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32億画素って聞いてもピンとこない…。
チリのアンデス山脈の高地に建設された新しい天文台が、私たちが知っている太陽系の常識を吹っ飛ばす新発見をしてくれそうですよ。科学者は、その衝撃度を「テレビが白黒から4Kのフルカラーテレビに切り替わるようなもの」と例えています。
アメリカ国立科学財団とエネルギー省が共同で進めているNSFヴェラ・C・ルービン天文台(以下「ルービン天文台」)は、今年後半から本格的な運用を始める予定とのこと。
天文学向けとしては史上最大となるデジタルカメラと、超高感度で広範囲を一度に捉えられる望遠鏡が装備されたこの天文台は、これまで知られていなかった数百万の小惑星、彗星、その他の惑星の残骸を発見すると期待されています。そのなかには、ちょっと不安になるくらい地球に接近する天体もあるかもしれないのだとか。
クイーンズ大学ベルファストのMeg Schwamb氏が率いる研究チームは、ルービン天文台が発見する可能性のある天体を予測するオープンソースのソフトウェアプログラム「Sorcha」を開発しました。Sorchaとその予測について解説している論文は、査読前の論文を公開するプレプリントサーバー「arXiv(アーカイブ)」で読むことができます。
チームは、ルービン天文台が既知の地球接近天体(NEO: 地球の軌道に接近する小惑星や彗星)の数を約3万8000個から3倍超の12万7000個まで一気に増やし、現在カタログ化されている数よりも10倍多くの太陽系外縁天体(太陽系の天体の中で海王星よりも外側に存在するもの)を発見する見込みです。
さらに、現在の約140万個から500万個超まで増えることが予想される小惑星帯(メインベルト)にある「メインベルト小惑星」についても、色彩豊かで詳細な観測データを提供できるとしています。
ワシントン大学の天文学者で、チームの一員でもあるMario Juric氏は、大学の声明で次のように述べています。
「このデータがあれば、太陽系がどのように形成されたかという教科書の内容をアップデートし、地球を脅かす可能性のある小惑星の発見と、それを回避する能力を大幅に向上させることができるでしょう」
Sorchaは、現在の太陽系の構造をモデル化し、ルービン天文台が将来どんな天体を発見するかを、観測計画に基づいて予測します。
このソフトウェアは、初めてルービン専用として開発された「エンドツーエンドシミュレーター(単独の途中経過だけでなく、最初から最後までの流れを再現するシミュレーター)」です。つまり、遠くの天体から届く光(光子)のシミュレーションや、その観測データから得られる科学的成果まで、一連の流れをすべて再現できるのが特徴なのだそう。
ルービン天文台の「秘密兵器」は、なんといっても3.2ギガピクセル(32億画素)を誇るLSST(Large Synoptic Survey Telescope: 大型シノプティック・サーベイ望遠鏡)です。この超高性能なカメラは、満月およそ45個分もの広大な範囲を毎晩スキャンできるといいます。
しかも、1週間もあれば夜空全体をくまなく観測することができ、今後10年間で毎晩20テラバイトもの観測データを積み重ねて、宇宙の変化を記録した壮大なタイムラプス映像を作り出していく予定だそうです。観測データは、太陽系がどのように形成され、進化したかを解明する手がかりになります。
12万7000個の地球接近天体、10万9000個の木星トロヤ群小惑星、3万7000個の遠方カイパーベルト天体など、ルービン天文台がこれから集めると予測されている観測データの数字を見ても、その規模は圧倒的です。
運用が開始されれば、ルービン天文台の超高性能カメラが天体の色や動きを捉え、自転の速さや表面の状態などを明らかにしてくれることでしょう。そして、その観測結果が、宇宙機関や科学者たちが次の観測対象を決定する際に役立つと考えられています。
Sorchaのプログラムコードは、シミュレーションによる星図や軌道のアニメーションとともに、現在「sorcha.space」で公開されており、研究者たちはルービン天文台のLSSTデータが本格的に届く前に準備を進めることができます。
ルービン天文台による公開イベント「First Look(ファースト・ルック)」は、アメリカ東部時間の2025年6月23日午前11時(日本時間では6月24日午前0時)から開催されます。このイベントでは、史上最大のカメラを搭載した天文台による初めての画像が一般公開されるそうです。
当日の様子は、YouTubeを通じて英語とスペイン語でライブ配信される予定で、リンクは公式サイトやSNSで案内されるとのこと。新しい時代の天文学の幕開けを、世界中の人々とともに祝う機会になるとされています。
Reference: Vera C. Rubin Observatory