
何気ない一言が命取りに……。SNSでの炎上や誹謗中傷、実は誰にでも起こりうると知っていましたか?「自分は大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事態を招くこともあると元テレビ局員が指摘します。
「SNSで炎上なんて、自分はありえない」そう思っていませんか? でも、たった1つの不用意な投稿が、あなたの人生を大きく狂わせてしまうかもしれません。他人事ではないSNS炎上。その恐ろしさと、身を守るための具体的な対策とは?
元テレビ局員でSNS炎上研究家の加賀敬章さんがSNSの炎上と対処法を解説する著書『元テレビ局員がやさしく解説 SNS炎上防止大全』を一部抜粋。
SNS炎上がもたらす深刻な影響と、炎上や誹謗中傷を未然に防ぐための具体的な対策や心構えについて、炎上対策の専門家である「先輩」と、広報担当者で社会人2年目「美桜さん」の対話形式で紹介します。
■たいていのSNS炎上は「予防可能」
美桜:先輩、炎上したらどういった影響があるんですか? なんとなくこわいのはわかっているんですけど……。
先輩:いい質問だね。SNSでの炎上は、一瞬にして個人や企業の評判をすごく損なう可能性がある。
不適切な投稿をした場合、それが瞬く間に拡散され、批判の嵐に晒されるよね。炎上していること自体が話題となり、否定的なイメージが定着してしまうんだ。
結果として、就職や人間関係などに深刻な影響を及ぼすことも珍しくない。十分に注意が必要だね。
美桜:じゃあ、炎上を絶対的に防ぐことは無理なんでしょうか?
先輩:決して無理じゃないけどね。炎上の原因を理解し、些細なことでも対策を取ることが大切なんだ。
実は、たいていのSNS炎上は「予防可能」だよ。過去の事例から学び、自己防衛することで回避できるケースがほとんどなんだ。
■炎上を防ぐ3つのカギ
美桜:では、具体的にどんな対策があるんですか?教えてください!
先輩:炎上を防ぐには、自分の発信する内容を客観的に判断する力が重要だ。
投稿する前に、これは本当に必要な情報なのか、相手や社会にどのような影響を与えるのかを考えるべきなんだよ。
美桜:うーん、自分の発信の影響を考えるのはちょっと難しそうだなあ……。
先輩:そこは練習が必要なんだよ。コツは、他人の立場に立って考えてみる「共感力」なんだ。
「共感力」を養うことがいちばん大切で、これが高まれば、不適切な発信を自然と避けられるのではないかな。スマホやパソコンの向こうにいる人たちを想像し、投稿するときにみんなから見られていることを意識すると、誹謗中傷や非難コメントは書きにくい、なんていわれている。
美桜:へぇ〜「共感力」か。でも、そもそも「いいね」をつけることは共感してるってことですよねえ。
であれば、「共感力」だけではダメですよね。ほかにはどんな対策があるんですか?
先輩:炎上を避けるポイントはいくつかある。まず、個人情報の取り扱いだ。他人の個人情報を無断で投稿することは絶対に避けてほしいね。
美桜:画像つきで友達のことをネガティブに書いちゃダメなんですね。
先輩:そのとおり。また、政治や社会的な話題については、批判ばかり並べるのではなく、建設的な意見を示すことを心がけたほうがいいね。
美桜:意見が違うと主張の応酬になりがちですもんね。これも冷静さを失わないことが大事ですよね。
先輩:うん、そうだ。意見が違っても他者への配慮が欠かせない。
このほかにも、法的な線引きや企業のガイドラインを守ることが必要不可欠だろうね。SNSで発信するとき、とくに重要なポイントが3つあるんだ。
1つ目は「相手・状況の理解」。何を発信しようとしているのか、相手はどのように受け止めるかを慎重に判断することが必要だよ。
美桜:たしかに、相手の立場に立つことが大切ですね。
先輩:2つ目は「適切な表現」だね。人権侵害や名誉毀損にあたる表現は絶対に避けるべきでしょう。
美桜:冗談でも法的な線引きを超えるとアウトですもんね。
先輩:そして3つ目が「事後の対応」。時に誤解を招く事態が生じることがあるかもしれない。
でも、そのときは誠実で真摯な対話と謝罪が重要だろう。
■注意したい「炎上さしすせそ」とは?
美桜:どんなときも相手の気持ちになることが大切なんですね。でも、なかなか全員はできないと思いますけど……。
先輩:たしかに難しい面はあるけど、トレーニングすれば誰でも高められる力なんだ。また、投稿するときには、炎上しやすい話題のトピックを集めた「炎上さしすせそ」が参考になる。語呂合わせだけど、覚えておいたほうがいいよ。
「炎上さしすせそ」
さ:災害、差別
し:思想、宗教、ジェンダー
す:スパム、スポーツ、スキャンダル
せ:政治、セクシャル(LGBTQ+)
そ:操作ミス(誤投稿)
美桜:わかりやすいですね。「炎上さしすせそ」を参考にして、投稿するときに気をつけます。
最近は何気ないジェンダーに関することも炎上してしまいますもんね。参考になるわ。
あのう、先輩、炎上はわかりましたが、さっきも出てた誹謗中傷って、すごく増えている感じがするんですよ。誹謗中傷への対策はあるんでしょうか?
先輩:炎上と同じで、誹謗中傷への対策としても、まず冷静な判断が重要だろうね。批判的なコメントを受けた場合、感情的に反応するのではなく、対象となっている発言内容をあらためて確認しよう。
事実誤認がないか、論理の飛躍がないかを吟味し、冷静な視点から判断していこう。
美桜:感情的にならずに、じっくり確認するんですね。
先輩:そうです。そのうえで、誹謗中傷と判断できる場合は、法的措置も辞さない強い姿勢が必要だ。
名誉毀損やプライバシー侵害があれば、即刻通報・削除を求めるべきだろうね。
美桜:ひどいコメントであれば訴えればいいんじゃないですか? ただ、そこまで大げさになることは稀かもしれないですけど。
先輩:たしかに極端な例は少ないと思うけど、可能性としては大いにあるよね。
たとえば、政治家や著名人が、政治的に主張を受け入れない人や嫌悪している人、反社会的勢力によって集中的に非難されるケース。
それに一般人でも、日常生活を脅かされている場合、法的措置以外に対応の余地はほとんどないだろうね。
美桜:一般人の私個人がそこまでひどい誹謗中傷を受けることはまずないと思うんですけど……。
先輩:一般の人でも、トラブルの火種になりかねない対人関係のもつれから、トラブルがはじまることがある。決して油断できないよ。
まったくのデマで全然関係ない人が誹謗中傷された例もあるからね。あおり運転者の同乗者に似ているだけで誹謗中傷された一般の人だとか、ひどい例がいまでもあるんだ。
▼加賀敬章(かが のりあき)プロフィールoffice KG代表、SNS炎上研究家、研修講師、企業危機管理士、Webリスク管理士。1958年名古屋市生まれ。大学卒業後、テレビ局に入社。報道記者・営業・企画・総務部長・デジタル推進室長を歴任後、コンプライアンス推進局長に就任。関係会社役員を経て2022年に独立。テレビ局でコンプライアンスの総責任者・責任者を14年間務めた経験を活かして、現在は、研修により全国の組織人の育成に尽力。また、テレビ局時代に目の当たりにした炎上事件をきっかけに、SNS炎上事案や炎上防止策を研究し、企業や個人に向けて炎上対策などを伝えている。
加賀 敬章