
数年前からジワジワと人気が広まり続けている、アナログが魅力のボードゲーム。電源を使わず、専用のボード上でコマを動かしたり、置いたり、取り除いたりしながら遊ぶこのボードゲームやカードゲームは、ドイツをはじめとするヨーロッパを中心に世界中で遊ばれていて、世界各国のメーカーや個人からも次々と新作がリリースされている。
その魅力は奥深く、ただプレイするだけでは飽き足らずに古今東西のゲームを収集するコレクターも多い。そして、鉄オタのなかに乗り鉄や撮り鉄、音鉄がいるように、ある分野に特化した愛好家や収集家も存在する。子供の頃などに何気なく遊んでいたボードゲームだが、一体どこにそこまでの魅力が潜んでいるのだろうか。
今回は、「三目並べ=○×ゲーム」「四目並べ」「五目並べ」といった、タテ・ヨコ・ナナメにいくつか並べると勝ちという“並べ系ボードゲーム”を熱狂的に愛する放送作家の米井敬人さんに、おすすめのボードゲームを紹介してもらいつつ、その魅力を存分に語ってもらった。
■「並べ系ボードゲーム」は“大喜利”!?
おすすめのボードゲームを教えてもらう前に、やはり気になるのが“どのタイミングでボードゲームにハマったのか”ということ。その質問に対し米井さんは「あれは2010年頃の忘年会のことでした」と、ボードゲームにハマるきっかけを振り返ってくれた。
「自宅で友人らと一緒に忘年会をしているときに、持っていたけど遊んだことがなかった『スコットランドヤード』という、犯人と探偵が鬼ごっこをするゲームをやってみたんです。これがよくできたルールで、運の要素も大人の駆け引きもある海外製のボードゲーム、いわゆる“ユーロゲーム”のおもしろさに一気にハマりました。自宅やボードゲームカフェで遊ぶようになり、遊ぶだけでなく収集するようにもなりました」
それから約10年の間に、大小あわせておよそ800個のゲームを集めたという米井さん。そのなかでも特に“並べ系”に惹かれたのは、放送作家をしている自身の職業が理由の1つにあるようだ。
「ボードゲームで1番単純なのが、○×ゲームのような“タテ・ヨコ・ナナメにいくつか並べると勝ち”という“並べ系ゲーム”だと思うんです。ただ、原則のルールが単純だからこそ、そこに付随する展開はいろいろ考えられて、思わず『そうきたか!』と膝を打つようなアイデアが取り入れられていることも多いです。言うなれば、“タテ・ヨコ・ナナメにいくつか並べる”という『お題』に対して、どんな『回答』をするかという大喜利のような感じで、古今東西にいろんなルールやパターンが存在するんです。そのおもしろさに気づいてから、“並べ系ゲーム”を集中的に集めるようになって、これまでに70個ほど集めました」
企画を生み出す仕事を生業としている米井さんにとって、“並べ系ボードゲーム”は大喜利のような発想の飛ばし方を観察・研究するのがおもしろかったという。
では、ここからは米井さんが太鼓判を押す“並べ系ボードゲーム”をご紹介!
