Vol.160　映画「ジャージー・ボーイズ」で話題のフォーシーズンズと、ゴスペラーズをある角度から比べてみると…。

　みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

　いきなりですが、「ジャージー・ボーイズ」という映画が話題を集めているようですね。この映画をキャッチコピー風に紹介すれば「1960年代に数々の名曲／ヒット曲を生み出し、アメリカン・ポップス史にその名を刻んだボーカル・グループ“フォーシーズンズ”の、栄光と挫折の物語」という感じになると思うのですが、そのフォーシーズンズの最初のヒット曲「Sherry」を、ゴスペラーズは偶然にも9月にリリースした最新アルバム『The Gospellers Now』でカバーしています。興味のある方は、フォーシーズンズのオリジナルと併せてぜひ聴いていただければと思います。僕らのバージョンはかなりオリジナルに敬意を持ってある面で忠実であるとは思いますが、同時にゴスペラーズらしさも存分に感じてもらえる仕上がりになったと思います。そしてこの2つのグループは成り立ちとして、同じボーカル・グループということは出来ますが、彼らはメンバーの入れ替わりが激しかった、僕らは楽器をもたない等、ずいぶん違うところもあります。そして、この映画を観た連載のスタッフから、「音楽界での成功という同じ山の頂上を目指していたものの、その成功までの道筋は正反対のように思えた」という意見を聞きました。彼に言わせると、「その違いは、この連載でたびたび話題にしているコミュニティー運営、あるいは集団を成功に導くマネージメントの重要なポイントなのでは？」ということです。

　というわけで、情報が限られているなか、僕なりに考えてみたのですが、グループとしての成功に直面した場面でのメンバーの心持ちには確かに少し違いがあったんじゃないかなと思います。フォーシーズンズの成功をどの時点と捉えるか意見はいろいろあると思いますが、とりあえず名を挙げるという意味では彼らは（フォーシーズンズになった直後という意味で）アッという間に成功したグループです。で、他でもないその早い成功によって崩壊していくことになります。彼らも僕らも、そしてみんな成功するためにやるわけですけど、彼らの場合は自分たちが成功したらどうなるかというイメージが共有できる前に成功してしまったから、だからその成功の飛躍から着地するという場面で失敗してしまったんだと思います。対して、僕らの場合は「どうやったら売れるんだろうなあ」とか言いながら、いつ足を踏み外してもおかしくないような断崖をゆっくり登っていたら、あるとき不意に、頂上ではないにしても見晴らしのいい、開けた場所にたどり着いたという感じだったんですよね。だから、着地という局面に向かう段階でも“次にやるべきは慎重に下山していけばいいんだろう”という感じでした。

　僕らは、いわゆるセールス上のブレークスルーを経験するまでに7年くらいかかっているわけですけど、その間にはやっぱりモチベーションのマネージメントということが課題としてあったと思います。どうやったら目標にたどり着けるのかわからない、今やっているやり方が正しいのかどうかもわからない、そして自分たちがいいと思っているものを出し続けても評価されないというストレスは確かにありました。一般的には、そういう時期というのは足並みが乱れやすいから、それをクリアできずに解散していくグループはたくさんあるし、かと言ってその状況にしっかり向き合わずにその場しのぎでやっていると、いざブレイクしたときにそこでエネルギーが切れてしまうと思うんです。

　ゴスペラーズは、グループとしての大きな目標、すなわち“グループとしてヒット曲を出す”ということ以外に、大小様々な目標を共有していたんです。メンバー個々が歌手として成熟することであるとかグループとしてハーモニーを磨いていくこと、あるいはソングライターとしての力量を高めるとか。つまり、具体的な目標がいろいろあって、それをクリアしてくことが最も大きな目標、夢の実現に直結していたということですね。夢の実現の可能性を高めるために、すごく広範囲にわたって細かい目標があって、その目標達成の道筋がたくさん描かれているという状態をコツコツと積み重ねてきたし、それは今でもやっているから、そこが良かったんじゃないかなとは思います。

　誤解しないでほしいのですが、早く成功することは良くないと言ってるわけではありません。そうじゃなくて、成功の次の段階、そのもっと先のイメージを持っていないと長くその仕事を続けるということはできない気がしますっていう話です。言い方を換えると、夢を実現するということは、生きていく上でのすべての問題を解決するわけではないんですよ。自分が望んでいたことが現実化するだけのことであって、それはすべてを解決するわけではないし、夢を実現することによって新しい課題が生まれることの方が多いと考えるのが自然じゃないですかね。それを楽しめたら最高です。

　次回は、先日終えたばかりのツアーで、年を重ねていくことに関して実感したことがあるので、そのことについて書きたいと思います。どうぞ、お楽しみに。