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近年、豆類は栄養豊富な食材として注目を集めている。しかし、実際に食べられている豆の種類には偏りがある。インドや中東などでは、さまざまな豆類が主要な食ベ物となっているが、米国はそうではなく、料理にする場合でもビーン類(インゲン豆など)ばかりが使われる傾向にある。日本でも豆類の摂取量は大豆とその加工品が大半を占めている。
一部の専門家は、エンドウ豆やレンズ豆にもスポットライトが当てられるべきだと主張する。それらもタンパク質、食物繊維、抗酸化物質を豊富に含み、高い栄養価を誇っている。
2022年にイタリア、カメリーノ大学の研究者らが学術誌「Pharmaceuticals」に発表したレビュー論文で、レンズ豆は「最も重要な豆類のひとつ」に位置づけられている。また同年、植物性食品を推進する米非営利団体「責任ある医療のための医師委員会(PCRM)」は、エンドウ豆のことを、タンパク質と食物繊維がたっぷりな「新たなパワーフード」と呼んでいる。
そこで、エンドウ豆とレンズ豆の栄養や健康上の利点、おすすめの調理のしかたを紹介しよう。
エンドウ豆もレンズ豆も、大豆、ヒヨコ豆、ピーナッツなどと同じマメ科に属している。
マメ科の植物はどれも、根の中にいるバクテリアと互いに有益な関係を築くことで、大気中の窒素を地中に取り込んでいる。土に取り込まれた窒素は、マメ科の植物自体だけでなく、後でそこに植えられる作物の成長も促す。
米国農務省(USDA)によると、米国人1人が1年間に食べるエンドウ豆とレンズ豆の量は、合わせて約2.1キロだという。これはビーン類の約3.4キロより少なく、また鶏肉と牛肉のそれぞれ約27キロという消費量に比べるとごくわずかだ(編注:厚生労働省の「令和5年国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日1人あたりの豆類の摂取量は平均55.4グラムだが、そのうち大豆とその加工品を除く「その他の豆・加工品」は1グラムと2%にも満たない)。
タンパク質が多く含まれているエンドウ豆やレンズ豆は、さまざまな肉料理と簡単に置き換えることができる。ゆでたレンズ豆100グラムには約11グラムのタンパク質が含まれる。これは厚労省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が成人女性に推奨する1日の摂取量のおよそ5分の1に相当する。
「植物由来のタンパク質を、人々はもっと多く取るべきです」と、米タフツ大学で栄養を研究するアンドレス・アーディソン・コラット氏は言う。
氏らが2024年に学術誌「The American Journal of Clinical Nutrition」に発表した研究では、中年期にタンパク質、特に植物性タンパク質を多く摂取することが、高齢になってからの体の機能や心の健康の向上につながることが示されている。
また、エンドウ豆とレンズ豆はどちらも低GI食品だ。つまり「血糖値の急激な上昇を起こしにくい傾向にあります」とコラット氏は言う。
次ページ:炎症や心血管疾患などの予防に関連する成分
2022年に学術誌「Nutrition Research」に掲載された小規模な研究によると、糖尿病のリスクのある高体重の人々が2カ月間、加熱調理済みのレンズ豆を週に300グラムまたは600グラム食べ続けたところ、食べる量が多いほどインスリン抵抗性(血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくい状態)がより改善されたという。
また、エンドウ豆とレンズ豆には、ファイトケミカルが豊富に含まれている。ファイトケミカルはポリフェノールやカロテノイドなど、植物に含まれる抗酸化物質であり、炎症や心血管疾患の予防といった数多くの健康効果と関連づけられている
先述のイタリアのレビュー論文によると、レンズ豆の摂取は心疾患、変性疾患(細胞が徐々に障害されて機能が低下する病気、アルツハイマー病やがんなど)、老化のリスクの低下と関連していることが、さまざまな研究によって示されているという。その他のレビューでは、レンズ豆が抗菌作用を持つことも指摘されている。
