
右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をわかりやすくコミカルな漫画で描いてきたキクチさん(kkc_ayn)。なかでも、母親の自宅介護と看取りがテーマのコミックエッセイ「20代、親を看取る。」では、自宅介護の現実や、“親との死別”と向き合う中で複雑に揺れ動く感情が描かれており、同じ経験がある人や親の老いを感じ始めている同世代などから大きな反響を集め、2023年に書籍化された。
コミックエッセイ「父が全裸で倒れてた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れてしまう話だ。母の介護・看取りを経たことで落ち着いて対応できることは増えたものの、あの時とは違い、一人っ子として頼れる家族がいない中で様々な決断を迫られることになるキクチさん。いつかは誰もが直面する“親の老いと死”についてお届けする。
今回は、今後の延命措置という重い選択について悩みながらも向き合うエピソードをお届けする。
第11話1-1 / 作=キクチ
第11話1ー2 / 作=キクチ
第11話2-1 / 作=キクチ
第11話2-2 / 作=キクチ
第11話3-1 / 作=キクチ
第11話3-2 / 作=キクチ
■助かる見込みがあれば手を尽くしてほしいけれど苦しませたくはない
病院からの電話で「延命措置」をするかどうかついて意思確認をされたキクチさん。過去に父と交わした会話が思い浮かぶものの、そんな重い決断を父の代わりにするなんて精神的にもかなり負荷がかかる出来事だっただろう。
「まず、延命措置が何なのか全くわからないですよね。延命=生きるってことだから、そりゃ生きてほしい。でも医師と電話で話していくうちに、延命措置というのは『生きる』というよりは『生かす』に近いのかもと感じ始めました。このあたりの認識は人によって価値観が異なるので、何が正解という訳ではないことは前置きしますが、どこからが『生きる』でどこからが『生かす』なのか、私にはわからなくて混乱しました」
第11話4-1 / 作=キクチ
第11話4-2 / 作=キクチ
第11話5-1 / 作=キクチ
第11話5-2 / 作=キクチ
第11話6-1 / 作=キクチ
第11話6-2 / 作=キクチ
「植物状態」や「医療殺人」など、どうしてもセンシティブなキーワードが続く。命を預かる病院側としては日常的な確認作業であり、毎回そこに感情を持ち込むべきではないのだろうと理解はできるものの、もう少しこの選択の難しさに寄り添ってほしいと感じてしまう部分もある。
「そもそも、『延命についての意思』を電話や書面でサラッと確認されることが驚きでした。こちらとしては時間をかけて考えたいのに、『とりあえずで良いんで』みたいな軽いテンションで答えを催促されてしまって(実際はそんなつもり無いんでしょうけど)、そんな簡単なことなのかと病院側との温度差を感じました。ビジネスの場ですら、悩むような議題があれば『一旦持ち帰らせてください』って言うのに。
でも、いつ急変するかわからないから『返事は1週間にします』が、まかり通らない世界なんですよね。それはそれで理解できる事情なので、複雑な心情でした」
一旦この場では「助かる見込みがあれば助けてほしい」と伝えたキクチさん。「考えが変わったら変更することもできる」と告げられ、この後も延命措置に関する確認が3回あったと振り返るが、何か変わっていった思いなどはあったのだろうか。
「母を在宅で介護したとき、母が衰弱して食事も何も受け付けない状態になって『いよいよだぞ』ってなった際の医師からの言葉がすごく印象に残っていて。
『身体が何も食べたくないって言ってるってことは、それが自然な状態なんです。そんな状態の患者さんに、胃ろうや点滴をすることは、苦痛になることもあるんですよ』。
この言葉が、私の価値観にすとんとハマったんです。苦しまないで亡くなることが一番だなと。なので3回の確認も『延命措置はしない』で合意しました。それでも、一人で決めるのは責任が重いです。事前に家族とそういった話をしておけばよかったと感じました」
家族による「延命措置」の選択という重いテーマについて描かれていた今回のエピソード。つらい状況も淡々と、時にクスリと笑える場面を挟みながら描くキクチさんの漫画を、今後も楽しみにしてほしい。