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日本で8人だけの切手デザイナーに聞く、スマホ時代に「売れる切手」が生まれるワケ

  • 2019年12月16日
  • Walkerplus

インターネットやスマートフォンの普及の裏で、郵便物の総数は減少している。だが近年、ユニークな形状やかわいらしいデザインの切手が増加。若い女性を中心に、そうした切手をコレクションしたり、風景印を集めるため旅先の郵便局に足を運ぶなど、切手と手紙の新たな楽しみ方が生まれているという。実用品として、収集の対象として当たり前のものとしてあった切手は今どう変化しているのか。日本で8人しかいない切手デザイナーの1人である楠田祐士さんと、主に企画などを行う切手プランナーの林智恵子さんに話を聞いた。

■ 民営化でデザインの幅が拡大、人気の秘訣は「女子目線」

「切手全体での発行枚数は横ばいですが、特殊切手のくくりで言うと増加しています」と話すのは、日本郵便 切手・葉書室係長の林智恵子さんだ。

特殊切手とは、一定枚数のみ製造され、特定のテーマや記念行事を題材にした切手のこと。従来は記念行事や制度が題材になることが多かったが、郵便事業が2007年に民営化して以降、日本郵便が独自にテーマを企画して発行する切手が増加。女性目線を取り入れるなどこれまでの切手のイメージとは一線を画したデザインが生まれたことで、従来の切手コレクターのみならず、若い女性にも人気を集めているという。

これら切手のデザインを手掛けるのが、日本にわずか8人しかいない日本郵便の切手デザイナー。図柄の作成だけでなく、企画の立ち上げ、現地での取材や情報収集、専門家との相談にまで関わる切手デザイナーの1人、楠田祐士さんが2016年から担当する「My 旅切手シリーズ」は、2019年9月に第5集が発行されるなど人気の高いシリーズだ。

京都、鎌倉、金沢など有名観光地を題材しながら、ワインや海鮮丼といった” 女子旅”には欠かせないご当地グルメやお土産をモチーフとして取り入れているのが特長。同シリーズは、「旅をしている切手があったらいい」という切手購入者の意見から企画が立ち上がったという。

「これまでも観光地を題材にした切手はありましたが、神社仏閣といった題材が中心でした。そうではなく、旅先からカジュアルに出せる観光地の切手があった方がいいのではないか、と思い生まれたのがMy旅切手シリーズです」(楠田さん)

その土地を代表する伝統建築や工芸品もモチーフに取り入れる際も工夫を取り入れている。フレームをかわいらしい起き上がりこぼしの形にかたどったり、九谷焼の皿の中央に料理を載せて描いたりと、切手の公共性を保ちつつ、雰囲気がかたくなりすぎない遊び心を両立させているのが近年の切手の特徴の1つと言える。

「切手のサイズでは複雑にしすぎると分からなくなってしまうので、できる限りシンプルなデザインを心がけています。ただ、「ふみの日」切手のデザインのように、ポストに投函する女の子のイラストにほんの少しの背伸びをさせたりというような、少しのアクションがあるだけで想像力をかきたてるので、細部のこだわりも大事なポイントです」(楠田さん)

■ マーケティングを支える全国約2万4000の郵便局

切手の題材の絞り込みには、専門家をはじめ、各地方の郵便局からの声も参考にしているという。たとえば、My旅切手シリーズ第3集に描かれた桃の木と富士山は、山梨県の郵便局員から「『桜と富士山はもちろんとして、桃の花との組み合わせもいい』という意見が挙がったことが選定の元になった」(楠田さん)と話す。

「地域を題材にする場合、地元の方の思いはそれぞれ強いので『これは違うよ』というデザインになってしまうのはもったいないです。せっかく全国に約2万4000の郵便局がありますので、その地域の郵便局の方からなどなるべく意見を訊くようにしています」(林さん)

コレクターのみならず、題材となったものの愛好家も注目する切手。そうした反響は、郵便ファン向けに行うトークショーや、郵便局の窓口などを通じて切手デザイナーまで届いているという。

「2018年に『楽器シリーズ 第1集』を発行した際は、トランペットを演奏される方から『いよいよ切手にトランペットが出たか!』と注目されたようです。なぜこの選出なんだろう、こっちを選んだか、と盛り上がれるのも愛好する人ならではの魅力だと思います。切手は人に送るものなので、送る相手の特徴にあった切手を作って喜んでもらえるのはうれしいですね」(林さん)

デザインの正確さ、切手の季節感、選定の基準など、切手をデザインする上での留意点は多い。“ヒットする切手”を目指し求められているものを汲み上げながらも、万人に広く長く受け入れられるデザインとなるよう要点を抑える秘訣は、郵便局というネットワークに支えられたマーケティング力にありそうだ。

■ 手書きの手紙をインスタにアップ、デジタルだからこそアナログの価値

こうした切手の持つデザインの魅力や限定感は、実用品としてでなくコレクションの対象としても長年親しまれている。近年では、従来のコレクターに加え、若年層による新たな収集方法も見られるようになったと林さんは話す。

「最近ではまるで御朱印帳のように、旅先でその土地ゆかりのデザインの切手にご当地の風景印を押してもらい楽しまれる方もいるようです。富士山のポストカードに富士山の絵柄の切手を貼り、富士山山頂の風景印を押す、といった形ですね」(林さん)

風景印とは、局名や日付のほかに、局周辺の名所や風景を描いた図柄の入ったその郵便局ごとの消印のこと。直接郵便局に出向かないと押してもらえない消印なので、旅行の記念としてや、風景印そのものをコレクションするために押印する人が多いという。

楠田さんは、送られた手紙をSNSに投稿して楽しむケースも増えていると語る。

「手書きの手紙でやり取りするだけでなく、そうした手紙や切手のかわいさや、お揃いのデザインの切手をインスタグラムなどで共有するのが楽しみの1つになっているみたいです」(楠田さん)

スマートフォンの普及でいつでも手軽に情報を共有できるようになったことで、コレクションの写真や過程も発信できるようになった。アナログな手紙や切手は、SNS時代には物体としての存在感や、実際に足を運んだり使わないと得られない記念感や限定感という価値を再発見されている。

■ 切手のデザインで楽しみ方を広げる、“体験”としての郵便へ

手紙の担う価値や役割が変わる中で、切手に求められるものも多様化しつつある。こうした中で新しい切手を作り続けるデザイナーとプランナーそれぞれの思いを訊いた。

「切手デザイナーになってから、切手の世界は思った以上に深かったのだと日々感じています。手紙だとやっぱり思い出の残り方が違うので、周りの人にお土産代わりに送るのもいいですし、自分宛てに旅先から送るのもいいですし。

切手のコレクションも、昔ながらのコレクターの方もいたり、カジュアルに楽しまれる方がいたり、どれもすごく面白いことだと思います。楽しみ方はさまざまなので、切手のデザインでその幅を広げていけるといいですね」(楠田さん)

「切手が素敵だと手紙を出したくなるというパターンもあるのではないかと思っています。この切手で出してみたい、使ってみたいと思っていただけると、切手を作っている側として頑張っている甲斐がすごくありますね」(林さん)(東京ウォーカー(全国版)・国分洋平)

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