■大人も激しく悔しがる四目並べ『羊とペリカン』
ボードゲーム業界の市場は驚くほど広く、漫画業界の同人誌のように個人がリリースしたゲームが注目を集めることもある。そのなかで、米井さんがおすすめするゲームが『羊とペリカン』。
ルールはいたってシンプルで、ボード上にある自分のコマをタテとヨコに動かし、タテ・ヨコ・斜めのいずれかで4つ並べれば勝ちというもの。最大のポイントは「必ず一度は90度に動かさなければいけない」というルール。これが絶妙にゲームをおもしろくさせる。
「日本の男性が開発したゲームです。ようは『四目並べ』なのですが、タテかヨコに一度コマを移動させたあと、そこから必ず直角に曲げて移動させなければいけないという縛りがあります。最初はよくわからないのですが、だんだん動き方のコツがわかってきます。相手が四目になるのを防ぎつつ、自分の四目を完成させるおもしろさがクセになって、大の大人が夜な夜な大声を張り上げながら『うわぁやられた!』って叫ぶ瞬間が何度もありますから」
■上から“落として”色を繋げる『フィッシュクラブ』
フランスのメーカーがリリースしたファミリー向けのゲームで、ルールは単純明快。さまざまな形をした魚のコマを上から落として、自分の色を5つ繋げれば勝ち。
「僕のなかで並べ系ゲームの概念が覆された作品ですね。『タテ・ヨコ・ナナメにいくつか並べれば勝ち』ではなく“落とす”“繋げる”という要素は、シンプルですがすごい発想だと思いました。コマの形状から落としたあとの展開を予想したり、相手が繋げようとしている群れを邪魔したり、バウンドする不確定要素の運もあったりで、これまで知っていた並べ系ゲームと似て非なるおもしろさが詰まっていてびっくりしました」
■正体不明の正体隠匿系五目並べ『IQ5』
米井さんがネットオークションで購入した海外製ボードゲームで、インターネットにもほとんど情報がない、謎に包まれたゲーム『IQ5』。垂直に立てたずっしりと重いボードを挟んで座り、空いた穴に交互に棒を差し込んでいき、5つの色を繋げれば勝ちというもの。
ポイントは、棒の両側の色が異なっていて、赤・青・黄の3色の組み合わせのいずれかになっていること。そして、棒を差し込むと相手からは自分側の色が見えないこと。相手にバレないように、自分側の盤面で5つの同じ色をタテ・ヨコ・ナナメに繋げるのがこのゲームの魅力で、この発想はほかに類を見ない。
「正直、これが正しいルールなのかどうかは私にもわかりません。どなたか知っている方がいればご連絡いただきたいくらいです。でもその謎めいた感じも並べ系ゲームのおもしろさのような気もします。さらに言うと、このどっしりとしたボードにも何か秘密があるはずです」
■昭和の子供たちを夢中にさせた『コレゴ』
米井さんが「昭和時代の子供たちがどんな気持ちで遊んだのか、追体験したくて手に入れました」と話す、知る人ぞ知るゲーム『コレゴ』。
遊び方は五目並べをベースにしたもので、表向けにした手駒でボード上にある裏向けにされたコマを外に押し出しながら、タテ・ヨコ・ナナメで5個並べたら勝ちというもの。押し出されたコマは自分の手駒になるが、それが自分の色なのか相手の色なのかわからない。そのため、自分のターンで自分の色を置けない場合もあり、その運要素がこのゲームをおもしろくするという。
「プラスチックでできた専用のボードやコマを手に取ると、このゲームのために誰かが企画して、会議を通り、製品化され、店頭に並び、誰かが買って、遊んでいた。こういう過程を経たゲームが時空を超えて今ここにあるということを想像して、ときめきが収まりません。運要素も非常に重要なゲームなので、大人と子供が一緒に遊べるアットホームさも心に響きますね」
■4人同時にわいわい楽しむ『ワンツースリーゲーム』
並べ系ゲームにアクション要素を取り入れたのが、昭和に作られた『ワンツースリーゲーム』。ボード中央の3×3の穴を目掛けて専用の台からコインを転がして、9つの穴に自分の色のコインを落としていき、タテ・ヨコ・ナナメに3つ並べれば勝利となる。4人まで同時に遊べるので、相手のコマが入っている穴に自分のコマを落として色を「上書き」したり、スポーツのように指先のテクニックが求められるのが特徴。
「4人でできる三目並べですね。1人ずつ順番にコインを転がしてもいいですし、順番は関係なく同時に転がしてもいいですし、アナログなボードゲームならではの自分でルールを決められる自由さがあります。2人対2人のペア戦もおもしろいですし、遊び方次第でいろんな楽しみ方ができるゲームですね」
このように並べ系ゲーム愛を爆発させてくれた米井さんは、取材中ずっとゲームに興じながら語り続けていたにも関わらず、「まだまだおもしろいものがあるので、これに特化して対戦してくれる奇特な方がもしいれば、ぜひ大阪・昭和町にあるボードゲームカフェ『デザートスプーン』でお会いしましょう。いつでも挑戦は受けますよ!」と、尽きることのない情熱を語ってくれた。
米井さんと同じくボードゲームを愛する人はもちろん、「これから始めてみたい」という人も、米井さんと一戦を交え、ボードゲームの1ジャンル“並べ系ゲーム”の深い魅力に触れてみてはいかがだろうか。
取材・文=橋本未来