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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第90回 容器包装リサイクル制度:到達点と課題

  • 2011年7月14日

第90回 特集/問われる拡大生産者責任と受益者負担〜容リ法の改正に向けて 容器包装リサイクル制度:到達点と課題 京都大学大学院経済学研究科教授 植田 和弘

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本文で容器包装リサイクル制度と呼ぶのは、1995年に制定され、2006年に若干改正された容器包装リサイクル法(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律、以下、容リ法と略す)に基づく制度のことである。

 容器包装リサイクル制度は日本における循環型社会へ向けた制度的基盤づくりの先駆けをなした。容リ法は1997年から本格施行されている。循環型社会づくりの基本理念を明確にした循環型社会形成推進基本法は2000年に制定されたので、それよりも先行的に実施されていた制度である。すでに、容リ法の本格施行から十数年、2000年の完全施行(PETボトル以外のプラスチック製容器包装の分別収集、再商品化が開始された)からでも10年の実績がある制度であり、そのパフォーマンスが気になるところである。容器包装リサイクル制度を構築したことによって日本の循環型社会づくりはどれだけ進んだのだろうか。そこで本文では、容器包装リサイクル制度のそもそもの成り立ちからはじめ、制度の実績についていくつかの角度から検討し、容器包装リサイクル制度の到達点と課題を明らかにしたい。

日本は税金投入型システム

 容リ法はなぜつくられたのだろうか。容リ法が制定・実施されるまでは、消費後の容器包装は大半が廃棄物になっており、いわゆる一般廃棄物としてその処理責任を持っている市町村によってごみ処理されていた。より一般化して言えば、当時の市町村によるごみ処理は大量廃棄社会の受け皿ということができ、ごみ処理を考慮しない生産や消費によって大量につくり出される廃棄物を適正に処理するという役割を担っていた。廃棄物は量的に増加するとともに質的にも悪化するため、適正に処理することが困難な状況が生まれ、さらには大量の処理施設を整備する必要から環境汚染、自然破壊、地域紛争などが生み出されていた。同時に、「資源」としていかせるはずのものが廃棄物となっていたということも指摘されていた。

 こうした状況に対して、拡大生産者責任(Extend Producer Res-ponsibility、以下、EPRと略す)の考え方を適用して、生産者にも容器包装廃棄物の削減と再利用・再資源化への動機づけを与えるシステムづくりが求められた。ドイツが先行して包装廃棄物政令を1991年に制定・施行した。ドイツのシステムと対比すると、日本のシステムは市町村の分別収集に大きく依存するシステムであり、税金投入型のシステムと呼ぶことができる。
  容リ法では、消費者が容器包装廃棄物を分別排出し、それを市町村が分別収集を実施し、分別基準適合物にするならば、容器包装の生産者はその分別基準適合物を引き取り、再商品化する義務があるという制度である。つまり、法的枠組みを構築して容器包装のリサイクルを「強制的」に進めることにしたということができる。

リサイクルに伴う環境負荷、費用負担のあり方が問題に

 容器包装リサイクル制度の実績はどうであろうか。

 容器包装廃棄物の分別収集を実施する市町村数は容リ法を施行した当初は着実に増加した。リサイクルされる量は増加していったので、その点からだけいえば容器包装リサイクル制度は成功したのであるが、リサイクルの進展に伴っていくつか重大な問題が生じた。一つは、確かにリサイクルは進んだのだが、リサイクルのために多くの税金が投入されているし、それだけでなく、リサイクルするために大量のエネルギーを投入し、リサイクル工程で廃棄物が生じるなど、リサイクルに伴う環境負荷が問題にされるようになった。もしリサイクルすることが環境負荷を増加させているならば、「リサイクルをしてはいけない」というわけである。これは一理ある議論であり、リサイクルをはじめ循環型社会づくりは環境負荷を減少させるものでなければならず、循環型社会は目的ではなく手段であることをあらためて確認させることになった。その後は、やみくもに循環すればよいというのではなく、どんな循環型社会をつくるのかが問われるようになった。リサイクルに偏重するのではなく、リデュースやリユースという2Rを重視すべきだというのである。

 また、リサイクルに要する費用を誰が負担すべきかについても問題にされるようになった。ペットボトルが典型であるが、リサイクルに要する費用の大半は分別収集、そして収集してきた「廃棄物」を分別基準適合物にするプロセスで生じており、それが市町村の負担になっていることが問題になった。EPRの考え方に照らすと、生産者が負担する割合がきわめて小さくなっていることが、容器包装をそもそもから削減し再利用を進める動機付けを失わせているという点で非効率なシステムであるといえるかもしれない。市町村の役割も容リ法によって大量廃棄社会の受け皿ということではなくなったが、大量生産・大量消費の構造は変わらず、大量リサイクルの担い手に変わっただけではないかと考えられた。容リ法の完全施行から5年たった2005年に法見直しの議論がされた際の最大の焦点は容器包装リサイクル制度における費用負担のあり方にあったが、2006年の法改正は微調整にとどまり、この論点は残されたままになった。

循環型社会の制度的基盤をいかに構築するか

 もう一つは、当初容リ法に基づく分別収集を行い、いわゆる指定法人ルートに乗せる市町村が圧倒的に多かったのが、2004年頃から独自処理を行う市町村が急増したことである。これは容器包装リサイクル制度の存立基盤そのものを危うくする可能性すら指摘されている。

 栗田郁真著「使用済みペットボトルの独自処理の実態分析」(『廃棄物資源循環学会論文誌』近刊)によれば、そうした独自処理には二つの傾向が見られるという。一つは、分別収集した容器包装を指定法人に引き渡すよりも、より高い価格で引き取ってくれるところがあるならそちらに引き渡すという価格面の理由からである。もう一つは地元リサイクル業者の育成・支援という観点からである。栗田氏の行ったアンケート調査の結果によれば、前者の理由から独自処理を選択する市町村の業者への価格が高いのに対して、後者の理由から独自処理を選択する市町村では低い価格で引き渡されている。したがって、後者の市町村や指定法人に引き渡した場合に得られる金額が独自処理の場合を上回ったとしても、独自処理を継続する可能性があると結論している。

 ここで明らかなことは、容器包装リサイクル制度がリサイクル市場やリサイクル産業と深い関係を持ち始めており、市場や産業の動向から大きな影響を受けるようになっているということである。前者のケースは、国際リサイクル市場と結びついて生じている。中国をはじめとするアジア地域の急速な経済成長は旺盛な資源需要を生み出しており、日本国内価格よりも高い価格で廃ペットボトルなどの「資源」を買い付けようとするのである。それ自体はきわめて自然な市場メカニズムの働きということができ、「資源」が有効に利用されることはどの国であっても望ましいことである。

 問題は日本の容器包装リサイクル制度に基づいて租税を投入して集められた「資源」が海外に輸出されることによって、日本における資源循環の輪が途切れてしまい、循環型社会の制度的基盤が壊れてしまうことである。
 以上明らかになったように、日本の容器包装リサイクル制度はリサイクルという点で一定の実績をつくりだしたものの、いくつか根本的な課題を抱えているといえる。EPRの主旨を徹底した費用負担の仕組みにすることで環境負荷削減への動機づけが働く制度につくりかえるとともに、制度の不安定性を克服する社会的装置を見出していかなければならない。

(グローバルネット:2011年1月号より)


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