俳優の小林聡美さんがAmazonオーディブルでの朗読に初めて挑戦。作品は、アメリカの生物学者、作家であるレイチェル・カーソンが最期に残したベストセラー『センス・オブ・ワンダー』。自然の美しさが私たちを癒やしてくれることを書いたこの作品の魅力を聞きました。また、自身と自然との関わり、エッセイストとしての自分についても語っていただきました。
――『沈黙の春』で知られるレイチェル・カーソンさんの『センス・オブ・ワンダー』。自然の美しさを姪の息子に伝えていく、彼女の遺作ですよね。過去にレイチェル・カーソン作品を読まれたことは?
小林 最初に読んだのはやはり『沈黙の春』で、内容に衝撃を受けて、レイチェル・カーソンという作家の名前は私の心に深く刻まれていたんです。
――『沈黙の春』はたしかにショッキングな本でした。環境問題というもの自体が世間に知られていない時代に、環境に目を向けさせるような事実が書かれていて。
小林 なんでしょうね。ノンフィクションではありますが、ただのリポートとは違う、心情に訴えかける内容なんですよね。それこそ文学的な訴え方というか……。それがすごく胸に響きました。ふだん何気なく暮らす中で、そういった意識をしていないことの罪、その重大さを感じました。『センス・オブ・ワンダー』も、その後買って読みました。奥付を見たら20年くらい前の発行だったので、30代後半くらいで読んでいたことになると思うのですが。
――では、今回「この作品を朗読してほしい」と依頼が来た時は驚かれましたか?
小林 いやもう、とても嬉しかったです。
――『センス・オブ・ワンダー』についてはどんな印象を?
小林 『沈黙の春』が衝撃だったので、ちょっと身構えていたんですが、すごく手ざわりがやわらかい作品という印象があって。
――やわらかい。
小林 そう。このやわらかさには、『沈黙の春』で厳しいことを書いた人だからこその凄みがあるなと思いました。『センス・オブ・ワンダー』は最晩年に書かれたものということですが、虫のことや苔のこと、自然に対する眼差しがすごく繊細で、視野が大きいというか。 レイチェル・カーソンという人のおおらかさを、すごく感じられる作品だなと思います。
――今回、朗読するにあたって読み直されたと思いますが、印象に変化はありましたか?
小林 レイチェルさんがこの作品を書いた年齢に近い今のほうが、彼女が伝えたかったメッセージをより理解できるような感覚はありました。地球環境が変化していっても、自然の営みは昔から変わらず繰り返されているわけじゃないですか。人それぞれ、そういうことに気づくタイミングというのがあるような気がして。
もちろん若い頃からそういうことに敏感な人もいるんでしょうけど、ご本人も書かれているように、忙しさの中でそういう感覚を鈍らせてしまっていたんでしょうね、私も。そこから歳を重ねて、ゆっくり周りを観られるようになってきたことで、彼女が言っていることにすごく共感できるようになった気がします。
――作中で、とくに印象に残っている一節はありますか?
小林 たくさんありますけど、「自然がくりかえすリフレイン――夜の次に朝がきて、冬が去れば春になるという確かさ――のなかには、かぎりなくわたしたちをいやしてくれるなにかがあるのです」という文章は心に響きましたね。それから、一節ではありませんが、鳥の声が重なっていくようすとか虫たちの鳴き声のようすとか、そういうものが読むだけで音として頭の中でわっと広がるイメージがあって、表現がすごく豊かだなと思いました。
――小林さんご自身が庭仕事をされたりして自然と触れ合っていることも、先ほどおっしゃった「年齢を重ねて気づく」に繋がっていたのでしょうか。
小林 そうですね。人間も地球の一部として、生き物として自然に対する興味がおのずと生まれる時期があるような気がします。私自身も30歳を過ぎた頃からなんとなく鳥に興味を持ち始めて観察したり、植物の名前を覚えることが好きになったり……そうやって楽しむことが続いています。人間はやっぱりそんな風に自然に共鳴していく生き物なのではないかな、と思ったりします。
――わかる気がします。私も、若い頃よりも自然が好きになった感覚があります。
小林 作中では「わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が、すくなくともひとり、そばにいる必要があります」「子どもが知りたがるような道を切りひらいてやることのほうがどんなにたいせつであるか」とも語られているのですが、まさにその「大人」がレイチェル・カーソンで、「子ども」が私たちなのかな、と読みながら思いました。
この作品に触れることで、今まで経験してきたけれどぼんやりとしていたことが、すごく鮮明によみがえる感じ。まさに「センス・オブ・ワンダー」、自然を感じる感覚をよみがえらせてくれるというか……。
――ちなみに、今はどんな植物を育てていらっしゃるんですか?
小林 一時期食べ物を育てていたんですがあまりにもたいへんで、ちょっとお休みしていて。今は観葉植物を。でもそれもすごく長生きでもう10年以上になるので、家族みたいな感じになっています。剪定するときも、「ちょっとごめんね」みたいな感覚がありますね。
――小林さんご自身もエッセイストとしてたくさんの本を書かれていますが、エッセイストとしてのレイチェル・カーソンをどう観ていますか?
小林 いやいや、私を引き合いに出すのはお門違い(笑)。彼女は視点が大人ですし、伝えたいテーマが本当に美しいですから。
――小林さんのエッセイや、そこに書かれているマインドは「大人」ではない……?
小林 そうですね。経験はそれなりに積んできているつもりですけど、私が思っている大人ではないです。レイチェルさんは、言うことに迷いがないじゃないですか。でも私は「〜かも?」という感じ。断言する力強さ、覚悟、潔さをレイチェルさんには感じます。
――ただ、以前小林さんのエッセイ『茶柱の立つところ』についてお話を聞いた際も「読んでこの先を生きていく勇気が湧いた」とお伝えしましたが、小林さんの迷っている姿も、読む者に勇気を与えてくれるのかなとも思います。
小林 読んだ方が「安心して迷える」と思ってくださるのであれば嬉しいです(笑)。
『センス・オブ・ワンダー』
作品名:センス・オブ・ワンダー
著者:レイチェル・カーソン
ナレーター:小林聡美
配信日:Audible にて、アースデーの2025年4月22日より配信
URL::https://www.audible.co.jp/pd/B0F48MQ35R
雨のそぼ降る森、嵐の去ったあとの海辺、晴れた夜の岬。そこは鳥や虫や植物が歓喜の声をあげ、生命なきものさえ生を祝福し、子どもたちへの大切な贈り物を用意して待っている場所……。未知なる神秘に目をみはる感性を取り戻し、発見の喜びに浸ろう。環境保護に先鞭をつけた女性生物学者が遺した世界的ベストセラー。
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黄色トップス、パンツ/nooy
アクセサリー(ピアス、ネックレス)/CASUCA
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文=釣木文恵
写真=杉山拓也
ヘアメイク=尾花 ケイコ(PINKSSION)
スタイリスト=三好 マリコ