2024/09/18 05:02 ウェザーニュース
「地球温暖化」という言葉は、今ではよく聞かれるようになりましたよね。この連載記事のタイトルも「地球温暖化のウソ? ホント?」です。
「気候変動」という言葉も耳にすることがあると思います。
この「地球温暖化」と「気候変動」という言葉は同じ意味なのでしょうか。それとも、何か違いがあるのでしょうか。
気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の解説を交えて見ていきます。
◆A/基本的な意味はだいたい同じですが、異なる部分もあります。
「私は普段、『地球温暖化』と『気候変動』をどちらもよく使うし、それほどこだわって使い分けてはいないのですが、2つの言葉の意味はそれぞれ少し異なります」(江守さん)
どんな違いがあるのでしょうか。
「まず『地球温暖化』は『global warming(グローバル・ウォーミング)』の訳語で、文字どおり、地球、特に地表付近の平均気温が長期的に上昇することです。
それに対し、『気候変動』は『climate change(クライメイト・チェンジ)』の訳語で、気温が上がるだけでなく、降水パターンが変わったり、氷が減ったり、海面が上昇したりと、気候のさまざまな要素が変わることが強調されるニュアンスがあります。
しかし、社会問題としての地球温暖化(問題)と気候変動(問題)は、しばしば同じ意味で使われています。どちらの言葉も、人間活動が原因で地球の平均気温が長期的に上昇し、それに伴って、気候のさまざまな要素が変化し、人間社会や生態系に影響を及ぼしていることを含意しているからです」(江守さん)
「change」の日本語訳は、「変化」ではないかという気もしますが。
「そうなんです。『気候変動』という言葉は、日本政府による『climate change』の訳語なのですが、気候科学の専門家などの間では『気候変化』のほうが適訳であると考える人が多いですね。
『変動』と『変化』を対比させると、『変動』は上がったり下がったりすることを指し、『変化』は別の状態に変わることを指すと考えられます。
『climate change』の『change』は気温が長期的に上がり続けて変わることなので『変化』の方だというわけです。ちなみに中国語では『climate change』は『気候変化』です」(江守さん)
◆A/今のところ、最も多くの人に伝わりやすい言葉は「地球温暖化」であると考えられます。
地球温暖化(あるいは、気候変動、気候変化)の問題は深刻で、世界的に取り組むべきことです。
では、日本人にとって、これらの中で、最も多くの人に伝わりやすい言葉はどれでしょうか。
「気候の問題に関心がそれほどない人たちには『地球温暖化』が最も伝わりやすいという実感があります。
グーグルで『地球温暖化』と『気候変動』の検索数を調べると、『地球温暖化』が圧倒的に多いですね。しかし、15年前と比べると最近は気候変動も増えてきています」(江守さん)
「国際交渉、政策、ビジネスなどの文脈では、英語で『Climate Change』を使うのが一般的なので、これらの場面では、日本語でも『気候変動』がよく使われます。
そのため、気候や環境の問題に関心がある人には『気候変動』が馴染みがあるでしょう。一方、これらにあまり関心のない人は『地球温暖化』と言われたほうがピンとくるのではないでしょうか。
『気候変化』は気候研究者の一部がこだわりを持って使っている印象で、一般にはほとんど使われません」(江守さん)
「気候変動」は最近使われるようになった言葉ということでしょうか。
「そう感じる人もいるかもしれませんが、1988年に設立された『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』、1992年に採択された『気候変動枠組条約』といった名前には『気候変動』が入っていますので、実は『気候変動』も早くから使われていたのです。
しかし、日本では『地球温暖化』という言葉が先に有名になったので、『気候変動』は最近になって知った、という人も多いのでしょう」(江守さん)
◆A/以前は「global warming」が多かったけれど、今は「climate change」がよく使われています。
「global warming」などの英語では、どの言葉がよく使われるのでしょうか。
「グーグルの検索数では、以前は『global warming』が多かったのですが、近年は逆転して『climate change』が多くなっています。
気候の問題に真剣に関心を持っている人ほど『climate change』を使うと考えれば、気候や環境に関心を持つ人が増えていることの現れかもしれません」(江守さん)
少なくとも英語圏では今、「climate change」という言葉に大きな注目が集まっているといえそうです。
◆A/「climate crisis(クライメート・クライシス/気候危機)」などの言葉が使われることもあります。
2023年夏の記録的な暑さをアントニオ・グテーレス国連事務総長が「global boiling(グローバル・ボイリング)」と表現して、大きな話題になりました。「global boiling」は「地球沸騰化」と訳すことができます。
「『地球沸騰化』は、科学的には何が沸騰するのかよくわかりませんが、日本でも流行語になったほどなので、とにもかくにも『暑い』ことを伝える効果はあったと思います」(江守さん)
「気候危機」などの言葉も、最近は聞かれます。
「『地球温暖化』や『気候変動』では深刻さが伝わりにくいという理由で、イギリスのメディアなどでは『climate crisis』や『global heating(グローバル・ヒーティング)』といった言葉も使われるようになっています。『climate crisis』は『気候危機』と訳され、日本でもときどき見聞きします。
『global heating』はそれほど使われておらず、定訳もないでしょうが、『地球高温化』や『地球過熱化』と訳している例はありますね」(江守さん)
世界的に異常気象が頻発するようになったため、それを表したり象徴したりする新語も造られている印象があります。この点について、江守さんは次のように指摘します。
「アメリカで行われた研究によれば、『地球高温化』にしても『気候危機』にしても、その他の言葉にしても、そもそも気候問題に関心のない人たちの中には『何のことかわからない』とか『どうしてそんな言い方をするの?』などと思う人が多いようです。
結局のところ、これまで聞いたことの多い『地球温暖化』や『気候変動』が一番伝わるということです」
地球の温暖化や気候の変動・変化にまつわる日本語と英語の言葉について見てきました。
基本の意味はそれぞれほぼ同じであっても、違う意味も含んでいることがわかりました。
いずれの言葉も、地球の温暖化や気候の変動・変化を危惧する人たちによって発信され、世界に広まっています。
どの言葉を使うにしても、家族や友人、知人、会社の同僚たちと、暑さ、気温、天気、大雨、台風などのことを話題にして、「私たちにできることは何だろう?」といったところまで、話し合えるとよいですね。
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ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
監修/江守正多
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)