
ヴィッセル神戸でプレーし、昨年に現役を引退した元スペイン代表のダビド・ビジャは、現在『DV7サッカーアカデミー』というサッカースクール事業を展開している。1月にはそのスクールの教科書とも言える書籍『ダビド・ビジャのサッカー講座 試合で活躍するために大切な11科目』(KADOKAWA)を発売。そのなかで、ライフスキル習得につながるスクールの育成方針を明かしている。サッカーを通して子供たちが身につけられるライフスキルとは――。
■スポーツで学んだことを「応用」する
学生時代に励んだスポーツを通して学んだことが教訓となり、その後の人生を歩むなかで役に立つ。それゆえに、決してプロ選手になれる可能性がなくとも一生懸命にスポーツを取り組もうとする人は多い。それはアマチュアに限った話だけでなく、プロを経験した選手も同様に感じるようだ。しかも、日本人だけではなく人類共通で、世界中の人々が共感できる感覚になっている。
FCバルセロナなどで活躍し、昨年に日本で現役を引退した元スペイン代表のダビド・ビジャも同様の経験があり、幼少期から取り組んできたサッカーから多くのことを学んだという。そういった経験を世界中の子供たちに教えようとサッカースクール事業を設立し、現役を引退した昨年からは日本でも開校させている。そして今年1月には、そのスクールで教えている内容をまとめた『ダビド・ビジャのサッカー講座 試合で活躍するために大切な11科目』を発売。
そのなかで、「基本的にはサッカーについてのみ教えていますが、その考え方などはグラウンドの外でも応用できることがあります。それらは社会との関わりを持つ人間にとって、とても大事なことになるでしょう」と語り、スクールの根幹となる基本概念を明かしている。まさにそれは、生涯役立つライフスキルとも言えるものだ。
■決断できる思考力=生きる力となる
ビジャが代表を務める『DV7サッカーアカデミー』が大切にする基本概念のひとつに、「決断できる思考力」をあげている。それは、サッカー独特の競技特性ゆえに身につけられるライフスキルと言える。ビジャは、「選手が一度ピッチに入ってしまえば、選手一人ひとりのプレーに対して監督やコーチたちが細かく指示することはできません。状況も目まぐるしく変化していくスポーツなので、指示する時間的な余裕はなく、選手が自分で判断しながらプレーを進めなければなりません」と、サッカーの競技特性を定義している。
野球であれば、監督が指示を伝えるためにプレーを止めることができるが、サッカーは一度試合が始まると、プレー時間を止めることは誰にもできない。そういった特性のなかで行うサッカーをプレーするうえで習得すべきことが「決断できる思考力」で、「選手は言われたことだけを実行していればいいというわけではありません。それぞれの選手が瞬間瞬間の状況を理解して、その状況のなかで適切な選択をする力が必要になります」と、ビジャは説明している。
人生を歩んでいると多くの決断を迫られる。そのときに必要な能力も「決断できる思考力」で、ピッチ内の状況を自分を取り巻く環境に置き換えることで人生の決断時にも応用できる。同書のなかでも、実社会でこの力が求められる事態に直面した場合は、「サッカーを通して学んだことを思い出して、解決の糸口をつかんでいってほしいと願っています」と、アドバイスを送る。
■決断できる思考力の身につけ方とは
『DV7サッカーアカデミー』では、その「決断できる思考力」を身につけられるようにするためにどのような取り組みを行っているのだろうか。
そのひとつとして、「選手たちが競争できるようなメニューを用意しています」と明かしている。人は競争によって勝利欲を刺激され、どうすれば勝てるのかを考えるようになっていく。それを繰り返して、常に考えることを習慣づけている。
そのほかのポイントとして、「状況を理解してもらうように努めています」と説明。決断する前に自身を取り巻く状況が大切になると解説している。正しかった行動でも状況が異なれば、誤った行動になることは多々あり、決断するにあたって状況把握が重要になることを説いている。そして、決断に至るまでのプロセスが重要になるとも主張する。
「選手自らが発見できるようなプロセスで臨みます。いきなり答えを教えるようなことはせず、考え出したプレー選択肢を問うたうえで、それぞれのプレーのあとでどう状況が変化するかを説明します」
このプロセスを無視すると、いずれ思考が停止して指示を待つだけの人間になってしまう。それは「決断できる思考力」を持つ人間とは正反対に位置し、間違えを恐れていずれ自らの意思で行動できないようになるだろう。人間は失敗することが多く、誰もが最初から正しい答えを見つけることはできない。それでも、できるだけ正しい答えを見つけられるようになるため、同スクールでは敢えて失敗を容認することがあるという。
「失敗を見守ることもあります。そういった失敗を通して、選手自らで答えを見つけられるようになることが理想的だからです」
このように「失敗は成功のもと」ということわざを体現させる工夫で、ライフスキルを習得できるように取り組んでいる。
現役を引退したビジャの次なる夢は、「トップレベルで戦える選手の育成」と語っている。とはいえ、「すべての選手がプロになれるわけではありません」と、厳しい世界の現実も明かしている。スクール生全員がプロになることが理想で最高到達点としつつも、そうできないことを理解しているビジャは、「子供たちにサッカーを通して人間的な成長をうながしたい」と考えて、最低でもその後の人生に役立つライフスキルを習得できるようにスクール業を営んでいる。