2025/02/17 05:05 ウェザーニュース
気候変動による「食」、特に農作物が受ける被害については大規模な干ばつや豪雨による洪水などが浮かびます。さらに温暖化に伴う海面の上昇・乾燥などによる「塩害」の世界的な拡大も、食糧危機につながる大きな要因のひとつに挙げられています。
国連食糧農業機関(FAO)はこのほど発表した塩害に関する報告書で、「地球上の陸地面積の10.7%に当たる13億8100万ヘクタール(ha)が塩害の影響を受けている」との分析結果を明らかにしました。
塩害の影響を大きく受けている地域の詳細や拡大の背景、食生活への影響などについて、FAOの報告書を基にまとめてみました。
FAOは報告書では塩害拡大の要因として、気候変動に関連した干ばつや永久凍土の融解、さらには海面上昇の増大や津波などに加えて、森林伐採や過剰な揚水(河川・湖沼や地下水の汲み上げ)などを挙げています。
「塩害土壌」の定義は、全可溶性塩類(Total Soluble Salts=TSS)濃度が0.1〜0.2%と比較的高いことなどとされていますが、植物が有害な影響を受ける塩分濃度は、植物や塩類の種類、土壌の健康状態や肥沃度によって異なります。
FAOによる推定では、世界の陸地総面積の10.7%に当たる13億8100万haが塩害土壌にあたるとしています。
最も塩害の影響を受けている国はオーストラリアで3億5700万ha、アルゼンチンが1億5300万ha、カザフスタンが9400万ha、ロシアが7700万ha、アメリカが7340万haで続きました。
さらに、イラン(5560万ha)、スーダン(4360万ha)、ウズベキスタン(4090万ha)、アフガニスタン(3820万ha)、中国(3600万ha)と続きます。
オーストラリアやアルゼンチンは国土面積の約5〜6割が塩害の影響を受けており、ウズベキスタンは92.9%とほぼ全土に影響が出ているのです。
さらに塩害で予想される主な農作物収穫量の損失についても分析しています。
ウズベキスタンでコメ72.2%・ジャガイモ39.9%、ナミビアで豆類68.4%・サツマイモ37.7%、クウェートでトウモロコシ31.2%・ジャガイモ25.8%、オマーンでサトウキビ44.7%の収穫量が減少する可能性があるといいます。
塩害は干ばつに似た影響を引き起こします。塩害を受けた土壌は湿っていても、塩類に適応していない作物はしおれて成長が遅く、弱くなり、葉が早く落ちて収量が減少してしまうのです。
塩害が拡大し続ければ、世界の食糧危機に拍車をかける事態にもなりかねません。
FAOの報告書は海面上昇が原因で、沿岸地域に住む10億人以上の人々が21世紀末までに進行する塩害や洪水の脅威にさらされているとしています。
低地は水没し、河口や帯水層は塩分を増します。「多くの発展途上国は、低地が多く、必要な調整を行うための資源が不足しているため、海面上昇に対して特に脆弱(ぜいじゃく)である」といい、特にデルタ地帯の沿岸地域にかなりの人口を抱えるバングラデシュ、中国、エジプト、ベトナムへの影響が大きいとしています。
報告書では、塩害が拡大し続ける脅威から「世界規模での緊急かつ協力的な行動が必要だ」と強調しています。
国土の4分の1が海面よりも下にあるオランダなどでは、塩害に適応するため海水を活用した農業である「塩水農業」の研究も行われ、塩化した土壌でも栽培できるジャガイモなどの開発が進められているのです。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。塩害も遠い国・地域の他人事と捉えず、知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。