東京どころか日本中で“鮨バブル”と言われている昨今。高級なだけでなく、さまざまなフックを持つ鮨店が増えている。今、大注目なのは、「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」。フォーシーズンズホテル大阪の最上階にあるレストラン。
ここはフレンチ? お寿司? まさに寿司の新時代を思わせる、ここにしかない見事な文化の融合をご紹介したい。
ホテルの鮨店といったら、古式ゆかしく、海外から訪れるゲストにも鮨の文化を優しく伝えるようなお店が定番。確かに、紡がれた文化を伝えていくのも大切だが、世界中から和の食を求めて集まる人々は、何度も鮨を体験し、刺激を求め始めているのかもしれない。
2024年にオープンした「フォーシーズンズホテル大阪」の最上階に誕生した「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」(海外では「L’ABYSSE」)は、海外ゲストにも、同時に日本のフーディにも刺激的な一店だ。
こちらを監修するのは、フランスでモダンフレンチを牽引するヤニック・アレノシェフ。フランス国内で三ツ星レストランを2軒同時に手掛ける唯一無二の存在だ。現在「L’ABYSSE」はパリ・シャンゼリゼ通りとモナコ・モンテカルロに店を構えており、どのお店もコンセプトは同様。江戸前鮨とフランス料理の融合、だ。
これまでも“カリフォルニアロール”のように鮨と異文化が合体したことはあるけれど、ここではその展開の仕方が新しい。
コースの前半はフレンチのシェフが提案する「エモーション」、そして江戸前鮨、最後にまたフレンチの「デザート」と分かれており、それぞれ専門の職人が腕を振るうというわけ。
始まりは小さなブーケのようなサラダ。経木でくるりと巻いた野菜は、そっと手に取ってぱくり。エンダイブ、トレビスといったほろ苦い野菜とマッシュルーム、りんごは瑞々しく、コントラストが口の中でひとつになる。シャンパンにぴったりのひと品だ。「手で食べる」という行為へのプロローグでもある。
鮨のシャリと同じお米で作ったドームの中に、たらの身とスープ・ド・ポワソンのゼリーを閉じ込めて。ダイス状に切ったカブの酢漬けと一緒に口に入れると、フランス料理を食べながら酢飯への気分が少しずつ盛り上がる。
ここで大阪限定の、魚卵を使った料理「たまごとキャビア」を。中トロの上に半熟卵とエシャロット、そしてキャビアをたっぷり。魚卵の旨味と塩味でいただく卵と中落ちは、よく焼いた香ばしいトーストを添えてしっかりとフレンチだ。
「帆立、山椒、白州のスモーキーなブイヨン」では帆立に桜が香る紅茶のシートをのせ、菊芋と12年ものの白州を使ったハマグリの出汁を添えて。飲んでも、かけても、お腹の中をほんのりと温かく満たし、鮨のパートへ繋がっていく。
少しずつ鮨の予感がちりばめられてきたコースも、いよいよ鮨へ。シンプルなお造りの登場で一気に鮨の世界に突入する。まったく違うはずの世界観の間を滑らかに移行するのがさすがである。ここからは安田至料理長率いる熟練した鮨の板前たちが腕を振るう。
フレンチの世界から引き戻された世界では、ヤニックシェフが大好物だという大トロなどパンチのある味わいで。中とろには炭の香りをほんのりと纏わせている。
握りは10カンほど。玄米酢と米酢をブレンドして作った酢飯(これもヤニックシェフの大好物)は、なんともやわらかな酸味で、食後も喉が渇かないように作ってるという。また、リンゴ入りのガリも甘みとみずみずしさがおいしくて、ついつい箸が伸びる。
握りは白身や昆布〆、赤身のヅケとリズミカルに続き、笹にのせて香りよく焼いたアナゴで小休止。
口直しの「豆腐」は、できたてにトマトの透明なスープをかけたものをつるりといただく。
海老のひと皿では、優しくしっとりと火を通し、柚子風味のごまと生姜、大葉、そしてブラックレモンが入ったマヨネーズを添えて。
そして、鮨の〆としてウニと焼いたアブラボウズのミニ丼や大トロの巻き物にカウンターのあちこちから歓声が上がり、鮨は大団円。シグネチャーでもある「大地と海のコンソメ」を飲んでほっとひと息となる。
デザートはまた一気にフレンチの世界に入り込む。ひと皿目はアロエヴェラの刺身をイチゴソースに漬けたもの。ワサビと、しそのクリスタルをぱらりとふり、口の中がすっきりすると同時に、また前菜の世界観に戻ってきたことに気づく。
こちらはマッシュルームのアイスクリーム。マッシュルーム入りのメープルバニラソースでコクのある味わい。そして、蕎麦茶のヌガーがカリカリと、スダチの風味を付けたしめじと個性的な味が重なり合う。
3皿目は「紫蘇の天麩羅」だ。天麩羅は高温の油でカリッと揚げるが、ここでは、超低温の液体窒素で紫蘇をパリパリに。レモンと洋ナシのメレンゲを添え、溶ける前にその独特の食感を味わう。
〆は4時間半をかけて落とす、水出しコーヒーと海草を加えて焼いたパイ。パイには岩塩入りのジャスミンクリームがたっぷりと添えられ、なんとも贅沢だ。
モダンフレンチの技法とプレゼンテーションに圧倒される「エモーション」から、私たちにとってはなじみ深い鮨、そして、心弾むデザートへ。大きな主題のうねりやちりばめられた小刻みな楽しみ……まるで壮大な交響曲に浸っているかのような、ここでしかできない食体験だ。
鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ
所在地 大阪府大阪市堂島2-4-32 フォーシーズンズホテル大阪37F
電話番号 06-6676-8591(レストラン予約)
営業時間 12:00〜15:00(L.O.14:30)、18:00〜21:00(L.O.20:30)
定休日 水曜
https://www.fourseasons.com/jp/osaka/dining/restaurants/sushi-labysse-osaka-yannick-alleno/
●料理の内容は季節で変更あり。
文=CREA編集部