
かわいい我が子が産まれて以来、幸せなはずなのにどうしても調子が悪い。「何で苦しいんだろう」と母は自らを責め、その重圧がさらに苦しみに……。
pixivマンガ月例賞(2023年3月投稿分)で優秀賞を受賞したオリジナル漫画「親になるのに向いてない」は、産後の不調から育児ノイローゼになり、がんじがらめになってしまう子育て中の女性の姿を描いた創作漫画だ。作者は「はんなりギロリの頼子さん」「閃光少女」「お母さんの正体 ハルカママの言えない本音」などの作品がある漫画家のあさのゆきこ(@YUKIKOASANO)さんで、本作では包み隠したくなるようなマイナスな感情や思いも余さず表現し、育児の中にあるリアルな苦しみを描いている。ウォーカープラスでは子育てというテーマで創作漫画を描こうと思ったきっかけや、作品にこめた思いをインタビューした。
■「ちゃんとした母親に」出口の見えない子育ての渦中を描く創作漫画
「親になるのに向いてない」は、あさのさんが自身のブログやpixiv上で発表しているシリーズ作品。待望の第一子を出産したものの、心身ともにすぐれない日々を送る母親の女性が主人公だ。
授乳や夜泣き、歩き始めてからのいたずらといった避けては通れない一つひとつに疲れ、時には涙が止まらなくなる女性。我が子は特段手がかかる子というわけではなく、夫や実家といった周囲のサポートもあるがゆえに、「ワンオペの人に笑われるよ…」「やっぱり私ポンコツなんだ」と自分を責めてしまう。
「自分は恵まれている」という思いからその葛藤を相談できず、「育児に向いてないよ」と独り言で漏らすのが精一杯の女性。我が子が幼稚園の未就園児クラスに入園する頃になると、「我が子の成長の遅れ」という新たな不安も増え、状態はさらに悪化していく。
どんどん気が短くなっていく自分を自覚しながら育児を続ける彼女だったが、かわいいはずの子供に八つ当たりし、時には「虐待」の二文字が脳裏をよぎるようになっていた。ある日、その様子を深刻に感じた姉のすすめでようやく心療内科を受診した女性は、その転機に「ちゃんとした母親になれるんだ!」と、自らに科すように決意するが――、という物語。
■「ぐちゃぐちゃになっても再生できる」育児で感じた悩みを創作漫画に投影
「恵まれている」「迷惑をかけられない」と、育児での苦しみを内に秘めて自壊寸前の母親を、子供の成長という時系列に沿って追いかける同作。やわらかなタッチでありながら、一人の母親のリアルな心境や感情が伝わる迫真の表現が、読者にさまざまな思いを感じさせる力を持った作品だ。
自身も二児の親であるあさのさんが、子育てで感じた悩みを創作漫画の主人公にたくし「救ってあげたい」という思いから描かれたという本作。今回は作者のあさのさんに話をうかがい、その舞台裏に迫った。
――創作漫画「親になるのに向いてない」を描こうと思ったきっかけを教えてください。
「主人公が子供について悩んでいたようなことを当時の私も悩んでいて『救ってあげたいなぁ』と思ったのがきっかけです。また、以前から長い漫画を自分だけで描いてみたかったという思いもありました」
――育児にがんじがらめになる主人公の姿に実在感を覚えます。フィクションである本作ですが、ご自身が子育てで感じた思いは作品に反映されているのでしょうか?
「はい。産後1年くらいまで子供がかわいく思えなかったり、周りの協力があるのになぜかいつもイライラしてしまい、ずっと自分を責めていました。ダメな自分を責めるより子供の成長に焦点を当ててみると気分が楽になったので、それを表現したいと思いました」
――本作の絵柄は頭身も低めでやわらかなだけに、感情表現が切実に映ります。作画の面ではどんなところを意識されましたか?
「毎日更新を心がけていて、そのために毎日描くのが嫌にならないくらいの頭身にしました。私は絵に力が入りすぎると描くのが億劫になるので、大事なコマだけパワーを使うようにしました」
――また、制作の中で特に力を入れたり、工夫したというポイントを教えてください。
「工夫したことで言えば、物語の最初は主人公の息子の顔をあえて描かずにいました。時間が進み、主人公の意識が変わった頃から顔を入れるようにしました。息子のことがだんだんとかわいく思えてくるのが伝わるようにと、思いました」
――一つの正解というものがない育児という題材で、一人の母親・人間の等身大の内面を丁寧に描いた作品だと感じます。あさのさんが本作で描きたかったことを教えてください。
「自分を責めてしまう母親の気持ちをわかってほしかったのと、ぐちゃぐちゃになっても再生できるという希望を描きたかったんです」
――pixivマンガ月例賞の受賞や、完結済みのブログでも多くのコメントが集まるなど反響を呼んだ作品です。作品を描き終えての思いを教えてください。
「とにかく完結できてよかったです!長い話を自分だけで最後まで描くことができたので、達成感がありました。賛否両論あると思いますが、より多くの人に読んでいただければうれしいです。今後も内面から絞り出すような話が描けたらいいなと思います」
取材協力:あさのゆきこ(@YUKIKOASANO)