
カレーライスと並び人気が高いハヤシライスが、日本生まれの洋食であることを知っていますか?誕生のきっかけは、明治の文明開化により肉食が広まったこと。「林さん」というシェフが考案した、欧米で食べられていた「ハッシュ・ド・ビーフ」から名付けられた…など、いくつかの発祥説があるなか、有力なのが日本橋にある老舗書店「丸善」創業者が友人に振る舞った料理が起源というもの。その歴史を紐解きながら、“元祖”の味を楽しんでみませんか。
1869(明治2)年に商社として創業し、日本の洋書販売の先駆ともいえる老舗書店の「丸善」。創業の地である日本橋店があるのは、JR東京駅から徒歩7~8分、地下鉄・日本橋駅からはすぐの場所。3階洋書コーナーの一角に、創設者・早矢仕有的(はやしゆうてき)が生みの親といわれている「早矢仕ライス」を提供するカフェ「MARUZEN Café日本橋」があります。
早矢仕有的は福沢諭吉の門下生で、医師でもあり、栄養たっぷりの料理を食べてもらいたいとの思いから、肉と野菜を煮込んだ料理を作って友人たちに振る舞ったのだそうです。そのおいしさが評判になって“早矢仕さんのライス”と呼ばれ、ついにレストランのメニューに登場。現在は書店とコラボレーションしたこのカフェで、当時の味を再現したメニューを味わえます。
お客さんの8~9割が注文する「ポーク早矢仕ライス」は、継ぎ足し継ぎ足しして使っているベースのデミグラスソースに、肉、トマトや玉ネギ、ニンジンなどの野菜を加えて数時間煮込み、完成させています。味の決め手は、フルーツチャツネとカラメル。ソースの色が濃くて甘みが強いのが特徴ですが、トマトの程よい酸味が効いていて一口食べるとスプーンが止まらなくなるおいしさです。
看板メニューの「ポーク早矢仕ライス」と並ぶ人気メニューが、一皿でハヤシとカレー両方のソースを楽しめる「早矢仕とカレーの2色オムライス」。ハヤシソースの濃厚な旨みと、ひと口めは甘く、あとからジワジワ広がってくるカレーの辛みの組合せがたまりません。トロトロの卵の下はシンプルな白飯なので、2種類のソースの味をじっくり食べ比べられます。男性には、さらにボリュームがある「ハンバーグ早矢仕オムライス」の支持率も高いそうです。
「丸善」は、明治の文豪たちの小説にも登場します。その1冊、梶井基次郎の「檸檬」とコラボレーションしたのが、レモンを丸ごと使ったオリジナルスイーツ「檸檬ケーキ」です。中身をくりぬいたレモンの皮に、ふわっふわのレモンムースが詰めてあり、ジュレのようなソースがたっぷりかかっています。
目が覚めるようなキュン!とくる甘酸っぱさは、小説のなかにある“あの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう”(『檸檬』新潮文庫)の一節をイメージしたものなのだとか。
濃厚な旨みのハヤシライスを味わったあとのデザートにはもちろん、リフレッシュしたいティータイムにいただくと、シャキッとしますよ。
店内は大テーブル、2人用、4人用のテーブルのほか、窓際には一人で過ごすのにぴったりなカウンター席も。書店街にカレーやハヤシライスを提供する店が多いのは、本を読みながら片手で食べられるからなのだそう。買ったばかりの本や、お気に入りの1冊を読みながら、ランチタイムやティータイムを過ごしてみてはいかがでしょうか。