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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第40回 本来の機能発揮に高まる期待〜地球公共財としての金融の役割

  • 2007年5月10日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/責任ある融資
〜持続可能な原材料調達連続セミナーより
本来の機能発揮に高まる期待
〜地球公共財としての金融の役割
上智大学大学院地球環境学研究科教授
藤井 良広さん

無断転載禁じます

 国連環境計画(UNEP)は地球サミット直前の1992年、UNEP金融イニシアティブ(UNEP FI)という、国際的な金融機関との協力体制を組織して、金融機関の役割を活用して地球環境問題に対処していく方向を打ち出しました。1997年には「UNEP FI宣言」2003年には「UNEP FI東京宣言」が出され「持続可能な原材料調達を進めていく金融機関」「責任ある融資」が求められています。

「責任ある融資」とはCSRの視点から

 企業にはシェアホルダーだけでなく、自然環境や地域社会なども含めて多様なステークホルダーがあります。その中でもとりわけ金融機関というのは、社会的配慮をして取引し、資金を経済社会に供給することが本業であり、その役割は非常に重要です。

金融機関にとってのマルチステークホルダー
金融機関にとってのマルチステークホルダー

 したがって、その役割を考えると金融機関にはその本来機能自体に公共性があるといえます。これはCSRの視点を踏まえたミクロの企業としての重要性であると同時に、マクロの金融システムとしても大事なことです。

 今、世界の市場には明らかにお金が余っています。世界のお金の8割は先進国に偏在しているといわれています。1,500兆円の個人金融資産があるといわれているわが国のお金も、お金持ち、とくに高齢富裕層に偏在します。そのお金を意図して「儲けるためだけでなく、良いことに使おう」としなければ、この偏在が生み出すさまざまな弊害は直りません。そこで、金融の役割が非常に重要になってくるのです。

 では、そもそも金融機関に「責任ある融資」がなぜ必要なのでしょうか。「金融」を英語で「ファイナンス」といいます。その意味をわれわれは「仲介機能」といっていますが、実は語源的にはファイナルを意味し「最終決済」なのです。つまり、「仲介と同時に物事を最終的に取りまとめる」ことが金融の一つの役割なのです。

 また、銀行は英語で「バンク」ですが、これはドイツ語の「ベンチ」から来ているそうです。つまり「金融を扱う人は、ベンチに座って、お金が欲しい人、必要とする人と話をして用立てる」ということです。ですから、「人を見て話を聞き、取引が最終的にまとまるようにファイナンスする」——これが銀行の役割であり、「偏在したお金を経済社会のために資金を必要とするところに回していく」ことが本来の機能なのです。

地球公共財としての環境と金融

 金融の現在のグローバルな流れを考える上で、「地球公共財」というもう一つの概念が重要だと思います。経済学で公共財とは基本的に「誰でも使えます」という「共同消費財」と、「他の人が使うのを拒否できない」という「排除不可能性」という性質を持っています。

 しかし、地球規模の公共財となると、(1)権限のギャップ(国際条約は破られることが多い、等)(2)参加のギャップ(企業や国際的なNGOでも国際間の協議に参加できない、等)(3)インセンティブのギャップ(国際協力の限界、等)——の三つのギャップが生じます。

 この地球規模の公共財は、・大気、枯渇性資源など地球の自然環境全体を捉えた自然共有財・世界共通の規範・原則やインターネット、知識などの人為的共有財・政策、平和、健康を維持する金融システムの安定などグローバルな政策の結果——の三つのタイプに分かれます。それぞれの国家が最終的に公共財を供給できる国内の公共財のケースとは異なる問題があるのです。

 例えば、国家主導の開発プロジェクトが環境破壊を引き起こす懸念がある場合、国家自らが公共財を減少させ、それに反対する意見も封じ込めることが多くあります。しかし、そのプロジェクトで失われる環境が地球的にも重要な公共財だとすると、プロジェクトに資金を供給する金融機関が、国家的な利害を越えて地球規模での判断を加味して、資金供給の可否を決めることが可能です。金融機関はそうした判断をしないと、他の市場で顧客から選別される懸念が生じますし、将来、当該の環境が失われた際の責任を問われるリスクも負います。

 こうした金融の役割そのものが一つの地球公共財としての機能につながるとの見方もできます。実際に、国際的な金融機関は金融の本来機能から見て望ましい社会環境に資するものかどうかを検証しながらプロジェクトファイナンスに取り組むことを宣言した赤道原則を打ち出しています(編集部注:赤道原則は6〜7ページ参照)。同原則は金融が持つ地球公共財的機能を具体化した一つの試みといえます。今年7月からは改訂された「新赤道原則」が適用され、適用対象事業が拡大しました。環境だけでなく、社会性(社会的リスク・インパクト)の評価も必要とされ、原則の範囲も拡大されました。

 政治体制の異なる中国でも今はCSRが求められています。中国には「和諧(「調和」の意)社会」という言葉があります。環境問題や都市・農村問題、貧困格差の問題など、調和のとれた社会を目指していくために、共産主義国家の中国でもやはり「いかにお金を必要なところに円滑に回していくか」ということが現体制の一つの課題になっています。このように、「地球公共財としての金融機能」はいろいろな所で求められているのです。

日本も本格的な取り組みへ

 金融機関はまさに、金融の本業として、金融機関そのもののCSRとして、融資先を社会環境への影響を含めて評価することができるのです。経済的リターンだけでなく、自分のお金をどのような良いことに使ってくれるのかという個々の預金者や投資家の「意思あるお金」に込められた思いをどう実現するのか、お金の出し手側の意識の変化に応えるには、「行き先を見せてファイナンスする」という動きが求められています。まさに金融自体が地球公共財としての役割を担っているのです。

 地球温暖化問題の排出権取引を見てもわかるように、温室効果ガス抑制の規制は国際条約によってかけられますが、温室効果ガス抑制のための適正な取引・価格付けというのはグローバル化した金融市場を使って最適解を求める仕組みです。欧米の金融機関では自らの業務を地球規模でのニーズに合わせて取り組み、収益向上にもつなげる動きが本格化しています。そして日本の金融機関もいずれそうなっていくのではないかと思います。

(2006年10月27日東京都内にて)

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