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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第53回 目途のたたない6%削減〜第一次約束期間開始に向けた日本の課題

  • 2008年6月12日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/低炭素社会〜日本は実現できますか?
目途のたたない6%削減〜第一次約束期間開始に向けた日本の課題
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)専務理事 早川 光俊

無断転載禁じます

 京都議定書は、先進国全体で2008〜2012年までの温室効果ガスの年平均排出量を、1990年比で少なくとも5%削減することを法的義務とした。日本の削減義務は6%で、EU(欧州連合)は8%。アメリカは7%である。その約束期間が、いよいよ来年1月1日から始まる。ところが、2006年の日本の温室効果ガス排出量(速報値)は、削減どころか1990年比で6.4%増となっており、今後5年で現状から12%以上を削減しなければならない。第一次約束期間の開始を目前に控えて、日本が直面する問題点と課題を考えてみたい。

実効性に欠ける京都議定書目標達成計画

 日本政府は京都議定書発効直後の2005年4月に京都議定書目標達成計画(以下、目達計画)を閣議決定した。その内訳は、森林などの吸収源で3.9%(その後、見直され3.8%)、排出量取引などの京都メカニズムで1.6%、温室効果ガス排出量の90%を占めるエネルギー部門の二酸化炭素(CO2)はかえって0.6%増える計画になっている。

 しかし、この目達計画は、以下のような理由でその実効性に疑問が投げかけられていた。

  • 現状の森林政策で3.9%の吸収量の確保は極めて困難であること。
  • 原子力発電の利用拡大が施策の柱だが、新増設が困難な状況が続き、その稼働率も事故や事故隠し等による稼働停止で大きく落ち込んでいること。
  • 最大の排出源である産業部門は、日本経団連の「環境自主行動計画」に丸投げで、その実効性を担保する政策がないこと。
  • 温暖化対策の施策について具体的な実施計画が欠如し、これらの施策が確実に実施されるための担保措置がないこと。
  • 環境税(炭素税)、国内排出量取引や再生可能エネルギーの導入策などの抜本的対策がほとんどないこと。

 日本政府は、第一次約束期間を目前にひかえた2006年末から目達計画の見直しを始めたが、2007年8月に発表された「中間報告(案)」では、約束期間の中間年である2010年度の排出量は目標より最大で2.7%(CO2換算で約3,405万t)程度上回るとされた。しかし、これも吸収源は3.8%を、原子力発電の稼働率を87〜88%と見込んだ数値だ。見込みどおりの吸収量が確保できず、原子力発電の稼働率が計画どおりいかなければさらに目標を上回る。原子力発電の稼働率はこれまで最高でも84%程度で、最近の稼働率は70%程度に過ぎない。

 地球環境と大気汚染を考える市民会議(CASA)などの環境NGOは、このままでは数字合わせのため、京都メカニズムによる大量のクレジットの購入を余儀なくされると指摘してきたが、案の定、日本政府はハンガリーとホットエアーの購入契約を結ぶと報道された。ホットエアーとは、旧東欧諸国の経済悪化で温室効果ガスの排出量が減少、そもそも余剰になっている排出枠で、この余剰排出枠の購入で数字合わせはできるが、現実の排出量は減らない。

政策次第で6%削減は可能

 日本の温室効果ガスの排出量は、電力配分前の直接排出量では、火力発電所などのエネルギー転換部門と工場などの産業部門が60%を占めている。これにビルなどの業務部門、運輸部門のうちトラックや商用乗用車の排出量を加えると、実に90%が産業活動に関連している。このことは、日本の温室効果ガスの排出削減は、産業部門の排出削減がカギを握っていることを示している。

 産業界の自主行動計画の目標は産業界ごとに決めているが、生産が増えそうな産業は総量削減目標を避けて原単位目標とし、生産量が減りそうな産業は総量目標にしている。電力産業は原単位目標、鉄鋼産業は総量削減目標を採用したが、いずれも自主目標すら達成できていない。

 産業関連の排出量を減らすには、まず自主行動計画を政府や地方自治体との協定とし、その目標を総量削減目標とすることが必要である。また、炭素税、国内排出量取引、再生可能エネルギーの導入策などが不可欠で、今回の見直しでも炭素税や国内排出量取引は「検討課題」としてその導入は見送られそうであり、再生可能エネルギーの導入策は検討課題にもなっていない。

 日本の自主行動計画は産業界が勝手に目標を設定し、達成できなくてもなんのペナルティもない。一方でEUの場合は政府などとの協定とされ、未達成の場合は税の減免がなされないなど、履行を担保する制度設計がなされている。

 環境税(炭素税)は、1990年にフィンランド、オランダで導入されたのを皮切りに、多くの国で導入され、一定の効果をあげている。

 排出量取引も、EUでは2005年1月から大規模排出施設を対象に、排出削減を前提とした排出量取引をEU全域で開始。対象施設のCO2排出量はEU域内の45%をカバーするEUの温暖化対策の中心的な対策になっている。このEUの排出量取引制度に、アメリカやカナダの州レベルでの排出量取引制度が連動して動きだそうとしている。

 再生可能エネルギーの普及も日本は大幅に遅れている。ドイツでは、コストの高い再生可能エネルギーを導入しても損をしない買取補償制度が導入されたため、風力発電設備が2,000万kWを超えた。日本の約15倍である。その建設費用の80%程度は市民投資によるものだと言われている。日本の太陽光発電の設備容量は世界一だったが、買取補償制度を導入したドイツにあっという間に追い越されてしまった。

私たち市民ができること、すべきこと

 私たちは1世帯あたり、毎日およそ原油4.5lに相当するエネルギーを使っている。その量は毎年増えており、過去40年間で3倍に増えた。2005年度の家庭部門のCO2排出量は、1990年から13.5%も増加してしまった。私たち市民一人ひとりが、使い方を工夫して消費量を減らす、いらない物をなくしていくなどの省エネ生活の実践が重要なのは論をまたない。

 しかし、家庭のCO2の間接排出割合(電力配分後)は、自家用車の排出部分を加えても、20%程度に過ぎない。このことは、私たちが家庭で省エネに取り組むだけでは温暖化は防止できないことを示している。

 暮らしの中の省エネだけでなく、できるだけエネルギー消費の少ない機器や食品を選んで買うことを心がけるグリーンコンシューマー(環境にやさしい消費者)として行動することも、市民ができる重要な温暖化防止の行動である。また、ラベルなどを活用して省エネ機器を購入することは、企業に省エネ機器の開発を促すことになる。

 前述のドイツが買取補償制度を導入した経験は、個人の努力にも増して、仕組み、制度を変えることの重要性を示している。

加速する気候変動

 今年2月から相次いで発表されたIPCC第4次評価報告書は、温暖化が起こっていることは「疑う余地がない」とし、その原因についても、私たち人間の活動によることをほぼ断定した。

 また、世界平均気温の上昇率、大気中のCO2濃度の増加率、平均海面水位の上昇率などのあらゆる指標が、気候変動が加速していることを明示した。

 工業化(1850年頃)からの平均気温の上昇が2℃を超えると、地球規模の回復不可能な環境破壊により人類の健全な生存が脅かされる可能性がある。平均気温の上昇を2℃未満に抑えるには、2015年頃までにCO2排出量のピークを迎え、それ以後は削減に転じなければならない。このままでは、2040年頃には確実に2度を超える。

 残された時間はほとんどない。

(グローバルネット:2007年12月号より)


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