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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第116回 モノを売るビジネスからサービスを売るビジネスへ

  • 2013年9月12日

モノを売るビジネスからサービスを売るビジネスへ

 製品を生産することの最終的な目的は、人の活動を支えることにある。製品の生産と消費に伴う廃棄物の排出は、それ自体が目的ではない。廃棄物を含む環境負荷を可能な限り低減させながら、人間のニーズを充足させることができる製品がより製品として評価される必要がある。

 しかしながら、現在のビジネスの慣行が製品の本来の目的と実際の評価のずれを招いてしまっている。製品の所有権を消費者に売り渡す際に得られる収入によって成り立たせる形のビジネスが一般的で、現在の制度では生産者が消費者に所有権を売り渡してしまったならば、その後の製品の管理や廃棄物の処理については、その製品を購入した側が責任を負うこととなる。

 このため、店頭で買ってもらえる製品がその生産者にとって「よい」製品と見なされてしまっている。この状況では、生産者はいかに消費者に気に入ってもらえるかを優先させる形で製品の設計を行ってしまう。製品の長寿命化といっても「自動でクリーニングしてくれる」とか「お手入れが簡単」とか、店頭でアピールできる項目での工夫にとどまっている。

サービスを売るビジネス

 仮に、ビジネススタイルを製品の所有権を売り渡すのではなく、製品から得られるサービスを売り渡す形に変えることができれば、経済全体の環境負荷を引き下げつつ、消費者に従来と同様のサービスを提供することができる。この転換をサービサイズと呼ぶ。第三次産業化するのではなく、ものづくりは継続するものの、生産した製品の所有権を保有したままサービスを提供するビジネスに転換するという意味合いである。

 例えば、蛍光灯を売るのではなく、月単位で「必要な明かりを切らさない」というサービスを売る場合、このサービスを提供する会社は本気で「切れない蛍光灯」を開発しようとするだろう。モノを売っている限り「買い換え需要が損なわれたらどうするんだ」という反対にあって、製品の長寿命化には限度がある。サービサイズの場合、毎月の収入が確保されている上、明かりが故障したらその回収処理の費用がかかるので、長寿命設計が当たり前になり、若干の初期投資がかかったとしても、蛍光灯ではなくLEDで明かりを提供するようになるかもしれない。

 消費者に所有権を移転させた場合、他の製品廃棄物と混合したりして製品廃棄物の質が劣化する可能性が高い。所有権を移転させない場合には使用済みの製品が質を保った状態で回収できる。また、製品の生産者は製品廃棄物を活用するための知見や技術を最も有している。製品の機能が損なわれても製品の部品が全て損なわれるわけではない。多くの部品は再使用することができる。このように、生産者が製品廃棄物に経済的な付加価値を与え得る立場にある。サービサイズによって製品の使用者が自分が所有するものではないという理由で製品を大切に取り扱わなくなる可能性はあるものの、全体としてモノを「使い倒す」ために有効な転換であると考えられる。

 サービサイズへの転換に当たって最大の壁が、廃棄物の処理責任の壁である。現在のように一般廃棄物は市町村が処理責任を負っていて、一般的に税金で処理される状況では、サービサイズに転換して自らの製品の廃棄物処理費用を負担しようとする企業がなかなか現れないのは当たり前であろう。このため、製品廃棄物の物理的、経済的な責任をその製品を生産した者に求める拡大生産者責任の考え方が期待されたが、その具体的な制度化は遅々として進んでいない状況だ。

過剰保有の非経済性への気づきが生んだ新しいビジネス

 ただ、サービサイズは一部の製品について実践されるようになってきた。例えば、最近カーシェアリングビジネスが成長してきている。交通エコロジー・モビリティ財団調べによれば、2012年1月現在、タイムズ24が運営するタイムズプラスが会員数8万5,350人、オリックス自動車のオリックスカーシェアが会員数7万3,364人で、二大カーシェアとなっている。

 タイムズプラスは新型プリウスを含むベーシッククラスの車については、15分200円という価格設定である。また、月額基本料金は1,000円であり、1,000円分は追加料金なく使用することができる。このとき、利用料が1,000円未満の場合でも返金されない。なお、長時間利用の場合の割引プランも用意されている。6時間未満の利用の場合には距離料金は無料であり、それ以外の長時間利用プランについては、距離料金1km15円が加算される。オリックスカーシェアは、スタンダードクラスの車で月額基本料金2,000円の会員については15分200円、月額基本料金無料の会員については15分300円となっている。また、時間料金に加えて距離料金として1km15円が加算される。

 すでに存在する製品を用いて、その製品ではなく、製品から得られるサービスを売るビジネスを行う場合、サービスの対価として将来に渡って得られる収入とサービス提供終了時の残存価値を足し合わせたものの現在価値が、今その製品を販売する対価として得られる収入を上回る必要がある。維持費用と廃棄費用をサービスの提供側が負担するようになることを考慮すると、この値付け方針は「サービスの対価として得られる収入(維持費用を差し引く)とサービス提供終了時の残存価値(廃棄費用を差し引く)を足し合わせたものの現在価値がモノの対価として得られる収入に等しくなるようにサービスの値付けを行う」と修正される。

 ハイブリッド車のプリウス(1,800cc;grade L)を用いてカーシェアリングを行う場合、この値付け方針にしたがってカーシェアリング契約の毎月の必要収入額を計算すると5万4,296円となる。この収入をすべて走行kmあたりの対価で得ようとすると、10年間で10万kmの場合には、月間走行距離が約833kmとなるため、1kmあたり対価は約65円となる。一方、貸出時間あたりの対価で得ようとすると、月720時間、稼働率20%の場合、1時間あたりの対価は約377円となる。さらに、契約者からの月極の会費で得ようとすると、会費が2,000円の場合1台あたり約27人の会員を確保すればよいこととなる。

 前述のように二大カーシェアでは、時間800円、走行キロ15円という値付けといえる。値付け基準に基づく試算と比較すると、時間料金の方で収入を確保する戦略となっているが、おおむね原価を上回る収入を確保することができる。カーシェアリングシステム運用費用次第であるが、新車を市場価格で購入してサービス提供サービスを開始する場合であっても採算が合う可能性がある。

 カーシェアリングは、初期費用や保有費用負担が高いため自動車を保有していなかった消費者層を掘り起こすことができると期待されている。しかし、経済全体では、車に対する需要を引き下げる効果をもたらす。交通エコロジー・モビリティ財団調べでは、2012年1月現在、カーシェアリングサービスのために全国で6,877台が運用されており、会員数は18万8,118人。1台あたり27.4人という状態であり、全ての自動車利用者がカーシェアリングに変わるとすると自動車需要は27.4分の1となる。

 カーシェアリングの事例からわかることは、そもそも製品は過剰に保有されていたのではないかということである。車による移動需要の少ない都会においてマイカーを保有するのは、実際のニーズを上回る過剰な保有である。

 カーシェアリングは、過剰保有の非経済性への気づきが生んだ新しいビジネスである。このような過剰保有の事例はほかにも存在するのではないか。モノを売るビジネスは、購買意欲をあおることによって、あえて過剰保有の状態を進めてきた。サービサイズの進展は、過剰保有の状態の解消を通じて、社会の資源を適正に配置させ、より豊かな社会を実現させることにつながる可能性がある。

グローバルネット:2013年3月号より


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