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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第66回 包括的なバイオマス利活用で持続可能な未来を築く

  • 2009年7月9日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

第66回 包括的なバイオマス利活用で持続可能な未来を築く NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 泊 みゆき

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バランスのとれたバイオマス利用を

 2002年末に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が策定されて6年がたった。この間、近代的なバイオマス利用推進に向けて、政府、自治体、企業、NPOなどが尽力してきたが、まだ成功例は少なく、課題が山積みといっていい状態である。その原因の根本には、地域にある「バイオマス」(生物由来の有機資源)を、一義的にエネルギー利用としてとらえ、事業や地域活性化の手段としていることが挙げられるのではないかと考えられる。
 エネルギー利用は、バイオマスの資源利用の中で最も価値の低い利用方法である。最も価値が高いものとしては、図1にあるように、まず薬用、化粧品、機能性食品などが挙げられる。次が食用で、加工によりさらに価値を高めることも可能である。続くのが、繊維、建材、バイオマスプラスチックなどの工業原料である。続いて飼料、肥料の順となり、最後に位置づけられるのがエネルギー利用である。もちろん、場合によってはこの順位が前後することはありうるが、こうした順序は、世界的にバイオマス利用に関わる文献の最初に記されているものである。
 図2は、熊本県の阿蘇でススキの利用に取り組んでいるNPO法人九州バイオマスフォーラムの中坊真氏が作成したものである。阿蘇山麓は、日本最大の草原地帯であり、最近、セルロース系エタノール原料として注目が集まる草資源を、日本で最もまとまった量の調達が見込める地域でもある。
 かつて牛の飼料とするため、人間が維持管理してきたススキ野原が荒れ、この保全と資源利用としてススキのエネルギー利用(熱・電力供給)に乗り出した。その矢先に、米国のトウモロコシ製エタノール増産政策により、飼料価格が高騰し、日本国内においてススキやワラの飼料としての需要が高まり、価格も上昇するという予想外の事態となっている。
 あるいは、コメについても同様のことが言える。日本のコメの消費量は、ピークの1970年頃から現在では約半分に減ったため、減反政策などを行ってきた。近年は、休耕田対策として、コメからのエタノール製造が浮上し、各地で栽培が始まっている。しかし、小麦粉の代替としての米粉利用、あるいは家畜の餌としての飼料米利用の方が、エタノール製造よりも高く買い取ることができる。農家への助成(税金の投入)も少なくて済み、また、食糧自給率向上にも直接貢献する。
 バイオディーゼル利用が進む廃食油でも、飼料用、工業用、あるいはせっけん原料などほかの用途もある。こうした点を考慮せずバイオマス利用を進めた結果、飼料用あるいは工業利用といった既存利用と競合し、トラブルが生じているケースがある。バイオディーゼルが最も適切な利用法かどうかは、経済性や社会的状況などさまざまな点を勘案してから判断されるべきだろう。

図1 生物由来の有機資源(パイオマス)の有効利用
生物由来の有機資源(パイオマス)の有効利用

図2 草の需要のビラミッド
車の需要のビラミッド

(作成=ポンプワークショップ)

バイオマス・タウン構想の問題点

 農林水産省が進めるバイオマス政策の一つ「バイオマス・タウン構想」も、開始以来4年がたったが、残念ながら成功例はそう多くない。その根本的な理由に、地域の農産物を最も価値の低いバイオマスエネルギー利用で地域振興を行おうとする構想そのものに無理があるのではないかと考える。数少ない成功例では、建材や農産物の付加価値化など、より価値の高い利用が産業として成り立っており、そこで出る副産物・廃棄物の有効利用法としてバイオマス利用を位置づけている(例えば岡山県真庭市での集成材加工とおがくずからの木質ペレット生産など)。さらに、観光と組み合わせたり(滋賀県の「菜の花プロジェクト」など)、アート等より価値の高い利用(徳島県上勝町の葉っぱビジネスなど)により、地域振興として実を挙げている事例がある。
 バイオマス利用は、持続可能な地域社会づくりへの具体策となりうるという点で評価すべきものであるが、地域振興の切り札と位置づけるのは、いたずらに地域の人びとを混乱させているのではないかと懸念される(とくに行政主導のバイオマス利用施設は、その多くで赤字運営か稼動停止という惨めな状況である)。

総合的な観点から見て適切な土地利用を

 こうした点は、海外でも同様で、毒性があるヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)は、食糧と競合しないバイオ燃料原料として国際的なブームを巻き起こしているが、果たしてヤトロファが最良の選択であるかどうかは、慎重に見極める必要があろう。乾燥地に育つ作物は他にもあり、食用とならないことは、生産者にとっては用途が限られるというデメリットでもある。
 今、注目の草木(いわゆるセルロース系)バイオマスについても同じことが当てはまる。木材は、現在においても違法伐採など持続可能性に問題のある利用がされており、仮に世界の輸送用燃料需要を、木材を原料とするセルロース系エタノールで賄おうとすると、現在の木材生産の少なくとも2倍以上が必要となる。あるいは、カーネギー財団による研究によれば、世界中の遊休地にミスカンタス(ススキ)のような生産性の高いエネルギー作物を栽培しても、世界のエネルギー需要の5%程度にしかならないという試算もある。
 世界人口は毎年7,000万人以上増加し続けており、食糧生産や生物多様性を損なわないで生産できるセルロース系原料は、世界の輸送用燃料の一部にすぎないと推測される。バイオマス利用の中には、エネルギー収支が悪いもの、温暖化対策としての効果が見込めないものもある。
 地域の事情や時代の変化により、どのようにバイオマス資源を利用するのが良いかは、さまざまであるだろう。利用可能な土地、あるいはバイオマス資源が地域に存在するとき、どう利用するのが最も経済的、社会的、環境面でよいかをよく吟味した上で事業を実施する慎重さが求められよう。
 2008年10月に発表された「FAO世界食糧農業白書2008」の序章でも、バイオ燃料に関してこれらの点を強調しているが、最近の世界的バイオ燃料ブームを見るにつけ、そうした指摘の妥当性を強く痛感している。


(グローバルネット:2009年1月号より)


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