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ビジネスで統計学が必要な本当の理由とは?データ分析が当たり前の時代に忘れてはいけないこと

  • 2022年12月23日
  • Walkerplus

ブームを経て、ビジネス実務における統計学やデータ分析スキルの必要性はすっかり定着した感がある。だが、そもそもなぜビジネスに統計学が必要なのだろうか?登録者数20万人の人気YouTubeチャンネル「謎解き統計学|サトマイ」を配信しているサトウマイさんに、ビジネスでの統計学の意義について聞いてみた。

■経営者の判断の精度は、実はサイコロとあまり変わらない
サトウさんは福島で、データを生かしたコンサルティングなどを行う会社を経営。マーケティングや市場調査、新規事業の売れ行き予測のほか、統計やデータ分析の手法を教える講座やセミナーも行っている。

そんなサトウさんは、自社の提供する価値として「意思決定コストを削減」すると掲げている。統計学がなぜ意思決定にまつわるコストを削減できるのか。ポイントは大きく2つあるという。

まず1つは、時間的なコスト。「ビジネスでは事業の方向性や新商品の選択など意思決定をする場面が多いですが、人間はそもそも未来予測や合理的な意思決定をするのが苦手な生き物です。大きな会社のCEOでさえも、二択で迷った時に、サイコロを振って出す選択と精度がほぼ変わらない、というデータもあります。もちろん完璧に未来を予想できる人はいません。ただ少なくとも、A案とB案で迷った時に、社内での意見交換や会議に時間を使うよりも、さっさとテストしたほうが早くて正確な場面というのは多々あります」

もう1つ、意外と気づきにくいのが、心理的なコストの削減だ。

■数字が決めてくれれば、心理的なストレスが減る
心理的なコストとはどういうことだろう。「例えば、出したアイデアがうまくいかなかった時。アイデアそのものと、アイデアを出した人は本来まったく別々のものですよね。でも、人間そう簡単には割り切れません。過剰に落ち込んでしまったり、なんとか立て直そうとして損切りのタイミングを逃したりしてしまいます。さらにそれを見た周囲も、失敗をすると評価が下がるのではと警戒して、今度はアイデア自体も怖くて出しにくくなるんです」。このような例はアイデアに限ったことではない。数字ではなく経験を元に個人が決めた「属人的な判断」がうまくいかなかった時も同様だ。

これらの問題も、意思決定を人ではなく統計的エビデンスにする(=できるだけ数字にお任せする)ようなシステムがあればほぼ回避できる、とサトウさんは言う。

「まずアイデアをたくさん出した後、それらを個人とはいったん切り離し、アイデアそのものだけを検討候補にします。その時に、『(属人的な判断ではなく)統計的にテストしてみて良かったものを商品化しよう』という、ある程度システマチックな意思決定プロセスを決めて、それを組織内で徹底・共有するのがポイント。これだけでも、心理的な安心感が生まれます」

このようなプロセスを取り入れると「取捨選択にかける時間的なコスト、心理的なコストや不要なストレスが削減できます。それが結果的に“働き方改革”につながるんです」。もちろんすべてが数字で判断できるわけではない。ただ、できる部分だけでも数字に任せたら、ほかの作業にリソースを割くことができるのは確かだろう。

■データ分析よりも「数字で話せる環境を整える」のが企業にとって大事
さまざまな企業・省庁のコンサルティングやセミナーを行っているサトウさん。ビジネスマンに必要な「統計リテラシー」はどのようなものだと考えているのだろうか。

「そもそもなぜビジネスマンに統計学が必要なのかというと、統計学というのは組織の意思決定力を高めるための『コミュニケーションツール』だからなんです」

ここでサトウさんは海外の調査で、業績に一番影響を与えているのは組織力であるというデータを紹介してくれた。「では組織力とは何かというと、『意思決定が明文化された仕組み』があるということだ、とこの研究では言っています。例えばPDCAをどう回していくのか、どのタイミングで損切りするのか、などに明確な基準があって、それが全社員に共有されているという状態。ポイントは、その仕組みが先に説明したような統計的なエビデンスに基づいて作られたものになっていることです」

統計リテラシーというと一見データ分析やマーケティングなどをイメージしがちだが、実際はコミュニケーション、環境作りにこそ本当の意義がある。「分析して新しい発見をする、というようなことが統計分析やデータサイエンティストの花形、わかりやすい部分ではあります。ただ経験上、数字で話せる文化がない企業さんに対し、データを分析してお話してもしっくりこないんです。分析以上に、まず統計リテラシーによって数字で話せる環境を整えたり、そういう文化を根付かせたりすることの方が、長期的に見た時の企業価値は高まりやすいと思っています」

■経営者より若い世代の方が数字に強いという現実
では、組織内に数字で話せる環境を整えるにはどうすればいいのか。実は興味深い現象があるという。「私が研修や講演をさせていただく時のオーダーとして一番多いのは、若手社員対象ではなくCxO(各業務の最高責任者)向けなんです。実は『数字で話せるかどうか』に世代間ギャップが生まれてきていまして、若い世代の方が数字に強い、そんなことが起こっています」

サトウさんはその理由をこう考える。「数年前から、国をあげてデータサイエンス人材の育成に力を入れて取り組んでいて、今の高校生は数学Iの授業ではデータ分析が必修となっています。現在25歳前後の若い世代は、ある程度統計やデータ分析の基礎を身に付けている状態で入社してきます。ですから、むしろ中堅のビジネスマンの方が統計リテラシーがない。部下に突っ込まれた時にしどろもどろしてしまうようです」

そのCxO対象の研修やセミナーは、基礎から始めるケースが多い。「ビジネスの数字、ざっくりとこれだけはおさえておけ!とか、委託した専門家やリサーチャーが出してきた統計分析レポートをなんとなく読み解ける、部下に分析イメージについてざっくり指示が出せる、とか。そのくらいのレベルまで持っていけるようにしてほしいというオーダーが一番多いんですね。そのため、母集団と標本や、相関と因果関係の違いを知る、などといった基礎的なことからスタートします。英語に例えれば最低限日常会話はできる、くらいのレベルです」

そうやって統計の基礎を学んだとしても、新たな問題が発生する。

■統計スキルを学んでも、何を解いたらいいか分からない
「“あるある”なのが、いざ、一通り研修をおえて、社内のデータを分析してみるとなったときに、『何から手を付けたらいいか分からない』となるんですね。教えたにもかかわらず。それは、データ分析をする以前に、経営課題の設定ができないんです。統計学というのは問題を解くためのツールなんですが、そもそもどの問題を解いたらいいのかわからない、という状況になるんです」

本当の課題は経営陣の統計リテラシー不足ではなく、それ以前に問題解決や問題発見スキルのトレーニング不足だった、とサトウさん。結局、外部の専門家などが「一緒に会社の問題を見つけるところから始めましょう」となるケースが多いという。

「ですので、大事なポイントとして、
1…共通言語として統計用語をざっくり把握して、数字でコミュニケーションがとれるようになること
2…ビジネス上の解きたい謎や課題を設定できること
仕事に統計を活かすとなったら、この二つは最低限押さえておいてほしいです」

データ分析や統計学を身につければ何か鮮やかな答えが見つかるようになるだろう、というのは幻想にすぎない。それよりも統計学を使って「組織をどうしたいのか」「どんな課題を解決したいのか」をはっきりさせる能力がないと、無用のスキルになってしまうリスクがあるということだ。このような例は統計学に限ったことではないが、肝に銘じておきたい。

取材・文=折笠隆

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