
Vシネマから劇場公開映画まで幅広いジャンルを手掛ける鬼才・城定秀夫が監督を務め、『愛がなんだ』の今泉力哉が脚本を務めたR15+指定のラブストーリー映画『愛なのに』。一方通行の恋愛が交差するさまを描いた本作で主人公を演じた瀬戸康史に、役柄についてや撮影を通して感じたこと、好きな映画について語ってもらった。
■両監督の作品のファンの方々は「“え?瀬戸康史が主演やるの?”と驚いたかもしれません(笑)」
――本作のどんなところに惹かれてオファーを受けられたのでしょうか?
【瀬戸康史】城定(秀夫)監督と今泉(力哉)監督という意外なタッグに一番惹かれました。そこに主演として参加できるなんてなかなかないことだと思いましたし、両監督の作品のファンの方々は“え?瀬戸康史が主演やるの?”と驚いたかもしれません(笑)。それぞれがこれまで関わってきた作品を並べたら絶対に交わることのない組み合わせというか。“混ぜるな危険”じゃないですけど(笑)、僕にとっては大きなチャレンジになると思いましたし、オファーをいただけてすごくうれしかったです。
――確かに瀬戸さんがR15+の作品に出演するイメージがなかったので、とても新鮮でした。
【瀬戸康史】避けていたわけではなかったのですが、今回R15+作品ということで初めて濡れ場のお芝居にも挑戦しました。そのシーンの撮影までは“自分はどんな風に演じるんだろうか”と少し恥ずかしさみたいなものを感じていたのですが、城定監督自らお手本を見せてくださったので、そこまで緊張せずにできたような気がします。
――監督がお手本を!(笑)
【瀬戸康史】現場に入ったら監督がベッドの上でスタンバっていたのですごく異様な光景だったのですが(笑)、助監督の男性と二人で『こういう感じでお願いします』とめちゃくちゃわかりやすくやって見せてくださって。“そこまでやってくれるんだ!”と思いましたし(笑)、すごくありがたかったです。
――瀬戸さん演じる古本屋の店主・多田の憧れの女性を、さとうほなみさんが演じていますが、さとうさんとのお芝居はいかがでしたか?
【瀬戸康史】さとうさんは「ルパンの娘」という作品では僕が演じた和馬の妹役で出演していたので、まさかこういう形で共演するとは思ってなかったです。彼女はとても個性的な雰囲気を持っているので、そういうオーラのようなものを感じると人は一目置いたりするじゃないですか。それは自分にはないものなので、ちょっとうらやましいなと感じました。これからが楽しみな女優さんです。
■「相手の好きなものを共有したいという気持ちは共感できる」
――瀬戸さんの落ち着いた雰囲気が多田という役にとても合っていたように思いますが、どのように役を捉えて演じていましたか?
【瀬戸康史】僕は多田のことを“あまり深く考えていない人”と捉えて演じていました。モットーや信念がなさそうだし、将来どうなりたいかというプランもなく、なんとなく日々を生きているような人なのかなと思いながら演じていました。
――多田は河合優実さん演じる女子高生の岬から求婚されますが、彼女を傷つけないように気をつけつつも、うまくかわしていましたよね。
【瀬戸康史】岬は未成年なので、手を出したら犯罪になってしまいます。多田はそこの認識がある人なので、単純に間違いを犯して古本屋を潰したらヤバいと思ったんじゃないかなと。あと、岬は古本屋のお客さんとして接していただけなので、“なんで僕のことを好きなの?”という疑問を感じていたのかも。
もしかしたら劇中に描かれてないところで多田のことを好きになった瞬間があったのかもしれないけれど、本当のところはわからない。でも、その“わからなさ”が逆にリアルだなと思いました。明確に“この人のここが好き”と言えないことってよくあるし、多田のどこが好きなのか岬自身もわかっていないのかもしれません。
――岬のことが好きな男子高校生・正雄と岬の“好きな相手に真っすぐぶつかっていく姿”がとても眩しく感じました。自分が高校生だった頃は相手がどう思うか考えて悩みましたし、嫌われないか不安で気持ちを伝えることに躊躇していたように思います。
【瀬戸康史】たぶん昔と今では高校生の感覚がかなり違うんじゃないかなと思います。あと、都会暮らしか田舎暮らしかでも変わってくるのかなと。岬は完全に都会に住む高校生タイプですよね。ただ、正雄みたいな奴はそうそういないです。多田に向かって『殴っていいですか?』と言いながらいきなり殴ってますから(笑)。二人とも現代っ子でありながら、ちょっと特殊な感覚も持っているような気がします。
――確かに二人とも特殊なタイプではありますよね(笑)。ただ、岬が多田の読み終えた本を借りるところがかわいかったですし、好きな人がどんな本を読んでいるのか知りたいという気持ちはすごくよくわかります。
【瀬戸康史】片思いしている相手や恋人の好きなものを共有したいという気持ちは僕も共感できました。学生時代に好きだった女の子の影響で、浜崎あゆみさんの曲を聴いていた時期もあります。今振り返るといい思い出ですし、岬にとっても本を借りて読んだことがいつかいい思い出になるんじゃないかなと思います。
■瀬戸康史が語るクリント・イーストウッド監督作品の魅力
――多田の部屋が映るシーンでDVDの棚に『ダークナイト』があったのですが、“僕はこういう映画は観ないな”と思うDVDはありましたか?
【瀬戸康史】棚のDVDはまったく見てなかったです(笑)。『ダークナイト』だけ置かれていましたか?
――映画のDVDが棚に沢山並んでいたのですが、『ダークナイト』しかタイトルを確認できなかったです(笑)。
【瀬戸康史】なるほど!多田はアメコミよりも邦画のほうが好きそうなイメージだから、『ダークナイト』のDVDを持ってるってちょっと意外ですね(笑)。
――意外でした(笑)。瀬戸さんは最近どんな映画をご覧になりましたか?
【瀬戸康史】最近観たのは自分が出演した『コンフィデンスマンJP 英雄編』の試写と本作の試写ぐらいですね。今は舞台の公演期間中(取材当時)なので、なかなか映画館に行けてなくて。なので、本作が公開されたら劇場に観に行こうと思っています。
――昔から好きな映画を教えていただけますか?
【瀬戸康史】クリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』がすごく好きです。イーストウッド演じる主人公と、アジア系移民の家族の交流を描いた作品なのですが、最初は主人公が一家に対して偏見や差別意識を持っていたのが、彼らと接するうちにどんどん変わっていく感じがすごく素敵で。
この映画を観て、“相手が年下でもちゃんと意見を聞くこと”と、“人のいいところを見る”って大事だなと改めて気付かされました。年齢を重ねれば重ねるほど変なプライドが邪魔して素直になれなかったりしますが、そういうのは“人としてちっさいな”と感じるので、いつか僕も『グラン・トリノ』の主人公みたいになれたらいいなと思っています。
――最後に本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いできますか?
【瀬戸康史】僕にとって非常にチャレンジングな作品でした。きっと“今までに見たことがない瀬戸康史だった”と思ってもらえるんじゃないかなと。みなさんの感想を楽しみにしていますので、ぜひご覧いただけたらうれしいです。
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト=小林洋治郎(Yolken)
◆ヘアメイク=須賀元子
衣装=ジャケット(EULLA /問い合わせ先GOOD LOSER)、シャツ(SHAREEF/問い合わせ先Sian PR)、ほかスタイリスト私物