サイト内
ウェブ

このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第75回 COP10での論点は?〜生物多様性をめぐる国際動向とホスト国・日本への提言

  • 2010年4月15日

特集/生物多様性条約COP10まであと1年(その1)〜何が話され、議長国日本は何ができるのか COP10での論点は?〜生物多様性をめぐる国際動向とホスト国・日本への提言 江戸川大学教授、IUCN(国際自然保護基金連合)日本委員会 吉田 正人

2010年10月18-29日の2週間、第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が名古屋市で開催される。またそれに先立つ10月11-15日には、同条約に基づくカルタヘナ議定書の第5回締約国会議(MOP5)も開催される。筆者は、IUCN(国際自然保護連合)日本委員会会長およびCBD市民ネットワークの共同代表として、生物多様性条約の動きを国内に伝えるシンポジウムを開催、生物多様性条約の主要課題への意見の反映を目指した活動を行ってきた。この立場から、COP10における主要課題とそれに対する提言をまとめてみたい。

生物多様性ポスト2010年目標

 2010年は国連の生物多様性年でもあり、また2002年にハーグで開催されたCOP6において採択され、ヨハネスブルグサミットで各国首脳によって約束された「生物多様性2010年目標」の目標年でもある。これは、「2010年までに生物多様性の減少を食い止める」という欧州連合の目標にならって、「2010年までに生物多様性の減少速度を顕著に減少させる」とした国際目標を採択したものである。しかし2010年目標は、気候変動枠組条約の京都議定書とは異なり、(1)明確なベースラインが定められていない(2)定量化した指標が定められていない(3)法的拘束力のある議定書ではない——などの問題があり、2010年までに明確な成果を挙げることは困難と考えられている。
 IUCNは、1960年代から絶滅のおそれのある生物種のリスト(レッドリスト)を作成しているが、地球上から絶滅するおそれのある生物種は、ほ乳類の5分の1、鳥類の8分の1、両生類の3分の1にも及んでいる。恐竜の絶滅以後の平均的な絶滅速度と比較すると、現在のほ乳類・鳥類・両生類の絶滅速度は100-1,000倍に達し、もしすべての生物種が同様の速度で絶滅しているとすれば、年に1,000種以上の生物が地球上から絶滅していると考えられる。しかし、絶滅のおそれのある生物の多くは熱帯林の樹冠などに生息し、人によって発見され命名される前に絶滅しているため、生物多様性の減少速度を測定するのは至難の業である。また絶滅危惧種として記録されてからでは、手遅れであることも多い。そこで、生物多様性の減少を測定する定量的な指標として、生物多様性の恵みともいえる生態系サービス、生物多様性によって維持される人類の福祉などを指標とする案が出ている。
2008年ドイツで開催されたCOP9
2008年ドイツで開催されたCOP9
 そのような試みの一つが、国連によるミレニアム生態系評価(MA)であり、ドイツのイニシアティブによって始まった生態系と生物多様性の経済学(TEEB)である。MAは、世界95ヵ国から1,360人の自然科学・社会科学者と、生物多様性条約、砂漠化防止条約、ラムサール条約、ボン条約の四つの国際条約事務局が参加して、2005年にまとめられたもので、基盤サービス(生物多様性によって生みだされる大気や土壌等)、供給サービス(食糧、燃料、水等)、調整サービス(気候変動・土壌流出を防ぐ森林等)、文化サービス(自然に依存した伝統的文化等)の四つの生態系サービスを経済学的に評価している。またTEEBは、ドイツのガブリエル環境大臣の求めに応じてドイツ銀行のパバン・スクデフ氏がリーダーとなり、2008年にボンで開催されたCOP9(写真)において中間報告が発表された。気候変動枠組条約において英国のニコラス・スターン博士が2006年に発表したスターンレビューにちなんで、生物多様性版のスターンレビューとも呼ばれている。TEEBは、生物多様性の経済評価法の確立、生物多様性の保全対策を講じた場合の費用と講じなかった場合の損失などに関して、さらに詳細な研究を行う第2段階に入っており、2010年のCOP10ではこれらの研究に基づいたポスト2010年目標を決めることが求められる。
 わが国においては、2009年8月に外務省がポスト2010年目標外務省試案を示し、パブリックコメントを経て、10月に行われる神戸対話において検討され、年末には生物多様性条約事務局に日本政府案として提出される予定である。2010年9月には、国連総会において生物多様性に関する首脳級の会議が開催される予定であり、ここでの日本政府の意欲的な提案が期待される。

遺伝資源へのアクセスと利益の公正・衡平な配分(ABS)

 生物多様性条約は、第15条(遺伝資源の取得の機会)において、「各国は自国の天然資源に対して主権的権利を有する」と認めつつ、「他の締約国が遺伝資源を環境上適正に利用するために取得することを容易にするよう条件を整える」として、生物資源を有する国と利用する国の両方に利益のある方法で、生物資源を利用することを求めている。また第16条(技術の取得の機会及び移転)では、「生物多様性の保全及び持続可能な利用に関連のある技術又は環境に著しい影響を与えることなく遺伝資源を利用する技術について、他の締約国に対する取得の機会の提供及び移転を円滑なものにする」と開発途上国の要望を盛り込んでいる。このためバイオテクノロジー産業への影響を懸念する米国は、地球サミットにおいて生物多様性条約に調印せず、その後クリントン大統領時代に調印はしたものの、いまだに米議会で批准していない。
 2002年にハーグで開催されたCOP6において、任意のガイドラインが採択されたものの、法的拘束力がないために、生物資源の原産国である開発途上国に適切な利益が配分されていないとして、COP9では法的拘束力のある国際制度をつくることが求められた。しかし、日本やカナダが任意の制度で十分としてこれに反対したため、法的拘束力のある国際制度の創設の議論はCOP10に持ち越された。日本としては、米国の加盟を促すためにも、強い法的拘束力を持つ制度には消極的だが、ホスト国として法的拘束力のある制度の創設を取りまとめる責任がある以上、あまり後ろ向きの態度は許されない。

海洋・沿岸の保護と保護地域もテーマに

 このほかCOP10の議題として、集中的に議論する予定となっているテーマとして、陸水生態系、海洋・沿岸生態系、山岳地域、保護地域、生物多様性の持続可能な利用、生物多様性と気候変動などが予定されている。このうち、海洋・沿岸生態系と保護地域を取り上げてみたい。
 2004年にクアラルンプールで開催されたCOP7において、「2010年までに包括的で効率的に管理され生態系を代表する陸上の保護地域を、また2012年までに同様の海洋の保護地域のネットワークを構築する」という目標を採択している。
 これらの目標と現実との最大のギャップは、沿岸・海洋の生態系にある。世界的に見ても、海洋保護区は全海洋面積の0.5%をカバーするに過ぎないが、日本の自然公園において、海中景観を保護するために国立・国定公園内に設定された海中公園地区は約37 km2(日本の領海面積の0.0087%)に過ぎない。とくに、干潟のように生物多様性保全上重要な地域が、全体の7.3%しか国立・国定公園に含まれていない。環境省は、2009年6月に自然公園法を改正して、干潟のような潮間帯を含む海域を指定できるよう海中公園制度の変更を行った。現段階では、法改正がなされただけであるが、COP10までにはこれに基づいた海域の保護地域が拡大されることが期待される。


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。