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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第79回 コペンハーゲン合意を実効性あるものに結び付けることはできるのか?〜野心的な法的拘束力をもつ合意に向けて

  • 2010年8月12日

特集/どうなる気候変動対策の行く先 コペンハーゲン合意を実効性あるものに結び付けることはできるのか?〜野心的な法的拘束力をもつ合意に向けて
気候ネットワーク東京事務所長 平田 仁子

 2009年12月7〜19日にデンマークのコペンハーゲンで開催された気候変動問題に対する2013年以降の次期枠組み交渉会議(COP15/CMP5、以下、コペンハーゲン会議)は、世界119ヵ国から首脳が集まる会議となり、これまでにない高い注目を集めたが、その期待に応える成果を出せずに終わった。
 本稿では、コペンハーゲン会議の経過と結果を振り返りながら、今後、野心的な法的拘束力のある合意に向けて必要なことを整理したい。

コペンハーゲン会議の結果

 コペンハーゲン会議は、「コペンハーゲン合意(Copenhagen Accord)」を“留意する”ことを採択して閉幕した。この合意は、最終日の18日夜から開かれた25ヵ国余りの首脳が交渉したわずか3ページの文書である。これまで交渉されてきた論点を政治的に決着させようとしたものであったが、いかにも一夜漬けの粗仕事であり、一部で妥協を図りつつも、多くの重要事項を次に先延ばしにした内容となっている(表)。

 NGOはコペンハーゲン会議で、気温上昇を2℃未満に抑制する野心的で法的拘束力ある合意の実現を求めていた。一方、議長国のラスムーセン首相は、会議1ヵ月前に、コペンハーゲンでは重要な論点に決着し、その後に法的文書が書けるような「政治合意」をつくろうと呼びかけていた。しかし会議の結果はいずれにも至らず、多くを先延ばししただけだった。世界中が失望したのは当然のことといえる。

 コペンハーゲン合意では、長期的なビジョンについて、気温上昇は2℃を下回るべきとしたものの、先進国や世界全体の排出削減目標や排出量のピーク年について言及がされなかった。また、先進国の中期目標(2020年)については、削減目標を定めず、その代わりに2010年1月31日までに各国が目標を記載・提出することとされた。先進国の目標が自国の宣誓によるとされたことについては、削減目標を義務化し、拘束力を持たせた京都議定書の仕組みよりも後退しかねないとの懸念も見られる。

 途上国の削減行動は、2007年のバリ行動計画に基づき、新たに位置づけられたが、合意では、具体的な行動の内容や目標設定の在り方などには踏み込まなかった。しかし、行動を国際的に測定・報告・検証(MRV)することを一定程度確保した。また、資金に関しては、今後3年間で300億ドル、2020年までに年1,000億ドルを、途上国への支援として先進国が約束した。これは、交渉過程で議論されていた金額を超える規模で、首脳らの政治判断によって盛り込まれたが、その資金をどう確保するのかという点は明示されなかった。それ以外の適応や技術移転、途上国の森林減少・劣化対策について、具体的な成果は得られなかった。

コペンハーゲン合意の主な内容
長期ビジョン 世界の気温上昇が2℃を下回るべきという科学的な知見を認識
先進国の削減義務 先進国(附属書Ⅰ国)は、2020年の国レベルの削減目標を実施することを約束し、2010年1月31日までに別表に記載・提出する。京都議定書の批准国は、京都議定書の目標を更に強化する。
途上国の削減行動 別表2に記載・提出する行動を含む、削減行動を実施する。削減行動は、国内の測定・報告・検証(MRV)を経る。その結果は2年に1回の国別報告書で通報され、国際的な協議や分析も行われる。支援を受ける削減行動については、国際的なMRVを行う。
資金 先進国は、2010〜12年の間に300億ドルの新規かつ追加的な資金による支援を行い、また2020 年までに年間1,000 億ドルの資金目標を約束する。
レビュー 2015年までに、条約の究極の目標に照らした本合意の実施の評価をする。それには、1.5℃の気温上昇と関連した、科学が示す様々な問題に関連する長期目標の強化の検討を含む。

