「緑のgoo」は2025年6月17日(火)をもちましてサービスを終了いたします。
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母娘問題、職場の人間関係から、性やお金の悩みまで。OVER THE SUN(ジェーン・スーさん、堀井美香さん)のおふたりをはじめ、みうらじゅんさん、叶姉妹のおふたり、上沼恵美子さんなど様々な方に読者の悩み相談に乗っていただきました。「CREA」2025年夏号の一部を紹介します。
今回の回答者は、みうらじゅんさんです。
白髪交じりの髭を伸ばして「老けづくり」に励み、かっこよく世間からはみ出した「アウト老」を目指しているみうらじゅんさん。
「朝一番の映画館によく行くんですが、席に余裕ありという意味の◎のマークを『最高に面白い作品』に付くマークだと自分を洗脳して観るようにしています。そうやって日常を楽しむのが、アウト老のやり口です」
「終活」を始める同世代が多い中、世の中から「くだらない」といわれるものを買い集める「集活」を続け、最近新たに大型の倉庫を借りたのだとか。
「終活というのは、リサイクル業者が少しでも新しい状態で買い取るために仕掛けている作戦だと僕は思っています。自分が死んだあと遺族が困るかもしれない……という声もありますが、お釈迦様でもわからなかった未来を勝手に想像してクヨクヨするのは無駄なことです。『過去は終わったこと。未来はわからないこと』と書いて壁に貼っておくことをおすすめします」
みうらさんのように「今、現在が幸せだ」と無理やり思い込んで暮らすことを心がければ、老いへの不安が減って気持ちが軽くなること間違いなし!
40代後半の上司が、会話中になんでも「あの……ほらアレ! なんだっけ……?」と固有名詞や人名を忘れてしまうのに困っています。老化でしょうか。四六時中クイズを出されているようで「私の知識を試してる?」とストレスです。明日はわが身と思うと辛い。(35歳・女性)
自分もいつかそうなるというサンプルが身近にいるわけですから、ありがたいことだと思いましょう。きっとあなたの上司は頭に入る記憶の容量がもうパンパンなんです。一度、「どんな思い出が詰まっているんですか?」と、話しかけてみては? 上司も話すことで思い出のデータをあなたに移植して何バイトか軽くすることができ、「ほらアレ」の回数が減るかもしれません。
人助けが面倒なら、上司の口から「あの……」が出たら、「あのちゃんの話をしているんだ」と思っておけば大丈夫です。
40歳を過ぎたあたりから、体力や外見の衰えを感じます。以前は楽にできていたジョギングもすぐに疲れてしまい……。顔にシワが増えたり、髪の毛が薄くなったり、どんどん老けていく自分が嫌で仕方ありません。鏡を見るのも怖い。年齢とともに変わる自分とどう向き合えばいいのでしょうか?(44歳・女性)
年齢とともに変わってきた箇所を指差し、声を出して「老いるショック!」と言ってみてください。老いるショックは、あなただけじゃなく、みんなに平等にやってきます。その真理に逆らうことはできません。それに抗って、若づくりを始めるのは、老いるショックの思うツボです。ここは周りと「若見え」を競い合うよりも、ナチュラルにしておくか、わざと老けを盛って「老けづくり」をしてみる。そうすると年齢を聞かれた時に「意外と若いんですね」と言われるかもしれません。
老化はしょうがないことです。しょうがないことには、しょうもないことで対処するのが一番だと僕は思っています。僕もある時、眉間のシワが気になったことがあったのですが、そのシワが「米」という字に見えることに気付いた瞬間、笑えてきました。歳を取ると兎角シリアスになりがちですが、「老化ではなくて進化だ」と思い込み、明るく笑って対処していかれるのがいいと思います。
ジョギングもほどほどに。老いるショッカーになったら、疲れることをする必要はないですから。
あと2年で定年退職ですが、経済的に仕事を辞めることができません。昔は再雇用といえば、ゆったりした部署に配置してもらえたのに、最近は定年後も同じ業務(しかも給料は下がる!)をこなすことを求められ……。ハードすぎる人生100年時代が不安。(58歳・女性)
僕は一度も就職したことがないので定年退職の不安はよくわかりませんが、その代わり自由業(獣道)はいくつになってもキープオン不安な人生です。そこで、こう考えてみたんです。「安定とは不安定と不安定の間の止まり木」だと。安定って本当に一瞬しか訪れません。
だから、不安を感じた時は「不安タスティック!」と叫んでみる。自分が滑稽に感じてきて、不安な気持ちを少しは散らせるはずです。それでも不安が消えない時は、もう一つ別の不安なことを用意してください。不安の持ちネタを二つ以上抱えていたら、人はだんだん肝が据わってくるものです。
ちなみに人生100年時代というのは、都市伝説です。老後の不安を煽って誰かが儲けようとしているだけなので「そんなキャッチコピーに惑わされるものか!」と、強く思っていてくださいね。
若い頃は週末に友達と遊び回ったり、旅行に行ったりしていたのに、最近はすぐに疲れてしまって、何をしても楽しくなくなってきました。人生にハリがなく、なんだか寂しいです。(50歳・女性)
「親族」「他人」「過去の自分」とは絶対に比較しないという「比較三原則」の修行をおすすめします。若い頃の自分と比べるのはやめて「今は行動派じゃないけど、そこがいいんじゃない!」と口に出して言ってみてください。そのためには日頃からの「独り言」が大切になってきます。自分と喋ってケンカになることはありませんから。独り言の中に、たまに敬語を交ぜてみるのもいいでしょう。
若い頃だって「つまらないな」と思ったことが何度もあったはず。でも思い出ってやつは何だって美化するんです。「あの頃、本当に楽しかった?」と、自分自身に問いただしてみてください。「今のほうがマシ」ということもたくさん出てくると思いますよ。
周りから「おじさん」「おばさん」という言葉が出始めて、正直ショックを受けています。年齢を意識させられる言葉に敏感になってしまっています。こんな小さなことで傷つく自分もなんだか嫌です。(36歳・女性)
それは「自分はおばさんだ」と意識しちゃったからでしょう。僕の場合、幸か不幸か一度も「おじさん」という名称にピンときたことがありませんでした。だから「おじさん、財布落ちましたよ」と声を掛けられても振り返らなかったと思うんです。それ故、ご親切な注意を聞けずにお金を損していたと思います。
本来ならもう「おじいさん」ですが、それにも全然ピンときていません。要するに「アウト老」なんですよね。だから「おばさん」と言われたからと焦ることはありません。自分はおばさんであるという意識をなくしてみましょう。
それに大概、マイナス要素がある言葉には濁点が含まれています。まだ「おばさん」が気になるのであれば、「おはさん」と、濁点を取って考えてみましょう。「おはさん、財布落ちましたよ」なら、振り返ってもいいのでは?
そもそも、ちゃんとした大人は料亭の仲居さんのことを「おねえさん」と呼ぶものです。「おばさん」と呼ぶのは、それしか語彙のない子どもかダメな大人だと思って気にしなくていいと思います。
みうらじゅん
1958年、京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。1997年、造語「マイブーム」が新語・流行語大賞授賞語に。
続きは「CREA」2025年夏号でお読みいただけます。
文=臼井良子
写真=末永裕樹