エンドウ豆もまた、フラボノイドとフェノール酸を中心とするファイトケミカルを多く含んでいる。レンズ豆と同様の健康効果に加えて、2023年に学術誌「Foods」に掲載されたレビュー論文によると、マウスを使った研究では、エンドウ豆に含まれる特定の物質が腎臓病を予防することが示されている。
SNSのインフルンサーの中には、エンドウ豆やレンズ豆は胃腸に有毒な影響を与えるレクチンが含まれるので避けるべきだと主張する者もいるが、専門家によると、そうした懸念には根拠がないという。
レクチンを多く含む食品であっても、十分な加熱調理によってその成分は無害化される。また、ビーン類とは異なり、エンドウ豆やレンズ豆は消化不良を引き起こす可能性が低い。
スーパーの棚で最もよく見かけるのは茶色のレンズ豆であり、スープによく使われる。一方、専門店では、緑色、黒、赤、黄色など、さまざまなレンズ豆が売られている。
エンドウ豆の仲間としては、グリーンピース、スプリットピー(さやをむいて乾燥させたエンドウ豆)のほか、さやごと食べられるサヤエンドウやスナップエンドウなどが挙げられる。これらのレンズ豆やエンドウ豆が乾燥ビーン類よりも優れている点のひとつは、調理前にひと晩水に浸しておく必要がないことだ。
レンズ豆は非常に用途が広く、衣をつけて揚げたり、ピューレにして野菜にかけたり、サラダに散らしたり、シチューにしたりすることができると、米ミシガン州の著名なシェフ、アブラ・ベレンズ氏は言う。氏は自著の中で、週の初めに大量のレンズ豆をゆでておき(15〜20分)、それを数日にわたってさまざまな料理に取り入れることを勧めている。
「レンズ豆に対して、健康のために無理して食べなければならないものというイメージを持っている人もいますが、本来の食感をうまく活かせば、まったく別の印象を持つはずです」とベレンズ氏は言う。
氏のお気に入りは緑色をしたフランス産のレンズ豆で、これは調理しても形が崩れないという。氏は南仏の伝統料理をアレンジして、焼いたカモの胸肉の付け合せとして、穀物の代わりにレンズ豆を活用している。
次ページ:エンドウ豆のおすすめ料理
メキシコ系のコラット氏にとって、レンズ豆は主食のひとつだという。氏は赤いレンズ豆をシチューに入れたり、小さくて黒いレンズ豆を米などの穀物に混ぜることで、食感、風味、彩りを加えたりしている。
エンドウ豆の調理法は、使う豆の種類によって異なる。ベレンズ氏は、15〜20分ゆでたスプリットピーをボウルの底に敷き詰め、その上に野菜やディップを添えることで、穀物を使わないグルテンフリーの“丼物”料理を作るという。また、スプリットピーを揚げてフリッターを作り、炒めた葉物野菜と目玉焼きを添えることもある。そしてもちろん、スプリットピーはスープにも使われる。
スナップエンドウとサヤエンドウは、未熟なうちにさやごと食べる食材であり、完熟前に収穫される。サヤエンドウは「しっかりと熱したフライパン」で片面につき2分ほど加熱して焼き色をつけ、仕上げにチリガーリックオイルを振りかけるとよいと、ベレンズ氏は言う。
グリーンピースは、人によって好き嫌いが分かれる食材だ。「強烈な豆の風味を嫌う人もいます」とコラット氏は言う。また、グリーンピースはゆで過ぎてしまう人が多く、そのぐちゃぐちゃとした柔らかい食感が、子どもたちから嫌われる一因となっている。
ビーガン(完全菜食)をテーマとしたポッドキャスト番組「Main Street Vegan」のホストであるビクトリア・モラン氏によると、グリーンピースは普段の食事とごちそうの両方に使える食材だという。
「午後6時半になって、まだ夕食をどうするか考えていない場合」には、冷凍のグリーンピースをお湯かブイヨンに入れて解凍し、生のカシューナッツ、水、塩、オニオンパウダーを加えてブレンダーにかけるだけで、手軽にクリーミーなスープが完成すると、氏は述べている。
専門家によると、冷凍グリーンピースは時短に役立つのはもちろんのこと、生のエンドウ豆とほぼ同等の栄養価を保っているという。
モラン氏は、新鮮なエンドウ豆は特別な料理を作るときにだけ使うという。エンドウ豆をさやから出すには、親指と人差し指で軽くつまんでさやを割り開き、豆を一つひとつ押し出さなければならない。「これは絶対にスープには使いません。準備が大変ですから」と氏は言う。
新鮮なエンドウ豆は軽く湯がいたあと、冷たいガスパチョなどの料理に彩りとしてひとつまみ加える。「色のコントラストを加えたいのです。そうすれば、私がエンドウ豆をさやから出すという手間をかけたことを、だれかが気づいてくれるかもしれませんから」