うつわのある暮らしには憧れるけれど、どんなふうに集めていったらいいんだろう……? うつわを手軽に、上手に暮らしに取り入れるためのヒントを求めて、達人たちを訪ねました。
文房具メーカーで企画・デザインの仕事に携わった後、窯業訓練校で学び、食器ブランドに就職。販売から企画、百貨店への卸業務などに従事した後に独立。2007年に東京都国立市で「黄色い鳥器店」をオープンする。うつわ以外にも工芸品や民芸品、布、アクセサリーなどを独自のセンスで幅広く揃える。都心や他県から通うファンも多い。
「最初に買うとしたら、どんなうつわがいいのか」と迷われること、ありますよね。こういうのが間違いない、無難に使いやすい、といった決まりごともあると思うけれど、私はやっぱり「直感」を大事にしてほしいと思っています。もしうちのお店に来てくださったなら、「自分で選ぶ感覚」を探ってほしいですね。「あ、これは……」とピンと来たものを手に取ってみると、何か感じるものがあるはず。それを実際に使っていくうち「自分が好きなもの」の感覚が、だんだんと分かってくるんです。
とはいえ、最初に買うなら手持ちの食器と合わせやすいシンプルなものがいいでしょうかね。洋服選びと同じ感覚でいいんじゃないかな、と私は思っていて。あらゆるものに合わせやすい存在といえば、白いシャツ。五十嵐元次さんのうつわはまさにそんな感じ。シンプルな白磁のうつわは様々な料理をきれいに、おいしそうに見せてくれます。食洗器やレンジにも対応可の使いやすさもいい。
「シンプル=使いやすい」というわけでもなく、寺門広気さんという作家さんのうつわは絵柄がユニークで楽しいのですが、意外といろんな料理に合わせやすいんです。うちに置いてあるうつわは基本的にどれも「日常での使いやすさ」を考えて選んでいます。ちなみに寺門さんはもともとモダンアートの作家さんで、「モダンアートを食卓に」という思いで制作されている方なんですよ。ユニークなうつわは「心躍らせるもの」として活躍してくれます。ファッションでいうとバッグや帽子、ストールみたいな存在でしょうか。たまに眺めるだけでも特別な気分になれるというか。
橋本美貴子さんのうつわは遊び心があって、かわいい絵柄が印象的。釉薬で絵を描いてから工程を重ねていく手間のかかる作り方で、あまりやる人がいないんです。かわいいけれど、実際に食べものを置いてみるとそこまで甘さは出なくて使いやすい。食べるうち、だんだん絵柄が見えてくる楽しさもあります。私もよく家で使っています。いろいろ盛ってみると意外な相性を発見できるのが楽しくて。普段は和菓子や果物をのせることが多いかな。
洋風でも和風でもいける便利で楽しいお皿を作るのが、加藤恵津子さん。彼女は内装デザインをやられていたこともあって、どのうつわも卓上のおさまりがすごくいいんです。一見使いにくそうなデザインでも、料理をのせてみれば実感できると思いますよ。彼女自身も料理上手なので、料理が映えるようなうつわを作るのがやっぱりうまいですね。
うつわを買うと私は料理がしたくなります。盛りたいものが浮かんでくるから。そしてうつわはさんざん持っているけれど、また同じようなものを買うことも多いですね。手持ちに無いものを探しにきたのに、結局いつも選ぶようなものを買ってしまう(笑)。
お帰りになるとき「楽しかったな」と思ってもらえるような店にしたいと常々思っています。うつわを探して選ぶ楽しさを「黄色い鳥器店」に来てぜひ、感じてください。
白央篤司
フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」がメインテーマ。主な著書に、日本各地に暮らす18人のごく日常の鍋とその人生を追った『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)がある。
https://www.instagram.com/hakuo416/
文=白央篤司
撮影=平松市聖