
鮎美が作る夕飯は、筑前煮やサバの味噌煮など勝男が好きな和食がメイン。勝男は「美味しい」「いつもありがとう」と言いつつも、「しいていうなら、全体的におかずが茶色すぎるかな?」とアドバイスした。この関係が順調だと思っていた勝男は、しかし、6年目の記念日にプロポーズをすると振られてしまう。失って初めて、彼女がどれだけ丁寧に料理を作っていたかを知る、「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(ぶんか社)を紹介する。「今夜すきやきだよ」(新潮社)で、第26回 手塚治虫文化賞 新生賞を受賞した谷口菜津子さん(@nco0707)の最新作だ。
■世間がおかしくなったのか、自分の価値観が世間とズレているのか
【漫画】「じゃあ、あんたが作ってみろよ」第1話 / 画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社
じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(2) / 画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社
じゃあ、あんたが作ってみろよ第1話(3) / 画像提供:(C)谷口菜津子/ぶんか社
勝男は自分の人生は完璧だと思い、彼女の鮎美にもそう求めていた。しかし、鮎美ははっきりと理由も言わずに、勝男のプロポーズを断り去っていった。
勝男は子どもの頃からモテ街道を歩んできた。これからもモテると疑いもしなかった。でも合コンに行くと何かがおかしい。「筑前煮を作れる彼女がいい」「和食が作れたら魅力的」と話すと「昭和男子って感じ」「化石みたいな人」と笑い飛ばされるのだ。
勝男は戸惑いながらも、鮎美がいつも作ってくれた筑前煮を作ることに。そして、献身的に手料理を作ってくれた鮎美に、いつも上から目線でダメ出しをしていた自分に気づき、鮎美から見放された理由を知るのだった。
「SNS上で時々見かける『料理のダメ出しをする夫への不満』を読んで腹が立ったり、悔しい気持ちになったりすることがあるのですが、もしその『料理のダメ出しをした夫』が自らそのダメ出しをした料理を一から作ったらおもしろいだろうなと思ったのが、この作品のアイデアの種でした」と、谷口さんは本作の誕生のきっかけについて語った。
またキャラクター作りでこだわった点について「『自分自身は本当についていけているのか?』と思うことが年々増えてきていることにも気づき始めました。勝男が主人公なので、男性が価値観を更新する物語のように捉えられるかもしれませんが、どんな方でも変わることへの希望が持てるような物語にしたいと願って、ストーリーやキャラクターを作っています」と話す。
「世間がおかしい」と思った時に、自分の価値観を疑うことができる人は成長できる。そう思わせてくれる作品だ。
取材協力:谷口菜津子(@nco0707)