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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第115回 世界的に始まった気候変化への適応策

  • 2013年8月15日

原発事故による環境汚染と森林生態系への影響

日本における温暖化の影響

 温暖化の影響は、日本ではどのような所に出てくると予測されるのでしょうか。

 まず自然災害を見ると、これまで50年に一回の豪雨が2030年頃には30年に一回の頻度に、つまり強い雨が降りやすくなり、そのために、洪水と斜面崩壊・斜面災害が増加します。実際この強雨傾向は、今から20〜30年後のことではなく、すでに起きているのです。一方、日本海側の降雪量が減るため、積雪水資源が減少し、農業用水が不足する可能性があります。

 では、農業への影響はどうでしょうか。現在の気候帯は北上していくため、お米が穫れる場所が東北から北海道に移動し、リンゴやミカンが穫れる場所もどんどん北上します。

 先日、長野の方と話をしていたら、温暖化によってリンゴの栽培が難しくなったら、別の作物に切り替えようかとおっしゃっていましたが、実はこれも「適応」なのです。悪い点ばかりを見るのではなく、新しく出てくるもののメリットをどう活用するかという考え方も重要です。昨年、共同通信が「新しい果樹を導入し始めている県」を調べた所、47都道府県中11ヵ所で、それが始まっているそうです。

 この他にも、ブナなど樹木の生息地域も北上しますし、人間への影響面では、34℃を超えると急増するといわれる熱中症で搬送される人の数が増加し、チクングニヤ熱やデング熱を媒介するヒトスジシマカの生息限界も北上するなどが予測され、これらも現実に今、起こっていることです。

気候変動に対する緩和策と適応策

 では、これらについて、どう対策を打てばいいのかですが、気候変動については、緩和策と適応策という二つの対策があります。緩和策とは、二酸化炭素(CO2)等の排出を削減するという対策ですが、この緩和策は、そうしないと気候システムが暴走して手がつけられない状態になるのを防ぐことが第一の目的です。

 そこで今、国際的には2℃を目標に気温上昇を抑えようと言っています。産業革命以降、今までに0.7℃気温が上昇しました。それでも、これだけいろいろなことが起きているのですから、仮に気温上昇を2℃に抑えたとしても、あと1.3℃は上昇するわけで、どうしてもいろいろな影響が残ってしまいます。その避けられない影響に対して適応策で備えるという具合に、二つの戦略をうまく組み合わせて、新しい社会を考える必要があるのです。

 この適応策について世界ではすでにいろいろな検討がされていて、欧州連合(EU)の17ヵ国、アメリカなどが国家戦略として取り組みを進めています。一方、事の性格上、適応策をより必要とされるのは途上国であり、2001年の気候変動枠組条約第7回締約国会議(COP7)で、先進国も援助して途上国でどのような対策をとったらいいかを計画するNAPA(National Adaptation Plan of Action)の作成が合意されました。2008年には、その具体化として、世界銀行の気候投資基金(CIF)の下に、気候変動のリスクに対して投資する基金PPCR(Pilot Project for Climate Resilience)が設置されました。

 これには、先進国から1兆円超の基金が積まれ、現在10ヵ国の途上国・地域でケーススタディがされています。さらに昨年から、NAPAを進めた形のNAP(National Adaptation Plan)をつくることにして、その取り組みが始まっています。

科学の知見と、現場の経験が結びついた適応策の立案を

 適応策の一つの特徴は、気候変動予測という不確実性の下で政策決定をすることで、これにはさまざまな障害があります。また、もう一つの特徴として、緩和策は、例えば、地球上のどの地域でCO2を減らしても同じ効果が出ますが、気候変動の影響は地域ごとに全部異なります。ですから、適応策は、その影響が出る地域が主体となって立てなければいけないという点にあります。ですから、地域性が高いということです。

 そのためにどんなアプローチをするべきなのでしょうか。まず数年の間は、現在の政策に基づくモニタリングや早期警戒に取り組む短期的適応策(Real time adaptation)を進めること、しかし、それを積み重ねるだけでは将来の全てのリスクに対応できるとは限らないので、中長期的には、常に最新の科学的情報を組み込みながら、定期的に適応策を見直すという順応的な適応策(Adaptive adaptation)に取り組むことが重要です。

 さらに、適応策の立案には、トップ・ダウンとボトム・アップの双方向のアプローチをするのが望ましいと考えています。すなわち、気候予測などの科学的情報を地域の実情にダウンスケールしていく科学アプローチと、実際に現場で起きている影響、地域の人びとが感じている影響が、現在の政策で対応できているのかを検証する地域アプローチです。

 科学の知見と、現場の経験をどう結びつけていくのかが大切で、両者がつながることで、強力な適応策の立案が可能になると考えています。

 (2012年11月6日東京都内にて)

グローバルネット:2013年2月号より


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