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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第22回 ミレニアム生態系評価〜この惑星における最初の健康チェック

  • 2005年11月10日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

ミレニアム生態系評価〜この惑星における最初の健康チェック 国連大学高等研究所シニアプログラムオフィサー、ミレニアム生態系評価統括執筆責任者 W.ブラッドニー・チェンバース

無断転載禁じます

地球の健康は危機的に悪化

  われわれはいかにしてオゾン層に穴が空いているのを知るのか?また、地球が徐々に温暖化していること、また、毎年いかに多くの動植物種が少なくなっているのかをどうやって知ればよいのか。これらの生態系の劣化と、それが人類に与えるインパクトの関連をいかにして発見するか?それが大問題である。

 環境問題が人類の生活と健康に与えるインパクトの関係を明らかにするのは神話ではなく科学者たちである。否定主義者や懐疑主義者と直面しつつ、間に合わなくなる前に政治家を説得し、事態を打開するのは科学者たちだ。彼らは真理の追求に身を挺し、知恵を働かせ、正しい決断が下せるような知識を広める。

 過去4年間、献身的な科学者のグループが新しい重要な研究に従事した。1,300人を超える、エコロジー、気候、土壌、水に関する世界的権威である科学者たちが、世界初の世界的生態系の評価に身命を賭した。

 3月30日にミレニアム生態系評価(以下MA:Millennium Eco-system Assessment)プロジェクトは、4年にわたる成果として、世界的な生態系の変化が人類の生活にいかなるインパクトを与えるかに関する最先端の知見を発表した。これは人間が自然から引き出している機能全般を地球規模で記述・評価するための科学者たちの最初の試みで、その結果からこの惑星の健康は危機的に悪化しているということがわかった。

 MAは、天然資源の将来的供給、天然資源にふりかかってくる需要、これら需要にかかるインパクトなどに関して全体像を描いている。人類は地球の生態系からいかなる恩恵が得られるか、24の最も基本的な生態系機能に関する健康チェックを行い、環境の変化が人類の福祉にいかなる影響を与えるかを世間に問うたのだ。

生態系の変化は非可逆的な変化をもたらす

 24のエコシステムの調査のうち、たった4つの機能のみが人間を益する能力を増加させていることがわかった。これらは主に食料に関連したものである。食料に関しては改善しているにもかかわらず、発展途上国では飢餓と栄養不良の問題が増大している。過去40年間に食糧増産は人口の増大を上回っているのに、過去10年間で栄養不良の状態にある人口は25倍にもなり、8億5,000万人にも達している。MAの予測によると、食料安全保障は達成されず、子供の栄養不良は引き続き問題となる。2050年までに地球人口は90億人にも達し、食料への需要は増加する一方、配分の問題もあり食料は重要な問題であり続ける。このようにMAの発見には希望を抱かせてくれるものもあるが、いまだ問題は山積みである。

 悪いニュースも報告されている。生態系機能の60%以上が劣化している。その機能には人間生活に必須な淡水、漁業、水と大気の浄化作用などが含まれる。さらに重要なことは、人間活動の結果である生態系の変化は非線形な反応を起こすということだ。生態系での変化が増大すると不均衡に大きく、非可逆的な効果を引き起こす。例えば、病原菌の発生や水質の突然の変化、または海岸線に「デッドゾーン」が形成され、魚類の壊滅を起こすことがある。非線形は困ったもので、科学的に最善の努力をしてもグローバルな変化が予測できない。

 この話は極端に聞こえるかもしれないが、間違ってはいけない。地球市民はこの惑星に食料、燃料、淡水、きれいな空気をもっともっとと要求しているが、誰もこの惑星に限りがあること、この惑星がわれわれの要求にへばりかけていることなどを想像していないとは驚くべきことだ。

 MAは世銀地球環境ファシリティ(GEF)、国連基金、無数の寄付金提供者から2,100万ドルの資金援助を受けた、4年以上の努力の成果である。コフィ・アナン国連総長はMAを「持続可能な社会へ向けた科学と政治の国際協力の賜物」と言っているが、MAは国連主導ではなく民間組織主導で実行された。国連環境計画(UNEP)はMAの資金管理をしたが、主導的に動いたのはマレーシア・ペナンの世界漁業センター、ケンブリッジの世界自然保護モニタリングセンター(WCMC)、ワシントンのメリデイアン研究所、ニューデリーの経済成長研究所のような民間の科学研究所だ。

自然環境を総合的に把握した初の評価

 これはもちろん最初の科学的評価ではない。しかしながら、これまでの評価は特定の環境問題をとらえて個別に研究されてきた。その結果、淡水、気候、オゾンなどのテーマごとにその評価は別々にされていた。そして、自然環境は個々に分散したものとして扱われてきた。土壌、海洋、河川、森林、植物、動物、微生物などが同じ生態系の一部分であることは誰の目にも明らかだ。これらは互いに関連し合い、地球規模では同じ原理の下に動いている。

 地球システムの各部分は人間の行動やその他の要因で影響を受ける。自然環境とそれが人間生活に与える影響を総合的に把握するためには、科学者はこれらの関連を考慮に入れた上であらゆる面から環境評価をしなくてはならない。科学者の間ではこのクロスセクター方式は生態系アプローチと呼ばれる。

 生態系アプローチは比較的新しいので、科学者たちでも最近採用し始めたばかりだ。その結果、科学者の間でも地球規模の生態系に関しては明瞭な画は描ききれていない。われわれは過剰な人口とその急速な増大が地球の供給力の劣化にどれほど大きな影響を与えているかに無関心だ。

 この世で必要とされる、食料、水、シェルター、燃料、水の浄化サービスなどの生態系機能の劣化は、人類にあまねく影響を与える。豊かな国であろうが貧しい国であろうが、われわれは地球の生態系の劣化の影響を一様に受けることになる。われわれの選択次第で人類、動物、生態系の現在そして未来が多大な影響を被るのだ。われわれが与える悪影響は地球の生態系をますます脆弱なものにし、われわれの将来をますます危うくするのである。

政策転換を今すぐ実行すれば間に合う

 MAの成果は今後、気候変動、生物多様性、砂漠化防止、湿原の保全などに関係する国際環境条約にインプットされたり、各国政府の環境計画策定にあたっても活用される。

 最初のステップとして、人間の存在自体が地球の生態系にインパクトを与えることの認識を科学的に新たにし、より良い選択をしていこうではないか。これらの知識を持ってより持続可能な政策を立案し、より効果的な制度をつくり、未来に挑戦しよう。来るべき世紀はわれわれの世紀より良いものにしなければならない。われわれが現在地球に与えているようなインパクトを地球に与え続けると、地球はこれから100年ももたない。地球に住む限り、地球の能力と限界を理解することの重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。

 しかし、悪いニュースばかりではない。地球の生態系の劣化を防ぐ手だても時間もある。MAの見通しによれば、経済的、技術的、社会的な知見をベースにした政策として取りうる選択肢はいくつか残されている。ただ、成功するためには大幅な政策転換を短期間に行う必要がある。MAの発見が、政策転換は絶対必要で、今すぐ実行すればいまだ望みがあるということを気づかせてくれるはずだ。

(これは英語の原文をグローバルネット編集部が翻訳したものです)

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