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たこ焼きに地域差あり!?その存在をウワサされる“名古屋風たこ焼き”の謎を大調査

  • 2023年6月6日
  • Walkerplus

手軽なホットスナックとして人気のたこ焼き。関西では「一家に1台、必ずたこ焼き器がある」といわれるほど日常的な食べ物であり、タコに限らず好きな具材を取り合わせたたこ焼きパーティ(通称タコパ)が全国的にも人気を博すなど、広く普及している。

たこ焼きといえばソースをかけたスタイルが一般的だが、実は名古屋をはじめとする東海エリアでは醤油味のたこ焼きがよく販売されている。巷では「これも名古屋めしなんじゃ…?」との声もちらほらと聞こえてくる。その背景を探るべく、編集部では独自取材を実施。名古屋のたこ焼き事情を調査した。

■醤油味はたこ焼きのオールドスタイル
名古屋でよく見かける醤油味のたこ焼きは、ソース類が何もかかっておらず生地を醤油で味付けした素焼き、ひと口で食べられる小ぶりのサイズなどの特徴が挙げられる。一説には、この“醤油味=名古屋のたこ焼き”だと言われているが、カメラマンを本業としつつも約20年にわたって名古屋でたこ焼きのフィールドワークを続けてきた川島英嗣さんは「あれは名古屋独自のものというより、たこ焼きソースが開発される前に一般的だった、昔ながらのたこ焼きのスタイルだと思われます」と話す。

「仕事の一環として、粉もん用ソースの開発に関するお話を伺う機会がありました。たこ焼きにソースをかけるようになったのは、1960年代。すでにお好み焼きには専用のソースが開発されており、その後たこ焼きにおいても醤油からソースへの移行が起こりました。そして、外食産業が急成長を遂げた1970年代に、たこ焼きとソースをパッケージ化して一気に世の中へと浸透させていったそうです。たこ焼きの原形はスジ肉やコンニャクを具材にしたラジオ焼きと言われていますし、たこ焼きソースが誕生するまでは生地そのものに醤油で味を付けるのが一般的でした。手でつまんでパクッと食べられるように、当時からサイズも小ぶりでしたね」(川島さん)

川島さんが語る昔のたこ焼きの姿は、現在も名古屋でよく見かける醤油味のたこ焼きとほぼ一致する。ソースたこ焼きが一般的に広まってからもオールドスタイルが駆逐されず、ガラパゴス的に東海エリアに残った理由は定かではない。しかし、土着的に育まれてきた文化の多い名古屋は、地元を愛する人も多く、ある側面では排他的とも言われる。その理由には、新しいものに飛びつくよりも、元々あるものを愛する県民性が関係しているのかもしれない。醤油たこ焼きを販売している店が昔ながらの下町や門前町に多く残っている点も、このような県民性と無関係とは思えない。「うちは昔からこうだもんで、わざわざ変えんでもええわ」ということだろう。

■たこ焼きにキャベツを入れるのはなぜ?
さらに調査を進めていくと、醤油味・ソース味を問わず、東海エリアのたこ焼きにみられる大きな特徴に気が付いた。一般的な具材は、タコ、揚げ玉、紅ショウガ、ネギなどだが、名古屋ではかなりの確率で、キャベツを加えていたのだ。その理由を教えてくれたのは、たこ焼きやお好み焼きといったホットスナックの材料、機械などを開発・販売する会社に長年勤務していた渋谷光男さんだ。

「大きな理由は3つあります。1つ目はボリュームを出すため。2つ目は型崩れを防ぐため。3つ目は愛知県田原市が全国でもトップクラスのキャベツの産地であり、材料が入手しやすいため。実際に試作品を食べてみたらキャベツの甘味が加わって味もよくなったと感じましたし、それからキャベツを取り入れる店舗が増えました」(渋谷さん)

渋谷さんの話を踏まえると、前段で「醤油味のたこ焼きは名古屋風ではなく、たこ焼き自体のオールドスタイル」としたが、醤油たこ焼きでも生地にキャベツが加わっている場合は名古屋風といえそうだ。

