2025年1月31日より全国公開された「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」。本作は、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で主演男優賞に輝いた名優ケイシー・アフレックが主演を務め、実在の兄弟デュオ「ドニー&ジョー・エマーソン」の半生を描いた驚くべき実話の映画。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
映画「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」のメイン写真 / (C)2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.
【ストーリー】
舞台は1979年、ワシントン州の田舎町フルーツランド。10代のドニーは兄のジョーとデュオを結成し、息子たちの才能を信じた父親が建てたスタジオで数々の楽曲を生み出した。そんななかでレコーディングされた1枚のアルバム「Dreamin’ Wild」。家族の協力を得ながら情熱を注ぎ込んで作ったアルバムだったが、世間からは見向きもされず、夢に手が届くことはなかった。
それから約30年後。妻のナンシーと小さなステージでも歌い続けていたドニーだったが、成功しているとは言えなかった。そんななか、アルバム「Dreamin’ Wild」がコレクターにより発見され、“埋もれた傑作”として人気を博していることを知る。思いがけない成功にジョーや家族は喜ぶが、ドニーは目を背けてきた過去や感情と向き合うことになる。
■オスカー俳優&若手イケメン俳優の歌唱力に酔いしれる!
「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」のビル・ポーラッド監督と、アカデミー賞(R)作品賞受賞「それでも夜は明ける」の製作陣がタッグを組んだ本作。10代のころに作った1枚のアルバムが30年後に“埋もれた傑作”として再評価され、注目を集めた兄弟とその家族の半生を描いた驚きの実話を、新たな音楽映画の傑作として完成させた。
ビル・ポーラッド監督は、過去にブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチボーイズのリーダーにしてボーカル&ベース)の栄光と苦悩の半生をブライアン本人公認のもと映画化している。それが「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」。1960年代のウィルソンをポール・ダノ、1980年代のウィルソンをジョン・キューザックが演じていて、二人で一役を演じ分ける変わったアプローチと、全編を彩る数々の名曲が印象的な作品だった。
【写真】作詞・作曲の才能にあふれ、音楽に情熱を注いだ10代のころのドニー(ノア・ジュプ) / (C)2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.
そんなビル監督の新作となる本作で、主演を務めたのは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で名演技を見せたケイシー・アフレック。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」では亡くなった兄の16歳の息子の後見人となるリーを演じており、つらく悲しい過去を抱えながらも甥っ子と心を通わせていき、少しずつ前に進んでいくリーの姿を丁寧に表現していた。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」きっかけでほかの出演作もいくつか観てしまうぐらい、ケイシーのことが好きになった作品でもある。
ちなみにケイシーはベン・アフレックの実の弟だが、ベンのような派手な映画にはあまり出ていないイメージがある。ただ、地味ながらもなかなかおもしろい作品選びをしていて、例えば強盗を繰り返していたアウトローカップルが切ない運命を辿る「セインツ -約束の果て-」や、アトランタで警察の機能を停止させる緊急コードを発動させ、犯罪計画を成功させようとする男たちの姿を描いた「トリプル9 裏切りのコード」などがある。
アクションものからヒューマンドラマまで幅広いジャンルの映画に出演しているケイシーは、本作でドニー&ジョー・エマーソンの楽曲パフォーマンスに挑戦。「あれ?ケイシーって音楽活動もしていたっけ?」と、観終わってすぐに調べてしまったほどギター演奏も歌声も素晴らしく、イケオジ好きな方にはたまらないカッコよさで魅了する。
10代のころのドニーを演じたのは、「ワンダー 君は太陽」や「クワイエット・プレイス」で注目を集めたノア・ジュプ。2020年に公開された「ハニーボーイ」では、前科者の父親に振り回される人気子役の少年を演じていたのが印象的だった。
本作ではステージの上で堂々とギター&ボーカルを務めるドニーをいきいきと演じたノア。少し前まではかわいらしい少年だったが、本作では甘いマスクで歌うイケメン俳優に成長していて驚いた。また、ケイシー同様に素晴らしい歌声を披露しているので、ノアファン必見である。
ドニーの妻ナンシーを演じたのは、「(500)日のサマー」のズーイー・デシャネル。ドラマーとして夫ドニーと共にステージで演奏をこなすカッコいい女性である。誰も2人のパフォーマンスを見ていないシーンはつらいが、そんな経験を乗り越えてきた夫婦の絆にも心揺さぶられる。
ドニーの兄・ジョーを演じたウォルトン・ゴギンズは、クエンティン・タランティーノ監督作「ジャンゴ 繋がれざる者」や「ヘイトフル・エイト」で知名度を上げた俳優で、本作では弟とは違い長年音楽から遠ざかってしまっていた兄を繊細に演じている。
ドニーの父ドンを演じたのは名優ボー・ブリッジス。ドニーの才能を信じ、所有していた広大な土地を手放してまで音楽活動を応援したドンの姿が涙を誘う。
■劇中に流れるドニー&ジョー・エマーソンの楽曲や1970年代前後に人気を博した名曲に注目!
劇中にはドニー&ジョー・エマーソンの楽曲はもちろん、ボブ・ディラン「When I Paint My Masterpiece」、ダリル・ホール&ジョン・オーツ「Out Of Touch」、ジャクソン・ブラウン「Tender Is The Night」、ドゥービー・ブラザーズ「China Grove」など1970年代前後に人気を博した名曲が使われている。どれも胸に染みるようなメロディと歌詞で、極上の音楽映画体験を味わうことができる。
話は変わるが、筆者も昔、音楽活動をしていたことがある。もしも過去に作った曲が時を経て評価され、大バズりしたら?…と鑑賞後に考えてみたが、とてもじゃないけど恥ずかしくて今は歌えないものばかり(笑)。
若かりしころにバンド活動をやっていた人や、プロを諦めたあとも趣味で音楽をやり続けている人など、音楽好きには響くシーンがたくさんある本作。ぜひ劇場の大きなスクリーンでご覧いただきたい。
文=奥村百恵
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