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「これからも変化していくであろう場所を舞台にしたかった」細田守監督『未来のミライ』の舞台を語る

  • 2018年8月10日
  • Walkerplus

(前編から続く)2006年の『時をかける少女』から18年の最新作『未来のミライ』まで、ヒット作を連発してきた細田守監督。彼が新作に注ぎ込んだ思いから、旧作に対する思い入れまで、自身の作品についてたっぷり語ってくれた。

■ 舞台のモデルになるのはドラマが根付いている土地

―『未来のミライ』の舞台となった横浜市の根岸や磯子区などのお話をお聞かせください。

細田:くんちゃんたちの住んでいる場所が磯子区と金沢区の間ですね。JRで言えば根岸線、高速道路で言えば湾岸線が近いですね。埋立地の重工業地帯のあたりが舞台です。

くんちゃんが零戦のエンジンを作る工場で青年と出会います。石川島航空工業という、航空エンジンを造る部門が独立してできた会社の、根岸湾の埋立地にあった大きな工場です。そこに住んでいる青年を描きたかった部分もあって、舞台を磯子区、根岸、金沢区にしたところもあるんですよ。時間的にいろいろな時代にジャンプしたりもしますし、一方で同じ場所の未来と過去、時間の蓄積みたいなものも同時に表現できるかなと思いました。

埋立地は変化の激しいところなので、昔と今を見比べるとわくわくするんですよね。今は陸地に見えても昔はその土地の半分くらいは海だったみたいな風景があったわけです。同じ視点から見ても過去と未来とで景色が180度違って見える、そのくらい戦後から今にかけて大きく変化した場所ですから。これからも変化していくであろう場所を、舞台のひとつにしたかったんですよ。

劇中で三浦半島もバイクに乗って周るんですけど、国道16号線をずっと南下して金沢八景の横を通って横須賀市に入ります。横須賀には昔、軍港があって、横須賀海軍工廠という海軍の拠点みたいな施設がありました。そのあたりも通りながら、馬堀海岸があって浦賀があって…さらに進むと三浦半島の端っこ、三浦海岸に到着ですね。

今の磯子区を見ると完全な住宅地になっています。戦後に埋立地がわんさかできて重工業地帯になって、工場に勤める人たちの住宅が必要になったからですよね。それまでは芋畑ですよ(笑)。戦後の日本の中でも比較的、住宅地の開発に着手した時期が早い場所だったと思います。でも、そうなる前は天然の崖だったので、土を切り崩して埋立地にしたんです。ということは地形も変わりますよね。だから地形が変わる前に存在していたであろう崖から海を見下ろすとどんな感じかというのを、今だったら三浦海岸みたいなところに当てはめて考えたんです。

実際に三浦海岸で馬に乗って、わざわざ畑のところを歩いてもらって。当時の磯子の風景を今の三浦海岸に当てはめてみると、昔はこうだったのかなというリアルな想像ができるんですよ。

―実際に乗馬されたんですね。

細田:乗りました。馬上から見た風景とか視界の揺れ方、揺らし方などを実際に体験しましたね。自分で体験するだけではなく、体験しているのを客観的に…スタッフにも乗馬してもらって、その様子を見ることもしました。自分が馬に乗っているだけだと、その主観の絵しか残りませんからね。それを途中でふと気付いて、これだと使える絵がないから客観的に見なきゃと思って急遽(笑)。でもやっぱり昔の磯子の風景を思い返すのに当てはめやすい土地柄で、すごくよかったです。

―絵コンテを拝見しますと、鉄道車両も具体的な描写がけっこうありましたが、監督ご自身もお好きなのでしょうか?また、物や乗り物などの描写にこだわりがありましたらお教えいただけますか?

細田:子供が鉄道好きで、鉄道の本を買って読まされるんですけど、その本を見て今度は僕が驚くんですよ。3~4歳の子用の本でも鉄道の細かいところまでしっかり書かれていて、内容もとても詳しいんですよ。僕みたいに興味のない人だったら中央線は中央線、あくまでも移動用の乗り物でしかないじゃないですか。

ところがうちの子供に言わせると、E233系か、「あずさ」か「かいじ」か「スーパーあずさ」か、みんな中央線だけれどもその中のどれ、みたいな部分まで気になるみたいで。E231系の1000番台がどうでとか…劇中には1000番台が出てきますけど。そういう型番まで、子供が読むような鉄道の本でも書いてあるんですよね。ほかの知識にはまだ乏しくても鉄道だけは詳しい型番まで知っていて、その辺がアンバランスな気もするんですが、それもひとつの子供が見ている世界ということですよね。