■「釣鐘式」は地域の食文化から生まれた名古屋風たこ焼き
さらに、渋谷さんは興味深い話を聞かせてくれた。「名古屋を含めた東海エリア特有のたこ焼きのスタイルということであれば、『釣鐘式』というものがありますよ」というのだ。一体どんなたこ焼きなのか。

「愛知県の企業が開発した独自の焼き型を使って作るんです。一般的なたこ焼きのように、職人がつきっきりで生地をひっくり返して焼くことはありません。だから、仕上がりが丸くない。釣鐘のような形になるので『釣鐘式』と呼ばれています」(渋谷さん)

この焼き型は2面合わせの鉄板になっていて、片方にはたこ焼き器でおなじみのくぼみが30個並んでいる。くぼみの方に生地や材料を入れ、焼けたら鉄板をパタンと合わせて、くぼみのない平らな方の鉄板にたこ焼きを移動させる。生地をひっくり返す必要はなく、特別な技術がなくても焼けるように考えられたものだ。

この「釣鐘式」の焼き型を最初に導入して、モデルケースとなった店が、愛知県春日井市にある「たこ焼きの明和」だ。春日井市は隣接する名古屋市のベッドタウンとして発展しており、ほぼ名古屋と同一の文化圏である。「たこ焼きの明和」の繁盛ぶりを受けて、「釣鐘式」は愛知県から全国へと広まっていった。

「釣鐘式」が考案された1970年代は、日本中が活気に満ちあふれ、消費需要が急激に高まった頃。そのため、大量生産と人手不足にも対応できると、一気に普及した。今でも全国各地に「釣鐘式」のたこ焼きがみられるのは、このためだ。しかし、東海エリアほど多くの店は残っていない。それはなぜか。

「大阪など関西エリアでは、その場で食べる“食べ歩き文化”が強いのですが、名古屋など東海エリアでは、“持ち帰り文化”が強い。そういった文化の差は、たこ焼きの特徴にも表れます。『釣鐘式』は東海エリアの持ち帰り文化を前提として開発された側面があり、この持ち帰り文化になじむ地域では生き残り、なじまない地域では消えていきました」(渋谷さん)

そもそもたこ焼きは、焼きたてアツアツの方が旨い。さらに粉もん文化の大阪では、生地を食べる側面が大きい。外はカリッと、中はトロッとしたあの食感は、焼きたてだからこその醍醐味だ。これが冷めてしまうと、生地のトロッと感が失われてしまう。たとえ温め直したとしても、味としてはもう別物だ。

「その場で食べる文化が薄く、持ち帰り文化の強い東海エリアでは、時間が経ってもおいしく食べられる工夫が必要です。そこで、キャベツ入りのたこ焼きが喜ばれました。『釣鐘式』は、キャベツを入れることを前提に考案されています。生地にボリュームがないと、焼きムラや型崩れが起こるのです。キャベツが増量材になり、水分調整もしてくれるので、時間が経ってもあまり変化が出ません。だから、持ち帰ってからも味が損なわれないのです」(渋谷さん)

■結論:名古屋風のたこ焼きとは?
これまでの調査を踏まえて、本記事では「名古屋風たこ焼きとは、東海エリアに見られる持ち帰り文化を鑑みて愛知県で考案された『釣鐘式』たこ焼きである」と結論付けたい。「釣鐘式」の特徴として、独特の形と、キャベツ入りの具だくさん生地の2点が挙げられる。さらに、オールドスタイルの醤油たこ焼きでも、王道のソースたこ焼きでも、生地にキャベツが加わっているものは「名古屋風」と言えるのではないか。

ちなみに、「釣鐘式」たこ焼きの元祖である「たこ焼きの明和」だが、たこ焼きが見えなくなるくらい大量にかかったマヨネーズも特徴的。客の声などを参考に考案されたということだが、カラシの風味とまろやかな甘味が何ともヤミツキになる。同じようにマヨネーズをたっぷりとかけたたこ焼きを販売している店が東海エリアに数店あるので、今後こういった店が増えてくれば「名古屋風たこ焼き」の特徴の1つに加わるかもしれない。


取材・文=大川真由美/撮影=EDWARD.K

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