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コーヒーで旅する日本/九州編|そこに暮らす人たちの日常に、当たり前にある一杯を目指して。「nai」

  • 2022年5月23日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第26回は、長崎県・諫早市にある「nai」。オーナー兼ロースターの近藤彰さんはKARIOMONS COFFEE ROASTERで約6年勤務し、2020年8月に同店をオープン。町工場の中に小屋を建て、そこを店舗にしたユニークなコーヒーショップだ。近藤さんは2015年のエアロプレスチャンピオンシップで全国3位に輝くなど、抽出に関して高い技術を持っているが、「nai」はあえて豆売りに特化。人通りがほとんどない郊外で、利用シーンが限られるスタイルをあえて選んだ理由、そしてコーヒーや焙煎へのこだわり、これからのことを聞いた。

Profile|近藤彰
1990(平成2)年、長崎県大村市生まれ。高校卒業後、医療系の専門学校に進むが、自分が本当にしたいことではないと中退。19歳からカフェ併設の大手ベーカリーでアルバイトし、その後、シアトル系のコーヒーチェーンで働く。そこでの経験から、接客のおもしろさに開眼。接客のプロフェッショナルを目指し、一度はホテルマンを志す。ホテルで働く中、趣味のコーヒーショップ巡りでよく通っていた、KARIOMONS COFFEE ROASTERのオーナー・伊藤さんの誘いを受け、同店に入社。KARIOMONS COFFEE ROASTERでは抽出をはじめ、一部焙煎にも携わる。2019年に退職し、2020年8月に「nai」をオープン。

■「コーヒー豆を買いに」を目的に
ここ数年の間に九州各地、さまざまなコーヒーショップがオープンしているが、豆売りに特化した店というのは少ない。ほとんどがカフェを備え、幅広いシーンで利用できるような店づくりをしている。一方で近藤彰さんが開いた「nai」はオープン当初から豆売りオンリー。しかも、好立地というわけではなく、どちらかというと店を開くには不向きな郊外の住宅地だ。それでも開業から約2年、着実にファンを増やし、日常的に豆を買いに訪れる常連がしっかりと定着している。

「当初は長崎市街などを開業地として検討していましたが、なかなか理想的な物件がなく、知人の紹介から偶然、今の場所に出会いました。もともと僕は、店をやるなら地域に根ざしたコーヒーショップでありたいと考えていて、そうなると好立地の繁華街が絶対条件というわけではない。実際に郊外で豆売りのみで、地域住民に親しまれている店の事例をいくつか目にしていたのも、この場所に豆売り専門店を開く決断ができた理由の一つです」と近藤さん。

店は外見からはここにコーヒーショップがあるとは思えない、町工場の中。看板もひっそりと掲げ、偶然見つけてふと立ち寄ってみるということはほぼないだろう。近藤さんは逆にそれを狙った。「『コーヒー豆を買いに来る』という目的を持って来店いただける店にしたいと思ったんです。むしろ、カフェではないので、なんとなく立ち寄って、コーヒーを1杯だけ飲んで帰るというご利用の仕方ができません。“いかにもショップです”といった店構えだった場合、カフェ目的でお客様にご来店いただくと申し訳ないですから」

さらに、近藤さんは「豆売り専門とすることで、当店の柱となる焙煎に関わる仕事に集中できる」とも話す。基本、1人で店に立ち、焙煎から事務作業、接客まで、すべてをこなすため、できることが限られる。ただ、コーヒー豆を買い求める客がひっきりなしに訪れるということはほぼないため、その分、焙煎前後のピッキングなど、味わいのクオリティを上げるための作業をとことん追求できるというわけだ。自分自身が納得できる商品を販売するという理にかなったスタイルかもしれない。

■理想を導き出すための試行錯誤
「nai」では2022年5月現在、シングルオリジン3種、ブレンド1種の計4種のコーヒー豆をラインナップしている。焙煎度合いは浅煎り、中煎り、中深煎り、深煎りで、中深煎りだけは使用する豆は不定期で変わるものの、同店定番のブレンドとして販売。生豆は3つの仕入先を使い分け、さまざまな産地、生産処理の豆を焙煎している。「焙煎に関して、毎回100%納得、これで完璧だ、なんてことはなくて、試行錯誤の連続です。もちろん、お客様にお届けするものですから、中途半端なものは出せません。だから今の自分にできる100%を心がけて日々焙煎しています。そのために知識と技術、経験を積み重ねる意味で、あえて産地、生産処理は限定することなく、さまざまな生豆を取り扱うようにしています」と近藤さん。

ただ、どんな産地、焙煎度合いのコーヒーでも、重きを置いているのは、生豆が持っているポテンシャルをそのまま引き出す焙煎。クリーンカップに秀で、甘さを感じるコーヒーが近藤さんが理想とする味わいで、深煎りのコーヒーでも焙煎香はできるだけつけないよう心がけている。

また、コーヒー豆や水出しコーヒーなどを購入した客には、ドリンク1杯サービスを行っている。以前はカフェラテやエスプレッソも用意していたが、2022年1月からはりんごジュースを除き、ホット、アイスが選べるドリップコーヒーに限定。その理由を近藤さんは、「コーヒー豆を購入いただくお客様がご自宅で淹れる場合、ハンドドリップやコーヒーメーカーがほとんどです。エスプレッソマシンで抽出するシーンがほぼないと想定すると、ご自宅での再現性という観点から意味がないと考えました」と説明。つまり、“地域に根ざす”という考えを一貫しているわけで、近藤さんの意志の強さを感じられるエピソードだ。

■日々の営みを考察し、未来へと繋げる
最後にこれからの展望を聞くと、「開業して約2年、一人で店を切り盛りしてきましたが、情報のインプット、アウトプットともに、ここで待っているだけではいけないと感じています。そういった意味から今後はイベントなどにも積極的に出るための体制づくりが大切。今年の6月ぐらいから新たにスタッフが働いてくれることになっているので、僕はさまざまな人たちと繋がりを作り、情報を取り入れ、自ら発信していくことにも重きをおいていきたい」と話してくれた。

近藤さんはいい意味で慎重だ。まず、コーヒーに関する自身の知識、技術を高めつつ、店の土台をしっかり固める。その間、ただ日々の業務をこなすだけではなく、次のステップへの準備を着々と進める。そうやって堅実にコーヒーと向き合う近藤さん。コーヒーを根付かせる地域を近藤さんのステージ(舞台)と捉えるなら、これからますます活躍の“舞台”を広げていきそうだ。

■近藤さんレコメンドのコーヒーショップは「アルマロードコーヒー」
「アルマロードコーヒーのバリスタ・森さんは、もともとシアトル系コーヒーチェーンに同期で入った仕事仲間。僕と同い年なのですが、店を開いたのは僕より全然早かったですね。若い時から頑張っていて、純粋にすごいなと思っていました。僕が思う彼女の一番の魅力は人柄の良さ。森さんに会いにアルマロードコーヒーに通っている常連さんも多くいらっしゃると思います」(近藤さん)

【naiのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式5キロ
●抽出/ハンドドリップ(Kalitaウェーブ)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/サービスドリンクあり(ドリンク単体の販売はなし)
●豆の販売/200グラム1600円〜

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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