例えばくんちゃんが好きなE5系、E6系で有名なのが東北新幹線の「はやぶさ」ですね。E5系って、AIがデザインしたんじゃないかというくらい非常に未来的、先鋭的なフォルムじゃないですか。そんなE5系のデザインを、川崎重工業の亀田芳高さんという方がデザインしていると知って、心底びっくりしました。いざ話を聞いてみると完全に亀田さんが経験と勘と才能でデザインしていたんです。実はその方に今回のお話に出てくる“黒い新幹線”のデザインをお願いしました。

―ちなみに前回の『バケモノの子』(2015)の舞台は渋谷でしたが、これはなぜ渋谷に?

細田:渋谷は魅力的な土地だからですかね。最初は新宿という案もあったんですが、渋谷のほうが映画的に絵になるなと思って。渋谷というのは谷なので、どこを向いても必ず坂道がありますよね。『時をかける少女』もそうですけど、映画に必要な高低差がある場所という点から、渋谷というのはすごく谷の深い場所ですから、ぴったりで魅力的だったんですよね。

―渋谷の現代と過去から発展して、今回の現代と過去の物語につながったのでしょうか?

細田:そうですね。土地そのものの町層みたいなものもあるんですけど、同時に時間による地層感みたいなものが存在していて。単に町の歴史がどうとかではなく、いろんな顔があったことがおもしろいんですよ。そういった積み重ねが何にもない場所は映画にしづらくて。かつてはこうだったのに今は全然違う、今は全く別の顔になっているけれど昔はもっと違う顔を持っていた、そういう町層を感じるのがおもしろいんですよね。この映画みたいなフィクションを通して、土地ごとにどんな層があるかを知っていくのが大切だと思います。

―舞台そのものがドラマを持っているのですね。

細田:だから今回のような変化がある場所が舞台になりますよね。最初からこの磯子に決まっていたわけではなく、もちろん他の候補地もいくつかありました。そのなかでも最終的に絞り込んでいったのは、そういうドラマが根付いている土地ですよね。

―そうして生まれた『未来のミライ』は第71回カンヌ国際映画祭・監督週間で初めて上映され、監督は「初めて作品が生まれた」とおっしゃいました。カンヌという舞台で大勢の観客と一緒に作品を観て、あらためて監督が感じた思いをお聞かせください。

細田:これまでの映画でも映画祭に呼ばれることはありましたが、すべて日本公開後だったんですよ。日本公開が一段落したところで、じゃあ海外配給に行きましょうとか、映画祭にお誘いがかかったから参りましょうとか、そんな感じで。

だから今回は本当に経験のないことでして。日本公開前にカンヌ映画祭にワールドプレミアで、フランス監督協会が主催する監督週間に上映。初めて尽くしですよ。今までは日本公開がいわゆるワールドプレミアでしたから、日本以外のところで正式にワールドプレミアをやるのも初めてですね。

現地で「カンヌ映画祭どうですか?」と聞かれるんですけど、カンヌ映画祭はさておき、この映画そのものを一般の人に観てもらうのが初めてなので、そのことしか考えられませんでした。そして初めてお客さんに観てもらって、やっぱり観てもらうことで映画は完成すると思えました。いくら名作でも誰の目にも触れられないものは完成品とは呼べないのではないかと思うし、観てくれる人がいてよし悪しも含めた感想を言ってもらって、初めて映像作品としての価値というか意味が出るわけです。

だからカンヌでみなさんに観ていただいたことが感慨深かったです。感慨深さが先に来て、「あ、ここはカンヌだ」という感情があとに来たという感じでしたね(笑)。映画記者の方も一般の観客の方も世界中からやってくるわけですけど、思ったよりもずっと温かい雰囲気で、素直に鑑賞してくださっていたと思います。

―最後に皆さんにメッセージをお願いします。

細田:話が小さいようで大きな話、大きな話のようで小さな話。家族の中だけの話のようで、すごく大きな時間の流れに思いをはせる話みたいなテーマを感じてもらえるとおもしろいと思います。小さな家族を描いた作品なのですが、この家族を自分の家族と照らし合わせて、くんちゃんたちに寄り添って観てくださるととてもおもしろい発見があるはずです。ぜひ楽しんで観てほしいですね。(東京ウォーカー(全国版)・ウォーカープラス編集部)

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