皆さん、僕は壇上での時間を使って、自分が本当に情熱を注いでいることについて読み上げたいと思っています。まずは何よりもアカデミーに感謝します。この受賞はとても意味のあることです。一緒にノミネートされた皆さんもありがとうございます。皆さんの映画は素晴らしかったですし、同じ部門に選ばれて光栄です。これ（オスカー像）は下に置かせてもらうね…。

僕たちが今夜ここにいる、そして、この放送を観ているのは、みんな映画が大好きだからです。僕らが映画に恋した場所はどこだったでしょうか？ そう、映画館です。観客と一緒に映画館で映画を観るということは特別な体験なのです。僕らは一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に叫んで戦い、ことによれば一緒に打ちのめされて、ただ沈黙して座っていることもあります。世界が分断されていると感じられるこの時代、この体験はかつてないほどに重要です。家では決して味わえない共同体験なのです。

そして今、映画館に足を運ぶという体験が危険にさらされています。映画館、特に独立系の映画館は苦戦しており、彼らを支援できるかどうかは僕たちにかかっています。アメリカではパンデミックの間に約1,000のスクリーンが失われ、その後も定期的に失われ続けています。この傾向を逆転させなければ、僕たちは文化のとても大切な部分を失うことになります。

これは僕のスローガンです。フィルムメーカーの皆さん、大きなスクリーンのための映画を作り続けてください。僕は必ずそうします。配給会社の皆さん、まず何よりも映画の劇場公開に集中してください。僕のためにそうしてくれたNEONには、心の底から感謝しています。親御さんたち、子どもたちに映画館で長編映画を見せてあげてください。そうすれば、きっと次世代の映画ファンやフィルムメーカーが育っていくはずです。そして、すべての皆さん、可能な限り映画は映画館で観てください。映画館に行くという素晴らしい伝統を守り続けましょう。

そして最後に、私の母は5歳の僕を映画に引き合わせてくれました。今日は母の誕生日なんです。母さん、お誕生日おめでとう！ 愛してるよ。すべてに対してありがとう。この賞は母さんに捧げます！

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オスカー初ノミネートにして主演女優賞を受賞したのは、『ANORA アノーラ』でストリップダンサーのアノーラ役を体当たりで演じたマイキー・マディソン。ベイカー監督がクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出演していたマディソンの演技に魅了され、当て書きした役なのだそうです。

マイキー・マディソン 受賞スピーチ： ワォ、夢みたいです。緊張しているのでカンペを読みますね。アカデミーの皆さん、本当にありがとうございます。私はロサンゼルスで育ったのですが、いつだってハリウッドはとても遠い場所だと感じていました。だから、今日この会場でここに立っていることが本当に信じられません。NEON、フィルム・ネーション、ユニバーサルにも感謝します。私の素晴らしい家族にもありがとう。ママ、パパ、お姉ちゃん、弟、そして、双子の兄弟のマイルズーー私の親友でいてくれてありがとう。まあ、君に選択肢があったわけではないけどね（笑）。

（中略）

美しい背景と素晴らしいコミュニティを貸してくださった（ロケ地の）ブライトン・ビーチにも感謝します。そして改めて、セックスワーカーのコミュニティを称え、敬意を表したいと思います。私はこれからも支援を続け、アライ（性的マイノリティを理解し、支援する人）であり続けます。すべての素晴らしい人々、あのコミュニティの女性たちに出会う機会に恵まれたことが、この素晴らしい経験全体を通してのハイライトの一つとなりました。

また、一緒にノミネートされた皆さんの思慮深く、知的で、美しくて、息をのむような演技を称えたいと思います。皆さんと並んで認めていただけて光栄です。これで夢が叶いました。きっと明日になったら覚めてしまうのかも（笑）。ショーン（・ベイカー監督）、本当にどうもありがとう。あなたのことを尊敬しています。すべてはあなたのおかげです。ありがとう！

主演男優賞に輝いたのは、『ブルータリスト』（公開中）でホロコーストを生き延びて渡米した建築家を演じたエイドリアン・ブロディ。『戦場のピアニスト』（2002）以来、2度目の受賞を果たしました。

エイドリアン・ブロディ 受賞スピーチ： 神様ありがとう。この恵まれた人生に感謝します。まずはこの世界、そして僕を敬意と感謝の念を持って扱ってくれたすべての人たちから感じた途方もない、溢れんばかりの愛に、謙虚に感謝したいと思います。僕は本当に幸運だと感じています。

（中略）

ブレイディ（・コーベット監督）とモナ（・ファストボールド脚本）、あなたたちが独立系映画のためにしてきたこと、そして、その美しい精神と、この作品の勝利の中に僕の居場所を与えてくれたことに感謝します。共演したキャストのガイ（・ピアース）とフェリシティ（・ジョーンズ）もありがとう。ただただ素晴らしく、素敵でした。この賞をあなたたちと分かち合いたいと思います。

僕は、戦争、組織的抑圧、反ユダヤ主義、人種差別、他者への差別による、根深いトラウマとその影響を代表するために、再びここに来ました。そして、より健康で、より幸せで、より包括的な世界のために祈っています。過去が僕たちに教えてくれることがあるとすれば、それは憎しみを野放しにしないということだと思います。皆さんを愛しています。皆さんに感謝しています。正しいことのために戦いましょう。笑顔を絶やさず、お互いを愛し続けてください。一緒に再建しましょう。ありがとう。

助演女優賞は『エミリア・ペレス』（3月28日公開）のゾーイ・サルダナ、助演男優賞は『リアル・ペイン〜心の旅』（公開中）のキーラン・カルキンが、それぞれ初のオスカーを獲得しました。

全部門の受賞一覧は以下の通り。

『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督は今週末に来日し、3月8日にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで舞台挨拶、新宿ピカデリーでQ&Aが予定されています。

作品賞： 『ANORA アノーラ』

監督賞： ショーン・ベイカー『ANORA アノーラ』

主演男優賞： エイドリアン・ブロディ『ブルータリスト』

主演女優賞： マイキー・マディソン『ANORA アノーラ』

助演男優賞： キーラン・カルキン『リアル・ペイン〜心の旅〜』

助演女優賞： ゾーイ・サルダナ『エミリア・ペレス』

脚本賞 『ANORA アノーラ』

脚色賞 『教皇選挙』

国際長編映画賞 『アイム・スティル・ヒア』（ブラジル）

長編アニメーション賞 『Flow』

短編アニメーション賞 『イトスギの影の中で』

長編ドキュメンタリー賞 『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』

短編ドキュメンタリー賞 『ザ・レディ・イン・オーケストラ NYフィルを変えた風』

短編実写映画賞 『私は人間』

撮影賞 『ブルータリスト』

美術賞 『ウィキッド ふたりの魔女』

編集賞 『ANORA アノーラ』

音響賞 『デューン 砂の惑星PART2』

視覚効果賞 『デューン 砂の惑星PART2』

歌曲賞 「El Mal」『エミリア・ペレス』

作曲賞 『ブルータリスト』

衣装デザイン賞 『ウィキッド ふたりの魔女』

メイクアップ&ヘアスタイリング賞 『サブスタンス』

Source: The 97th Academy Awards