コペンハーゲン会議での不手際

 コペンハーゲン会議に向けては、二つの作業部会(議定書AWG・条約AWG)が、それぞれ4年、2年をかけて交渉を続けてきた。コペンハーゲン会議では、この二つのAWGの交渉結果を、それぞれの上部組織となる京都議定書締約国会議(CMP)、気候変動枠組条約締約国会議(COP)に報告し、COP/CMPが交渉を引き取って、最後に閣僚級が政治的に決着すべき重要論点に政治合意することが想定されていた。しかし、その橋渡しに失敗してしまった。AWGでは、170ページにも及ぶ極めて専門的で膨大な交渉文書を作っており、議長はそこから大臣級が交渉可能なシンプルな報告を作ることを画策したが、合意ができず、膨大な文書のままCOP/CMPへ報告した。そしてCOP/CMPがその後の交渉方法を相談している最中に大臣らが到着し、大臣らは交渉可能な文書のないまま交渉することとなった。最終日の夜にようやく大臣らに上げるべき文書の草案作業が始まり、徹夜で交渉したものの、その交渉結果は生かされないまま、25ヵ国程度の首脳らが別室でコペンハーゲン合意を作ってしまった。

 このプロセスに、透明性や参加の包含性に多くの国から異論が上がった。また、大臣・首脳級が政治的に議論するために、複雑に絡み合う交渉のパズルを単純化すること自体の難しさも見られた。交渉官が交渉するには政治的に過ぎ、首脳らが交渉するには専門的に過ぎるという狭間で、この会議で何を目指すのかにすら一致点が見られなかった。

法的合意の実現のために重要なこと

 コペンハーゲン合意には、拘束力はない。また、先進国の拘束力ある数値目標も含まれず、現に1月31日に提出された先進国の削減目標レベルは、昨年のG8ラクイラ・サミットで確認された「産業革命前から2℃を超えない」レベルとはなっておらず、評価しがたいものである。しかし現状は、一部を除くほとんどの国がこの唯一の成果から交渉を再スタートするべきと受け止めているようである。

 ここからどうやって、本来目指すべきである拘束力ある法的合意を目指していくべきだろうか。
  第1に、今後の国連交渉プロセスを確定させ、二つのAWGで交渉を加速させることが必要である。二つのAWGは、この先も継続し、メキシコで開催されるCOP16/CMP6で交渉の成果を報告することとなっている。多数国間交渉の難しさを指摘する声もあるが、今後の交渉も国連の下で引き続き民主的に進めなければならない。建設的な議論が進められるよう、南北の信頼醸成を図ることが求められる。

 第2に、コペンハーゲン合意を強化した上で、法的合意を結ぶ必要がある。先進国の削減目標が自主的な宣誓で済まされてよいはずはなく、米国も含めた法的拘束力ある義務として国際的に定められなければならない。また、「2℃目標」を実現させる、公正で、野心的で、法的拘束力ある合意に向け、緩和のみならず、適応メカニズムや、資金捻出のメカニズム、途上国の森林減少を食い止めるためのメカニズムなども具体化しなければならない。合意実現には、G8やG20なども使いながら、首脳が引き続きリーダーシップをとる必要があるだろう。またその中で、二大排出国である米国・中国のさらなる努力を引き出すことは重要な国際課題となる。
  交渉をめぐる情勢は、以前よりも複雑で困難になっているが、各国が、改めて気候変動問題の厳しさを直視し、真摯に交渉すれば、メキシコでの野心的な合意は十分可能である。

 2℃目標を達成する選択肢はあと数年で失われるといわれており、先送りによって利する国はどこにもないはずである。COP16/CMP6の成功に向け、とりわけ日本を含む先進国は高い削減目標を掲げ、率先してより大胆な行動を取るのと同時に、途上国への資金支援を具体化し、交渉に備えていかなければならない。
(注)筆者は、コペンハーゲン会議には政府代表団として参加したが、本稿はNGOの立場で執筆したものである。

(グローバルネット:2010年2月号より)


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